大血川約7キロ最後の闘い
この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。
公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。
作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。
自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキット及び、筑波サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
寺の小路の交差点で、予想外のオーバーテイクを決められた愛衣。
だが、この先は、下り坂はゆるくなり、場所によっては道幅が広がる高速セクションもある、大血川沿いのセクションだ。
しかし、先も言及したが、路面は荒れて、落石や落葉が落ちている場所も多い。定峰峠秩父側の川沿いのセクションのような場所と言いたいのだが、その感覚で走ってしまうと、必ず、事故が起こる。
進行方向左側を見ると、谷底が見える。
S660が先行。
拓洋は後を追う愛衣のS2000が、大血川とこの道が合流する場所のヘアピンで仕掛けてくると考えていた。
(だが、あそこは―。)
「大血川のヘアピン。拓洋はあそこを間違えて答えた。あそこでは溝走りは出来る。だが―。」
「ヘアピンの頂点で、溝は変わる。蓋の無い側溝に。」
ゴール地点で、正孝と利夫が話す。
「拓洋は、ヘアピン全体での溝走りは可能と回答した。だが、違う。」
その、ヘアピンが近付く。
拓洋は、ヘアピン手前の緩いS字を流した後、変形溝走りの体制を取る。
「ギャぁーーーーーーーーーーっ!」とタイヤが鳴る。
そして、斜面をバンク変わりに、勢いを止めると、ヘアピンの溝にフロントタイヤを落とす。
だが、落としたのは一瞬だけで、すぐに溝から出た。
溝の先に、何かが見えたのだ。
狼だと思い、溝から出たのだが、それは蓋の無い側溝の穴だったのだ。
「危ねぇ。」
「まさか、コースを知らない?だったら、前に出てあげるよ!」
と、愛衣は言う。
愛衣もまた、溝走りをしたのだが、拓洋と違い、突っ込み重視の溝走りをしただけであり、拓洋は偶然にも突っ込み重視の変形溝走りになっただけだ。
そして、次の左コーナー。
(ここは、グレーチングを過ぎたらドリフト。その手前でやったら失速。)
S660がグレーチングを通過。その瞬間、拓洋がサイドブレーキを一瞬引いて、ドリフト。
「驚いた。ターンインのタイミングで、デカイカウンター当てていたのが少なくなっていたり、引っ張られたりと。でもね―。」
愛衣がツインドリフトで進入。
「ちっ。こう、後ろからツンツンされるとな―。」
と、拓洋は舌打ちする。
まだ、道幅は狭い。
しかし、川に降りてきたら、急なコーナーは少なく、緩いコーナーが増え、勾配も緩くなる。
そうなれば、馬力のあるS2000の方が有利になってくる。
前方に、シケイン状のS字複合コーナーが見えた。
(シケインなら、突っ込み勝負仕掛ける。俺のブレーキングで、愛衣を騙す。)
(そうするでしょうけど、残念ながら、引っかからないよ。)
拓洋の作戦とは裏腹に、ここまでの間で、それをやると見た愛衣は、拓洋のテールライトやブレーキランプではないところに集中していた。
それは、拓洋のS660のヘッドライトが照らす道路だ。
これを見て、自分のブレーキングポイントを探り出し、S660の勢いに吸い込まれないようにしたのだ。
これにより、失速は最低限に済ませ、シケイン状のS字を抜けてしまう。
(シケインでブラックホール戦法。そう何度も効かないか。そうなると―。)
拓洋はすぐに、次なるポイントでの戦略を練る。
(この先にダブルヘアピンがある。ここで差を広げられるか。だが、どうするよ。勾配が緩くなれば、分があるのはあっちじゃねえか。)
枯れ枝を踏み砕く。
(こうなったら、どうにでもなりやがれってんだ。無理矢理にでも、ライン潰してでも、ブロックするしかないだろう。)
ヘアピンが見えた。
アウトサイドから高速ドリフトで進入するS660。
しかし、S2000がインサイドに飛び込み、サイドバイサイドになった。
2台並んで、ドリフトでコーナーに入る。
(大丈夫!ここは2台並んで行ける!次はこっちがインサイドだ。前に出られるはずねえ!)
と、拓洋。
しかし、それは油断だ。
最初の右コーナーを抜けた瞬間、拓洋は戦慄した。
次の左までの間で、道幅が狭まる。
しかも、拓洋が居る側から道が狭くなっていくのだ。
「三郷スカイラインで須川さんを抜いたときと同じシチュエーション。」
「ちっ!ミスったぜ。」
拓洋は、愛衣のS2000の後に逃げ込むが、腹いせに、S2000のリアにフレンチキスさせた。が、勢いがあったらしく、火花が散る。
「コラ。」
と、愛衣が舌打ちする。
「随分激しいね。もっと激しくやる?」
「―。」
ドリフトの真っ最中で、拓洋は声を出せない。
「ほう。もっと激しいのを所望か―。」
「痛ぇ!」
横Gに襲われて、身体が痛いのだ。
「デブと違って、俺は骨に直撃だから、筋肉痛を通り越して、骨痛になってんだよ!」
「体鍛えろ!」
「どんだけこっちが痛ぇと思ってんだよ!」
「筋肉付けろバカ!」
ヘアピンを抜けると、次は右コーナー。
道幅は車1台分。
S2000はドリフトで行くが、拓洋はグリップで加速しながらクリアしていく。
S2000のタイヤから僅かにタイヤスモークが発生。
拓洋は、S660のアクティブスポイラーを使用しダウンフォースを増加させて、S2000に喰い付いていく。
後追いになったS660は、S2000のスリップストリームの中に入り、S2000から離されないようにしている。
だが、しばらくの間、オーバーテイクは難しい。
拓洋はグリップで食いつく。
しかし、愛衣はドリフトがメイン。
(こいつ、まさか―。)
「ちぎったら、寂しい。」
「―。」
拓洋は黙り込んだ。
(釣堀跡の橋の先のシケインでヤるか。)




