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純白のSと共に  作者: Kanra
プロローグ
2/435

突然の別れ

 迎えに来た同期の吉川准の車に乗る。

 トヨタ・ヴォクシー。駆動方法は4WDだ。別に4WDにする必要はないと思うのだが。

 この外に、俺達の教官と係長も来る。

 先に俺達が予約しておいた店に行って受付をすませて、教官と係長を待つ。

 川口市郊外の焼肉屋で送別会が始まるが、教官の中田一樹と紺蔵係長の様子がおかしい。

「送別会の最中にこんな事を言うのはどうかとは思うのだが―。」

 紺蔵係長が暗い顔をしている。会社で何かあったのか。

「実は、坂口さんが昨日を持って会社を辞めたんだ。」

「なっ!?」

 この事に皆、衝撃を受けた。だが、誰よりも衝撃を受けたのは俺だろう。

 坂口愛衣は、ドライバーで入ってきた同期の女子で、免許の関係で俺と一緒に教習を行っていた。

 デビューの一か月前からは、俺と教官と坂口さんと一緒に教習を行い、特に首都高速の教習では二人で悲鳴を挙げていた。

 そして、会社から会社の駐車場まで二人で歩いたり、天気が悪い日は俺の車で住まいのアパートまで送って行ったり、時には二人で遊びに行ったりと、何かと仲が良く、社内では俺と坂口さんは付き合っていると思っている人もいた。

まあ、俺には別に本命の彼女が居るのだが。

 しかし、そのせいなのか、真っ先に俺が疑われたらしい。

「九重。何かやったのか?」

 と、中田教官から当然の質問が飛んでくる。

「いいえ。私も今知りました。逆に私のほうが、彼女に何があったのかを聞きたいです。」

 送別会は少し暗い雰囲気で始まってしまった。

 まあ、会が進めば馬鹿騒ぎになるのはお決まり。

 気が付けばもう終わりの時間。

「寂しくなるな。九重。」

 と、紺蔵係長が言う。

「そうですね。今日から明後日まで休みですので、少し傷心旅行に行ってきます。」

「ああ。あの、新しい車でか。」

「はい。新しい車での初めてのお出掛けが、傷心旅行みたいなドライブとなってしまって良いのかどうか―。」

「事故違反はするなよ。辛いかもしれんが、安全運転は絶対に忘れるなよ。」

「はい。」

 俺はまたも吉川准のヴォクシーに揺られて会社の駐車場まで送ってもらう。

 その間、海南江も吉川も安斉も馬鹿騒ぎだが、俺に関しては坂口さんが居なくなってしまう事がショックで騒ぎに加われず、会社の駐車場で彼らと別れた時、

「こんなことになるなら、今の本命と復縁する前に、告っとけば良かったな。」

 とつぶやいて終わった。

 駐車場に止まっているピカピカの白い軽のスポーツカー。

 新車で納車したばかりでまだ、新車特有の匂いがする。

「ああ。この車に乗ることも無かったな。あいつ。」

 エンジンをかける。

 今日は夜風が心地いい。

 ルーフを外してオープンで走ろう。

 ホンダが1962年のS360以降、製造、販売をしているいわゆるSシリーズの第五弾に当たるタルガトップタイプのオープンカー。S660。

 乗車定員2人。658ccの直列3気筒DOHCターボエンジン。エンジン位置はミッドシップの後輪駆動。

 トランスミッションはMTと言いたいのだが、残念ながらATだ。

 ゆっくりと、駐車場を出発し、脇道から大通りに出る。

 川口線の下の道を走る。

 今日は高速道路で帰ろう。

 BGMはfripsideの「secret of my heart」。

 新郷インターから高速に入る。

「まっこれで俺は、本命の彼女以外だれもこの車に乗せなくて済む。それに、会社のイベントで車を出す機会も、このあおりで減少するだろう。せいぜい楽しもうか。この、純白のSで。ただし、安全運転でな。」

 ETCのバーが開く。

 加速車線でエンジンの回転数を上げ、加速しながら本線に合流。

 午後7時を回る。

 家路を急ぐ多数の車と共に、川口線から東北自動車道へ車を進める。

 切ない曲を流していると、気分まで欝になってくる。

 だが、今はこの曲を聴きながら走っていたい。

 このときになって初めて、俺はいなくなってしまう坂口さんの事が好きだったということに気が付いた。

 だが、気が付いた時にはもう出遅れ。

 実際問題、告白するかしないか迷っていた時、それまでケンカ状態であった今の本命の彼女から復縁を申し込まれたのだ。

 乗り気じゃない俺だが、彼女と付き合っていた時を思い出し、そして、彼女の真っ直ぐな瞳に押されてしまって、OKと言ったのだが、俺は彼女に対して、

「安曇野サーキットで俺とレーシングカートで勝負しろ。もし勝てたら、付き合ってやる。」

 と言う条件を叩きつけた。


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