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純白のSと共に  作者: Kanra
4stage越えられない峠
32/435

試験走行

 メインストレートを突っ走るS660。

 1コーナーに突っ込む。

「白に青のラインが入って復活。でも、本気を出していない。まっ無理も無いか。」

 坂口愛衣は旗を持ち、司令塔から単独で走るS660を見る。

 最終コーナーを立ち上がって、再び、メインストレートに飛び込んでくる。

 表示されるタイムを見る。

(前より遅い。もっと早かった。)

 走行時間終了。

 最終コーナーからメインストレートに突っ込んでくるS660にチェッカーフラッグを振る。

 ピットに戻ってくるS660。今日の午後、走る車はS660だけだ。

 午前中はミニバイクのレースだったのだが、午後は暇だ。

「もう1本行く。タイヤは大丈夫だ。」

 と、九重拓洋は言い、受付に居る知恵の所へ行って次の走行枠も確保。

「その色は東海道新幹線?それとも、秩父鉄道?」

「秩父鉄道って思っておいて。」

「まったく。車直して、更に今日はここで安物だけどレーシングスーツ買っちゃって。更にはヘルメットも買って。」

「峠の走り屋はちょっとしばらくの間、止めとく。んで、サーキットで走って、行く行くはD1グランプリとか、ハコのレースとかに参戦してみようかなって思っている。」

「無茶、しないでよね。」

「宮野だか宮古だか知らねえが、安曇野でど派手にドンガラガッシャーンとやって死んだチャラチャラ勘違いのクソガキの事か?ガードレール突き破って崖下に落ちて死ぬってバカじゃねえの?カッコイイ顔が台無しだってヘルメットも付けず、ダサいからってロールバーどころかシートベルトも着用しないって馬鹿じゃねえの?確かに、オープンカーはロールバー付けられないけどGTRだろ?まっ俺のS660を一度殺したんだ。良い気味だぜ。」

 再びS660に乗る九重。

 エンジンをかける。

(大宮55し62‐2。車のナンバーに「死」を連想させる文字を選択するなんて。自分でナンバー決める時じゃないと「し」って文字を入れる事はない。死をも恐れないと言う意味合いのつもり?)

 と、思いながら、坂口愛衣は司令塔に登る。

 今日の走行枠は、今、九重拓洋が走る枠で終わりだ。

(宮古卓は、ヘルメットもしないで走行。ロールバーも付けず、バケットシートでもなく、おまけにベルトもしてないエアバック外す。バカなのかって言葉も出ない。崖から落ちてペッシャンコ。割れたフロントガラスが首に突き刺さり、自身もフロントガラス突き破って吹っ飛んで、沢の岩に顔面ぶつけ、イケメンって言う金髪チリチリのチャラい顔は、原型も留めないほど潰れ、身体はバラバラになって即死。スポーツカーは、カッコいい。でも、カッコつけるための道具にしていたら、痛い目を見るだけよ。)

 坂口愛衣は吐き捨てる。

 1週目を終えたS660がメインストレートに突っ込む。

 1コーナーに突入。コーナー立ち上がって2コーナーへ。

 タイヤを鳴らしていない。直したばかりの慣らし走行だからだが、慣らし走行でサーキットを走る者も滅多にいないだろう。

 一部の職員が帰るのが見えた。

(あのバカが走るって言うから。)

 と、溜め息を吐く。

 走行時間終了。チェッカーフラッグを振る。

 ピットに戻ってくるS660。九重拓洋は少し疲れていた。

「ちっとばっかし疲れたな。さっさと片付けて、武甲温泉でも入って帰るか。」

 と、言う九重拓洋を、坂口愛衣は見つめる。

 更衣室で私服に着替え、レーシングスーツとヘルメットを助手席に乗せる。

「ああそうだ。非常用工具が袋から出ちまったんだ。走っているとき、前からガチャガチャうるせえったらありゃしねえよ。」

 フロントのボンネットを開けて、ユーティリティボックスの中に格納されている非常用工具を袋にしまい、ついでに、畳んだレーシングスーツを押し込む。

「何の為に走るの?タクミ。」

 九重拓洋に、坂口愛衣が問う。

「分らない。強いて言うなら、彼女の事を振り切るためかな。」

「本当に浮気だったの?」

 勢い良くボンネットを閉める。

「ああ。俺が一番嫌いなチャラ男と、仲良く話しながら出てきやがった。」

「彼女と、それ以来連絡取ってるの?」

「向こうから来ることはあるが、ほとんど無視だ。」

「それだけじゃ、今、こうして私とタクミが話しているだけでも、浮気になるよ。」

 運転席に座った九重拓洋は、エンジンをかける。

「何が言いたい?」

「別に。ただ、もし、浮気じゃないのに浮気したと勝手に決め付けて、S660壊したんなら、ただのバカよ。」

「なあお前、好きな奴居るのか?」

「えっ?」

 今度は、坂口愛衣が引いた。

「ちっ。解らねえな。とにかく、しばらく走りに没頭したい。俺、越えられない峠が出来ちまった。」

 そう言い残し、九重拓洋はS660でサーキットを去った。

「私達も、帰ろう?」

 と、知恵が自分の白い車を持ってきて言う。

(白いタイプR。私だけはなぜか、3姉妹でタイプRじゃない車に乗っている。そして、私も分らないでいる。何の為に走っているのか。S660の姉にあたる車に乗っているのに―。)


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