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純白のSと共に  作者: Kanra
3stage天使の怒り
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悲しみの雁坂峠

 韮崎のディーラーを出たときには、もう夕暮れだった。

 本来なら、彼女を乗せて走っていただろう国道20号線の下り車線、茅野、上諏訪、岡谷方面へ向かう下り車線が反対側に見える上り線を、甲府市内を経由して、再度、雁坂峠を越え、秩父市内を経由して国道299号線を通り、正丸トンネルを抜け、自宅へ帰る。

 韮崎のディーラーで応急処置をして貰ったが、S660のタイヤを在庫で置いているディーラーは全国的に見ても少ない。

 それは、スポーツカー故、仕方が無い。

 自宅近くのディーラーと再度連絡を取ったところ、そちらでタイヤの手配をすると言われ、韮崎では応急処置を行って貰った上で、自宅近くのディーラーまで自走するが、営業時間中には着かないため、一度自宅に帰って明日出直すことにした。

 本来なら高速道路で帰ってしまえば良いのだが、応急処置をした韮崎のディーラーで、「高速道路の走行は控えてください。タイヤがバーストする恐れがあります。」と言われたため、雁坂峠を越えることになった。

 高速が使えない以上、山梨から埼玉へ帰るには、これしかない。

 国道20号線の向町2丁目交差点を左折し、国道140号線に入る。

 本来なら、彼女を乗せて走っていただろう国道20号線が、徐々に後方へ遠ざかっていく。

 陸橋で中央本線の線路を渡ると、中央本線を一路、松本へ向かう特急「スーパーあずさ」が走行していた。

 まもなく引退するE351系だが、未だに颯爽とした走りを見せている。

 一方で、こちらはパンクした右前足を引きずって、悲しく、埼玉へ帰る純白のS660。

 傷付いた場所も修理できるとは言うものの、部品が白ではなく、青になるかもしれないという。

 それなら、左右とも、下部は青にしてくれと頼んだが、こんな形で純白の中に青のラインが入るとは、思ってもみなかった。

 雁坂峠へと進路を帰る国道140号。

 後方に本来なら約半年ぶりに彼女と再会出来た甲府盆地の灯りが見えるが、それが徐々に遠くなって行き、やがて見えなくなってしまった。

 雁坂トンネルへ向かう大型トラックの後を走る。

 こんな惨めな事はない。

 久しぶりに彼女と再会し、彼女にサプライズとしてこのS660の助手席に乗ってもらって、長野県まで送っていくってだけのデートの予定だったが、皮肉にも浮気現場を見た上に、クラッシュして、元来た道を、大型トラックの群の後を走って戻っている。

 甲府盆地が見えなくなってしまった。

 もう、この車で、甲府盆地を走ることも無く、今後走ると思われた安曇野や佐久平、善光寺平は、走ることさえ絶望的だ。

「GTR殺しって言われるサーキットも、走らないだろうな。こいつは。いや、俺が嫌だ。安曇野サーキットstage2は。」

 峠を走る。

 本来ならセルローダー車で運びたいのだが、応急処置でなんとか走れるようにしてもらえたので、騙し騙し走る。

(このペースじゃ、今夜中に家に帰れるかだってあやしいな。定峰峠や白石峠は走れない。正丸トンネル経由でも、長瀞、寄居経由でも、時間かかる。こりゃあ、秩父市内で泊まった方が良い。疲れた。身体も、心も。)

 ようやく、雁坂トンネルの入口に着いた。

 往路で、RX‐7やNSXと走った道が、後へ、後へ過ぎ去って行く。

 勇ましく聞こえたS660のエンジン音だが、今は泣いているように聞こえる。

 何の為に今日まで仕事をして、何の為に走ったのかが分らない。

 同じ、S660のモデューロXとすれ違う。

 あちらのエンジン音は、同じ車なのに勇ましく聞こえた。

 それが余計に、悲壮感を掻き立てる。

 雁坂トンネルを抜け、滝沢ダムを通過。

 しばらく走って道の駅「大滝温泉」に入る。

 ここでトイレ休憩がてら、秩父市内のビジネスホテルの予約をする。

 運転中に携帯を操作するのは危険だ。

 まあ、それを上回る事やって車壊したバカな男が言うのもアレだが。

「あら?九重君?」

 と、声をかけられた。

 振り返るとそこには、なんと坂口愛衣がいたのだ。

「なんか見覚えのある車だなって思ったらやっぱり。何してんの?」

 と、ニコニコしながら言うが、こっちの顔色が優れないと分かると、

「何かあったの?」

 と聞いてきた。

「実は―。」

 俺はS660の右ドア下を指す。

 そこに傷があるのを見つけた坂口愛衣。

「やっちゃったの?」

「ああ。昇仙峡ラインでGTRとシビックとロードスターの四つ巴になって、コーナー曲がりきれずに―。」

「それでよくこれですんだね。」

「いや、右前タイヤもバーストして―。」

「バカ!」

 坂口愛衣が怒鳴った。


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