復活のインパルス
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
真っ白な車体に青が入ったことで、引き締まったように見えるS660。
初秋の秩父路へ足を向ける。
明日まで仕事は休み。
国道17号と国道140号で、向かうのは秩父サーキットだ。
今日も午後の走行枠で走行するが、走行する前に、坂口さんの蕎麦屋に寄り、この前のお礼を言う。
熊谷から国道140号を秩父方面へ走っていくと、新幹線の線路が横に見える。
そこを、北陸新幹線W7系が颯爽と突き進んで行く。
秩父鉄道三ヶ尻線と立体交差すると、新幹線の線路は見えなくなった。
初秋の青空の下、純白に青のラインが入ったS660が走る。
純白のボディーの下とエンジンルームの後に青のラインが入ったS660は一瞬、個人タクシーを思い浮かべるかもしれないが俺は、タクシーは嫌いだ。
「タクシードライバーがタクシー嫌いとは何事だ」と言われるかもしれないが、どっかの豆腐屋のハチロク乗りの親父だって、豆腐屋のくせに豆腐が嫌いだと言っているのだからそれと同じだ。
(坂口さん。この車を見て、なんて言うかな?まっ個人タクシーって回答が帰ってくるに決まっている。)
寄居から皆野寄居有料道路を走る。
秩父鉄道に沿って行く国道140号は、ライン下りで名高い長瀞付近で混雑する恐れがあるが、有料道路はそれを回避出来る上、荒川に沿う形の秩父鉄道や国道140号のルートをショートカットして行ける。
まあ、S660は車高が低い上に窓は開いてもちょっとしか開かないので、料金所で難儀するけど。
有料道路から、国道140号に戻り、秩父市内へ入ると、坂口さんの蕎麦屋に向かう。
彼女の蕎麦屋は国道から小路に入って行くが、駐車場は狭く、4台しか止められない。まあ、それが車利用の観光客を遠ざけ、秩父鉄道利用の観光客や地元の人に愛される要因にもなっているのだが不便かと言われると不便だ。
開店は11時。その時間ちょうどに到着。
平日の水曜日。お客は俺だけのようだ。
「こんちわーっ。」
と、店に入る。
「あっ九重君!」
出てきたのは坂口愛衣の姉、真穂だ。
「先日はお世話になりました。」
「車治ったの?」
「はい。ここでお昼食べて、秩父サーキットで試運転します。」
「んじゃ、そばがきの天麩羅ともり小お願いします!」
厨房に居る母親と祖父にさっさと注文を伝えてしまい、真穂は車を見に出てくる。
「あっこの色は秩父鉄道の電車!?」
そう言われてびっくりした。確かに、このカラーリングは、秩父鉄道で現在も活躍している5000系にも似てはいるが、まさかそう言われるとは―。
「巷で噂になっているホワイトインパルスに対抗しようと、一応、航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」をイメージしたのですが、まさか秩父鉄道の電車とは―。」
ホワイトインパルスと言う名前に、真穂が一瞬ビクっとなった。
「なら、家で使ってるパレットも秩父鉄道のカラーにしよっかな。九重君の好きだった白い電車、えっと―。」
「こいつ、1000系の事ですか?」
写真を見せる。秩父鉄道1000系は国鉄101系を譲り受けた物で、長い間秩父鉄道で活躍していた車両だ。白い車体に青や赤のデザインされた帯が入っていたが、老朽化が進み、東急からの新鋭、7000系、7500系、7800系に置き換えられる形で引退した。
「もう出来るよ!」
と言われ、店内に戻る。
「先にお金置いときます。」
真穂に金を払って昼食を食べる。
食い終わると、自分で器を下げる。別にセルフサービスって訳ではないが、いつもお世話になっている手前、何かしたいのだ。
お昼時になり、お客が入り始める頃、俺は秩父サーキットへ向かって出発する。
さっき店で、「愛衣と知恵はサーキットだよ」と言われたから、おそらくサーキットで会えるだろう。
どんな反応するか、楽しみだ。