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純白のSと共に  作者: Kanra
4stage越えられない峠
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暗雲

「越えられない峠?」

「うん。そう言っていた。」

 坂口愛衣は夕食の後、九重拓洋が言っていた事を話す。

「クラッシュの恐怖を抱えているって事かな?」

「それはない。あの後会ったけど、峠を走る事には何も支障はない感じだった。」

 真穂も知恵も、分らないという顔を浮かべる。

「車のせいじゃない。峠を越えられない車は無いと言っても過言ではない。」

 と、目の前の白黒の車を弄る父が言う。

 AE86スプリンタートレノ。あの漫画の主人公が乗っていた車だ。

「車の真価ってのは車自体の性能とドライバー自身の知力と能力が合わさって初めて現れる。S660は峠を越えていた。事故の後も越えた。って事は解かるだろう?」

「ドライバー側に何かが―。」

 知恵が言う。

「越えられない峠か。俺にもあった。それを越えられるか、越えられないか、人生ってのはそれで決まっちまう。もし、俺がそれを越えられないで居たのなら、お前達はいないよ。」

 

 今日も仕事。

 久しぶりに、千葉方面への長距離の旅客。

 泉ガーデンから千葉県千葉市だ。

 混雑を避けるべく、湾岸線を経由して行って欲しいと言う事で湾岸線を突っ走って千葉市まで行き、旅客を降した後は、また湾岸線を突っ走って都内へ帰る。

 日が暮れて暗くなり始めた湾岸線。

 背後に千葉市の明りが見える。

 湾岸線は広く、また流れも良いため気分が良い。

 横を走る京葉線の線路を、赤いラインの入ったE233系が千葉方面へ多くの通勤客を乗せて走っていく。

 湾岸線も漫画の舞台になった道だ。

 だが、こんなところを300キロで走るなんて正気の沙汰ではない。

 ぶつかったら死ぬ。

 昇仙峡ラインでの事故で生きていたのは本当に奇跡に近かった。

 あのとき一緒に走っていたバカ連中の内、2人はその後、サーキットで派手に死んだ。

 後で知った事だが、走る前の点検も行わないで走って、結果、ロードスターはタイヤがグリップ力を無くし、運転席側から側壁にヒットしてバラバラ。R34はブレーキが焼き切れて効かなくなり、300キロ近い速度でクッションも側壁も突き破って沢に落下したらしい。しかも、R34はイケメン声優として名高い宮古と言う男で、最近、車のアニメで主演を演じて見栄を張って何も考えずR34を買って暴走行為を繰り返していたというのだ。

 そんな連中とバトルして、車を壊したと思うと、俺も低レベルな奴だと思う。

 だが、それよりも重要な問題がある。

 それは、今、俺は越えられない峠が出来てしまった事だ。

 走れない道がある事は、走り屋としてもレーサーとしても、タクシードライバーとしても問題だ。

 将来的に観光タクシーのドライバーとなった時、そこを通れなければ仕事にならない。

 更に厄介な問題は、越えられない峠が複数あって、そのうちの一箇所は観光タクシーの仕事で行くこともあると思われる場所でもある。

 群馬県と長野県の県境。

 かつては、EF63重連とEF62が活躍した信越本線、いや、日本の鉄道最大の難所と言われる峠。

 碓氷峠だ。


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