雁坂峠
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
勤務がまた一段落した後、俺は3連休になった。
ちょっとストーカーがまいな事ではあるが、彼女のTwitterを見ると今日は学校らしい。だが、午前で終わるから楽だとも言っている。
(よし。なら、雁坂峠越えて、彼女に会って、そのまま彼女を長野まで送っていってやろう。)
彼女は長野県から山梨県の専門学校に通っている。
Nワゴンで一度、彼女の専門学校に行った事もあるから、道も覚えている。
だが、S660で彼女と俺の間に立ちはだかる峠、雁坂峠を越えるのは初めてだ。
雁坂峠へ行くまでには、別の峠も越えなければならない。
走り慣れた、白石峠と定峰峠だ。
まずは、白石峠を登る。
BGMはあの漫画の名曲だ。
Nワゴンでは、登るのも一苦労だった白石峠だが、S660はおもしろいように登って行く。そして、ハンドルも軽い。
ナイフのように、空気を切り裂き登って行く。
白石峠を登った後、林道を経て、定峰峠を秩父側へ下っていく。
天気は快晴。
青空がやけに眩しい。
定峰峠を下り、秩父市内を通って、再び山岳地帯。
国道140号線をひたすら走る。
走って走って、大滝地区を抜けても走り、滝沢ダムの手前にある巨大なループ橋を登ってまだ走る。
峠の道をひたすら走る。
雁坂峠は、雁坂トンネル有料道路で越えるのだが、その前後の峠道が長い。
しかし、Nワゴンで走った時に実感した。
この道は、長く険しく、そして楽しい道だと言うことに。
雁坂トンネルを抜けてきた長距離トラックとすれ違い、前を行く山梨ナンバーのFD3S RX‐7の後を登っていく。
RX‐7のペースは速い。
赤いFD。あの漫画は白いFCだったけど。
かなり速いペースで登っていく。
こっちもついて行くのがやっとだ。
後にはNSX‐Rがついてきている。
スポーツカーが3台、峠を登っていく。
皆、どこへ行くのだろうか?
前方に巨大な橋梁が見えてくる。
雁坂トンネルに入る一歩前の豆焼橋だ。
豆焼橋を渡った3台のスポーツカーが、雁坂トンネルに突入する。
「ドカン!」と、RX‐7のバックファイア。
「バスン!」と響くのは俺のS660のターボ。
静かながらも重い空気を醸し出すNSX‐R。
全てが、埼玉と山梨。俺と彼女を繋ぐ一本のトンネルの中にこだまする。
トンネルを抜ける。
料金所で料金を払うと、RX‐7とNSX‐Rの雰囲気が変わる。
(ヤるのか。ならこっちも。)
一気に加速するRX‐7の後にNSX‐Rを行かせ、その後をS660が突っ走る。
NSX。S660を買う前、車のこと等何も解らなかった時、ディーラーで何も考えず「NSXください」とバカ発言した車だ。
俺の手の届くような車じゃない。
NSX‐Rも2代目NSXも。
そして、その前を行くFDも。
だが、Nワゴンやパレットではついて行けなくても、こいつ、S660ならついて行ける。この車は軽であるが、軽の可能性を追求することが出来る。
NSX‐Rが離れていかない。
以前のNワゴンやパレットでは、30秒でちぎられたのが、まだついて行っている。