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純白のSと共に  作者: Kanra
36stage群馬湯けむり公道レース
399/435

金曜夜の西の河原

この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。

公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。

作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。

自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。


また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキット及び、筑波サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。

実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。


 単独の状態のまま、九重拓洋はプラクティスを終えた。

 仮設パドックに戻ると、坂野が愛衣に謝罪しているところだった。

(プロってのは、素直に自分の非を認めて謝罪出来るのも、プロって事なんだな。)

 と、拓洋は思いながら、愛衣の横にS660を停める。

「結果的には、元の場所か?九重拓洋。」

 と、坂野大樹が言う。

「なんやかんやで、こうなりました。」

「解らねえな。」

「何がですか?」

「いや、ちょっと―。」

 どうやら、愛衣には聞かれたくない事を話すらしい。

 愛衣から離れた場所で話す。

「お前、あの坂口愛衣のこと、本当は嫌ってんだろ?」

 と、坂野が言うのだから、拓洋は「ふん」と鼻で笑った。

「確かに、恋人として見る事は無くなりましたね。」

 と拓洋は認めた上で、

「今は、最愛にして最強のライバルと思っております。アイツに勝ったその時、もう一度、NISSANのオーディションに参加させていただきます。」

 等と、生意気に言った。

 話を終えると、愛衣の所へ戻る拓洋を、坂野は、

(随分生意気な口を利く野郎だな。まっ生意気言っていられんのも今のうちだろうな。九重拓洋も坂口愛衣も大山神威も、ちっとも怖くねえ。俺に言わせれば、アイツらのほうが怖いわ。今回はいいとして、次のレイクサイド洞爺では、間違いなく、牙を向くだろう。俺に対しても、あいつらに対しても。)

 と、TOYOTAのブースを見て思いながら見送った。

 TOYOTAのブースに、keeper LC500が戻ってきた。

 スーパーGTでは、Keeperのみならず、スープラを手にしたTOYOTA勢は、他者を寄せ付けない圧倒的な戦闘力で、周囲を驚かせた。NISSANは、手も足も出なかった。

 そんなことを知らない拓洋は、後になって、生意気言った事を後悔した。

(坂野大樹なんて、この前の講師だったのに。しかも、ついこの前まで、スーパーGTの世界で、テレビの向こうの存在だったのに、その人と同じ場所に居るってのに、なんで生意気を―。)

 と、自分の生意気な発言を悔やんだがもう遅い。

「お前のその態度は、お前世代のレーサーからは嫌われる。このままでは、いつか痛い目に逢うぞ。」

 と、坂口正孝から説教される。

 そして、その様子を見ていた愛衣は、説教が終わると「バァーカ」と言う。

「お前は、私の腰巾着やってろ!私に勝つその日までな!最も、そんな日、永遠に来ないでしょうけど。」

「腰巾着していたから、お前のその態度を受け継いだような気もするけどな。」

 拓洋はボソっと言った後、車の状態を早見に伝える。

 S660に変な挙動は無く、セッティングの変更の必要はない。

 タイヤもこのまま持たせる予定だ。

 S2000も、明日の予選までには修理完了する。

 拓洋はS660の点検の後、S2000の修理作業に加わった。

 その時、拓洋は見たこと無い車を見た。

 それは、TOYOTAが生み出した新型車両GRヤリスだった。

(アレが、GRヤリスか。まあ、どうせアクアやプリウスみたいなちんけな奴だろう。アウトオブ眼中!)

 と、思った。

 だが、ついさっきその態度で説教されたばかりだった。

 拓洋。

 まったく反省していない。


「ふいーっ。終了終了!汗かいたから風呂行ってくる。」

 と拓洋が言った時、既に日は暮れていた。

 拓洋はS660の点検に加え、S2000の修理も手伝った。

「ムンズ!」と、腕を掴まれる。

「どこ行くの?白旗?」

 と、愛衣。

「いや、今日は西の河原にね。金曜日の夕方に入ったことないんだが。」

 拓洋は言いながら愛衣と共に仮設パドックを後にする。

 光泉寺の石段で、大山神威と塚町南和子と合流。

 石段を下り切った所にある白旗源泉で、松風と三条も加わった。

 だが、松風と三条が加わるといきなり愛衣は、拓洋の腕を掴む力を強める。

(私、学校の先生って嫌い。何でもかんでも「こうだ」って決め付けて、自分の主義主張を押し付けてくる奴ばかりだ。しかも、その、学校の先生に拓洋が初恋って、すっげぇ腹立つんだけど!)

 と、愛衣は思う。

「えっと、西の河原には初めて行くんです。なので、案内は、三条先生に―。」

 拓洋はさっきとはうって変って、やけに腰が低い。

「行く前に、これ。」

 と、三条は温泉まんじゅうを人数分差し出す。

「レースを終えて疲れた状態だと、血糖値が低くなってます。極度に血糖値が低い上に、空腹状態で入浴すると、貧血を起こして倒れる事もあります。それを防ぐ上で、温泉まんじゅう等のお菓子を少し食べると効果的です。まっ、九重は知っているでしょうけど。」

「はい。」

 九重拓洋が返事すると、また、愛衣は拓洋の腕を掴む力を強める。

 西の河原に着いたが、ここで拓洋が金曜日の夕方に西の河原に来なかった理由を思い出した。

 金曜日の夕方は混浴風呂になるからだった。

 それを見た拓洋。直前で、

「あっ悪い。俺、坂野さんと約束あったんだ。えっと、じゃあ―。」

 と言って逃げ出そうとしたが、観念する。

 脱衣室で、

「お前の自業自得だ馬鹿野郎。俺だって恥ずかしいよ。でも、湯あみ着って物があってよかったな。」

 と、大山神威が言う。混浴の時は、湯あみ着を着用の上で入浴することになっていたのだ。

 女性に関しては水着でも可なのだが、草津温泉は金属やコンクリートまで破壊してしまう強酸性の湯(1円硬貨が1週間で消滅する)であるので、場合によっては水着が破壊される事もある。(下手に飲泉すると内蔵が溶ける)

 大山神威は先に入浴してしまうが、拓洋は水をガブガブと飲む。

(ぜってえあいつらと一緒に入ると、逆上せるよ。)

 と、思ったからだ。

 大山神威に遅れて、と言うより、最後に九重拓洋が入浴する。

「あの、拓洋って、中学時代は鉄道マニアだったって聞いてます。その時って、どんな奴だったのですか?」

 と、愛衣が三条に聞いている。

 恥ずかしいので、どこかへ行く。

(俺の黒歴史掘り返すつもりかよ。)

 拓洋は思いながら、身体を伸ばす。

 少ししてから、愛衣が寄ってきた。

「んだ馬鹿野郎。」

「別に。ただ、昔の拓洋を知りたかっただけ。」

「ああそうかい。」

「変なこと考えていたっしょ?」

「考えてねえよボケ。」

 拓洋はいつに増してぶっきらぼうだ。

「つまんない奴。」

 と、愛衣は拓洋の背中に自分の背中をくっ付ける。

「拓洋はさ―。」

「何?」

「いつまで、S660に乗るつもり?」

「そうだなぁ。」

 拓洋は空を見上げた。正直、拓洋はいつまでS660に乗るか分らない。

「死ぬまで。って言っておく。」

「ガソリン車廃止とか言われても?」

「関係無い。好きだから乗るんだ。S660に。それに、お前とだって―」

「えっ?」

「なんでもねえ。」

 拓洋はまた、肝心なところでつまづいた。


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