定峰のタイプR
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
「彼に見せてあげて」
そう連絡を受けた2台の白い車。
タイプRのロゴが誇らしい。
定峰峠に向かう白いHONDA車は、その雰囲気から、これから走りに向かう車をビビらせる。
定峰の秩父側の登り口。
ここで、獲物を待つが、ものの15分足らずで獲物は現れた。
「行くわよ。先行は、任せるね。」
「うん。お姉ちゃん。」
坂口さんと別れ、秩父市内を抜け、定峰峠を越えて家に帰る。
前方に、白いシビックタイプRが居る。おそらくEK9だろう。
接近して見ると、やはりそうだ。EK9シビックタイプRだ。
峠の手前で先行車か。
まあ、定峰の上まで付き合って、邪魔だと思ったらこいつが行かない方へ行けばいい定峰下るなら白石へ。逆に白石なら定峰へ。
なんでもいいけど早く行け。何故なら後ろから、恐い雰囲気がする。
バックミラーを見るとタイプRが写った。
こいつは、シビックではない。
DC5インテグラタイプR。こいつも白い。
定峰峠に入る。
前のEK9が速度を上げる。
こっちも速度を上げて突っ込む。
DC5もくっ付いて来る。
「マジかよ!こいつらグルか!?」
適当な所を見つけて後に譲ろうとするが、前はそれに合わせて速度を落し、後は前に行く気もない。
こうなったらこいつらの速度に合わせるしかないではないか。
3Pかよ!
上から降りて来たBRZとすれ違う。それは、朝倉さんのBRZだった。
BRZがすれ違った時、朝倉さんと一瞬目が会った。
だが、俺は必死になってこの2台のタイプRと闘うしかない。
秩父側から定峰に登る時、しばらくは川が道の横を流れている。
その川から離れる場所で思いっきりヘアピンコーナーへ突っ込む。
EK9がドリフトを決める。
こっちも必死にハンドルを切る。
ドリフトではないが、かなりキツイ。
後のDC5がタイヤを鳴らす。
コーナーに突っ込む度、高度が徐々に上がっていく。
夕陽が眩しい峠道。東京のタクシーも夕陽の中を走るが、こんな峠を突っ走る事は滅多に無い。
目茶苦茶だ。
EK9がクラクションを「ピッピ」と鳴らし、DC5もそれに応え、また一段とペースを上げる。
「間違いない!こいつら、ホワイトインパルスのDC5とEK9だ!S2000の外にDC5とEK9も居るって話だったからな!」
こっちは前後を抑えられてどうすることもできない。
前方に、青い車体。
定峰の集落へ降りる道に、さっきすれ違ったBRZがいた。
集落へ降りる道と合流する所に神社がある。この神社の所でもう一発、ヘアピンコーナー。
「グッ!」
ピッピーッ!と、Gセンサーから警報が鳴る。0.5G以上の力を受けると、警報が鳴るのだ。
EK9とDC5が前後から挟んでS660をいたぶる。まるで拘束された豚男が、痴女お姉さんにいたぶられるAVのようだ。まあ、S660は豚男じゃなくて、ロリ娘だろうけど。
そんなことはどうでもいい!
だが、一瞬だけ希望が見えた。
DC5の後を、BRZが追っているのが見えたのだ。
神社の後は、木々の合間を縫うように、直角コーナーが断続的に続く。
コーナーとコーナーの合間の僅かなストレートで、後のDC5の運転席をバックミラーで見る。
一瞬だけ、ドライバーが見えた。
マスクを付けているが間違いない。女だった。
(前のEK9は女の彼氏か?カップルで暴走行為だと?ああ確かに楽しいだろう。俺だって走り屋みたいな物だ。だが、俺達のやっている事は、犯罪行為でもあるのだぞ。)
そして、俺の怒りの矛先が前のEK9に向く。
(俺の彼女はSUZUKIパレット乗り。俺はこいつに乗せて、異次元世界のような体験を彼女にしてもらいたいと思っている。だが、お前、EK9の彼氏がやっているのは、彼女を殺そうとしていることと、同じなんだよ。テメエみてえなガキは、崖から落ちて死ね。)
S660のアクセルを意図的に踏み込み、EK9に接近する。
(この先、古峯神社の連続ヘアピンコーナー。曲がりそこねりゃ崖下に真っ逆さまだ。ブレーキかけたケツをちょっと突くだけで、お前はバランスを崩す。立て直す場所は無い。今夜のお前はベッドでDC5とS2000の彼女と裸で感じ合ってイくのでは無く、エアバックに潰されて冷たい夜風に晒されながらあの世へ逝くんだよ。)
ヘアピンコーナーに突っ込む、だがEK9は減速しない。逆にこちらがオーバースピードで突っ込みすぎだ。
ハンドルを限界まで切る。後方から思いっきり滑り始める。
(スピンで逃げろ!)
S660はスピンして止まる。幸、どこにもぶつからなかった。
EK9とDC5はその場で止まる。
EK9のドライバーがこちらを一瞬見た後、定峰を再び登って行った。
それを見て愕然とした。
EK9のドライバーも女だったのだ。
定峰峠を登り、小川町へ降りてきた2台の白いタイプR。
ハンズフリーマイクを用いて、2台のドライバーが通話を始める。
「あのバカ、キレて自滅してやんの。」
「ええ。でも感じた。」
「そうね。感じたよ。私達に近い何かを。あいつ、きっともっと早く、もっと上手く走れるようになって行く。乗り始めたばかりで、キレるような性格がなんとかなればね。」
EK9とDC5は小川町を目指して駆け抜けて行った。




