草津よいとこ薬の温泉
この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。
公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。
作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。
自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキット及び、筑波サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
拓洋と愛衣。そして、新たに大山神威を迎えた3人体制で出撃するのは、群馬県でも、全国的に見ても知名度の高い温泉地で行われる公道レース。
「群馬湯けむり公道レース」である。
草津白根山を時計回りに3周するレースだ。
スタート地点・ゴール地点は草津温泉の外れにある天狗山スキー場。
また、今回のレースより、一般部門が「公道レースRights」と改められ、別日に規模を縮小して行われる。
この、「公道レースRights」には、公道レース初出場となる、真穂と知恵が出撃する。
真穂はCR‐Z。知恵はインテグラtypeR DC5である。
一方、拓洋はS660。愛衣はS2000。そして、大山神威はNSX NC1だ。
一応は汚名返上をした愛衣ではあるが、この公道レースでも大暴れして、更に名誉回復を企んでいた。
今回のレースは、プラクティス、予選はそれぞれ1日だけだ。
限られた時間で、コースを頭に叩き込み、予選に備える。
愛衣は、それに没頭するため、プラクティス前から現地入りして、コースの下見をしている。
他のドライバーもまた、事前配布されたDVD等でコースを覚えたり、実際に現地入りしてコースをみたりしている。
だが、九重拓洋はDVDこそ見ているのだが、見ているのは一部だけ。
九重拓洋は痔の湯治のため、草津温泉に何度も足を運んでいて、草津温泉付近の土地勘があるため、草津温泉の道に精通していると言っても過言ではないのだ。
プラクティス3日前から現地入りしていた愛衣に対し、拓洋が現地入りしたのは前日だった。
自走で、圏央道から関越自動車道に入り、群馬県を目指す。
(どうせなら、榛名山で公道レースやらねえかな。)
と、九重拓洋は思う。
九重拓洋が草津温泉に行く時、渋川伊香保インターで高速を降りる。
理由は簡単。
草津温泉の辺りまで、高速道路が無いからだ。
(軽井沢まで新幹線で行って、バスでなんて旅番組で紹介された事もあるが、上野から特急「草津」が一日2~3本だったか出ているんだ。わざわざ軽井沢に行かずとも、特急「草津」で長野原草津口まで行って、そこからバスに乗ればいい。或いは、高速バスでそのまま行っちまえばいいんだ。)
と、拓洋は思う。
噂の草津温泉行き高速バスを見つけた。
上州ゆめぐり号。
これは、東京を出て、伊香保温泉を経由して草津へ行くバスである。
上州ゆめぐり号は、上里SAで休憩停車する。
拓洋も上里SAに入るが、こちらは給油のみで、給油を終えるとすぐに出発してしまう。
上里を出発すると、すぐに神流川を渡って群馬県に入った。
(何かに付けて、群馬に行くこと多いような?気がするだけか。)
群馬県庁を横目に走る。
赤城山が徐々に近く見えるが、向かうのは榛名山の裏側だ。
渋川伊香保インターで高速を降りると、下道を走る。
一般的なルートとしては、吾妻線に沿って行くルートなのだが、拓洋は、上州ゆめぐり号と同様、伊香保温泉を経由して行く。吾妻線沿いのルートは面白くないと感じるからだ。
伊香保温泉の石段街の前を通過し、ヤセオネ峠を登る。
観光客のファミリーカーを登坂車線等で追い越しながら、グリップをメインに登る。
(こう、観光客が多い時間は派手に攻められ無いからな。せいぜいVSA切って、滑らせて遊ぶ程度。)
と、拓洋は思いながら、5連ヘアピンを抜ける。
溝走りが可能なところでは溝走りをし、ヘアピンではVSAを切っている事をいいことに滑らせて遊んで、高根展望台を通過しあっという間にヤネオネ峠を登りきった時、愛衣からの連絡が入ったので、料金所跡に止まる。
「今どこ?」
「秋名。」
「遅い。早くこいよ。私、待ってんだからね。」
「長野原草津口駅通過時に折り返して連絡する。」
「もう私、ドライブしているからね。」
「ほーい。」
電話を切ると、裏榛名の方へ向かう。
(ドライブって、どうせ一日がかりだろうな。途中で燃料入れてこ。)
と、拓洋は思った。
ガソリンスタンドで再度燃料を満載にした拓洋は、道の駅草津運動茶屋公園で、愛衣を待つ。
「硫黄の臭いがする。あーあっ。温泉入りてえなぁ。」
派手に溜め息混じりに言ったのだが、それを、土谷啓一に聞かれてしまった。
「ほう。お前、温泉好きなんか?」
土谷啓一はARTAのコーチとして、公道レースに参加しているので、ドライバーではない。
現地入りするスタッフを待っていたのに偶然出会した。
「ええ。後、自分、痔持ちで、医者には完治は無理って言われて、ダメ元で湯治に草津によく来ていましたので―。」
「そうか。俺の実家は、別所温泉の温泉旅館だ。土谷旅館って旅館でね。気が向いたらでいいから、泊まりに来いよ。ちなみに、別所温泉に来たことは?」
「1度、日帰り旅で。薬師の湯に入っただけで、トンボ返りしましたが。」
そんなことを話していたら、愛衣のS2000GT1がやって来た。
「お前ら、仲直りしたんだな。」
「ええ。三峰山で殴り合いの喧嘩の末、両方ともダウンです。」
「妙な二人だよなぁ。恋人同士でやることはあまりやらないが、殴り合いはよくやる。しかも、車ぶつけ合ってんだ。」
「最愛にして、最強のライバル。自分はあいつのことを、そう思ってます。」
拓洋は愛衣のS2000に向かう。
「まったく。せっかく温泉でのレースなんだから、少し前入りして、温泉旅行気分を楽しめよ。」
「まさかお前―。」
「そういうことよ!バカ!」
顔が真っ赤になった愛衣は、そっぽを向いた。
「悪かった。んじゃ今夜、俺オススメの公衆浴場紹介してやるから、それで勘弁してくれ。」
「後、メシ!今日の昼メシと夕メシ奢れ!2人分!」
「分かったよ。」
「ほら、S6に乗って、着いてきなさい。無線は!?」
「あるよ。」
「―。チャンネルを3に設定して。私と拓洋だけの、プライベートチャンネルよ。」
拓洋は言われた通りに無線を操作する。
そして、S660に乗車。
愛衣もS2000GT1に乗る。
「準備良い?」
「OK。ああそうだ。土谷さんから伝言だ。」
「何?」
「気が向いたらで良いから、別所温泉の土谷旅館にみんなで来てってさ。」
「ああ。土谷さんの実家か。会社の、オリオン交通のバカ連中も誘ったら?」
S2000GT1に続いて、拓洋も出発。
国道292号を長野原草津口方面へ南下していく。
「いや、あいつら誘ったら、夜中までどんちゃん騒ぎしてうるせえったらありゃしねえよ。」
「それが、旅行の楽しさってもんじゃね?」
「温泉は静かに、ゆっくりしたいもんなんでね。」
「何?じゃ、今夜、私と別部屋にしようか?」
「えっいや、えっと、その―。」
拓洋と愛衣の痴話話が出来るのは、拓洋がコースを知っているからだ。
「お前と、一緒に、温泉街を回れたら良いなっては思うよ。それは、草津でも、別所でも。」
「ふーん。」
愛衣は嫌らしそうに鼻で笑った。
(ゲームの世界から引っ張り出したS2000GT1を転がして温泉旅行するアホは、俺と愛衣くらいなものだろうな。)
と、拓洋は思ったのだが、それは口にしなかった。




