チューニング開始 AE86の秘密
この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。
公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。
作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。
自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキット及び、筑波サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
その日の夕方、秩父市に損傷した状態のS660が到着した。
そば屋の裏手は県道で、トラックも通れるだけの道幅になっている。
それ故に、チューニングした車や修理する車をトラックで搬入、搬出するのには難儀しない。
ホワイトレーシングプロジェクト。
坂口正孝の本職の場だ。
娘3人と妻方の義父義母。そして、妻と共に暮らしながら、自動車整備工場を営んでいる。
「さぁてと。」
損傷したS660を改めて見る。
ラジエーターのある前側の損傷は酷かったが、意外にも追突された後はそれ程損傷していなかった。
(なるほど。相対速度が低かったが、押されて止まり切れず、フロントがドカンってとこか。フレームもやられているだろうし、まあ、板金屋送りは止むを得ないか。エンジンとキャビンが無事だってのはありがたい。)
「親父?」
と、知恵の声。
「どうしたの?これ、タクミさんの―。」
「お笑い芸人に壊されたらしい。ウチで修理すんさ。スポンサーは芸能事務所だ。修理代たんまりふんだくって、完璧に仕上げてやる。」
次女の愛衣と長女の真穂もその場に来たが、二人はS660の損傷を見て愕然とした。
「呆然と突っ立ってんなら、ぶっ壊れた部分の交換部品と整備部品の発注かけろ!」
と、真穂と愛衣に発破をかける。
(俺の娘達が、俺の後を継いで走り屋からモータースポーツへ行こうとして立ち上げた「ホワイトインパルス」の4号車だ。奴をここで止める訳には行かない。奴は止まったら、もう二度と走り出せない。奴が止まるのは死ぬときだ。)
「直すの、私も手伝うわ。」
愛衣が真っ先に言う。
「私もよ。」
と、真穂と知恵も言った。
AE86に乗って通勤する俺こと、九重拓洋。
こいつの助手席には乗っているけど、運転するのは初めてに近い。
重ステに、MT車。慣れるまで大変だ。
朝、会社の駐車場に停めると、いつものように、タクシーで東京都内を走り、夕方から深夜に、長距離の旅客を乗せる。
今日は、六本木ヒルズから横浜だった。
横浜みなとみらいの近くだった。
旅客を降ろした後、新山下から湾岸線に乗ろうと、黄色いTOYOTAクラウン・スーパーデラックスを走らせると見覚えのある場所に出た。
イベントで横浜大桟橋に、海上自衛隊の護衛艦「しらね」がやって来た時、彼女の海老名芽美も親戚の用で横浜に来ていて、俺は「しらね」を見た後、彼女と会って短い時間だが、みなとみらいでデートしたのだ。
よこはまコスモワールドだったがその時、周囲には似たようなカップルもいた。
だが、そこで何をしたか。何も出来なかった。
(行こ行こ。目の毒だ。)
と、俺はさっさと湾岸線に乗ってしまう。
仮眠した後、仕事を終え会社に戻る。
だが、駐車場に待っているのはS660では無くAE86。
(全部忘れてしまおう。彼女のこと。このまま、何処までも走り抜けて行けばいい。忘れてしまおう。後で、別れ話はすればいい。忘れて、走り抜けるんだ。)
今日は高速で帰る。
このAE86。奇妙なことに、タコメーターが1万回転以上ある。
俺は8千回転程度でギアを変えている。
だが、うまく走ってくれない。
坂口さんは手足のように操っていたのに。
やっぱり、初めてだからか?
だから、試しに高速で走ってみよう。ダメならさっさと降りてしまえばいい。
(そうだ。試しに1万くらいまで回してみよう。)
アクセル踏み込む。
回転数1万なんて、聞いたことない。
あの漫画の主人公のAE86と、土屋圭市のAE86以外には。
(ブローさせたら、殺されるだろうな。なら、やらなきゃいいんだけど、やってみるだけやってみる。)
1万回転に達したとき、まるでツボにはまったような走りを始めた。
(何!?)
1万1千あたりでギアを変える。
そして、また1万。
(間違いない。このAE86、何かがおかしい!まさか、本当にあの漫画のAE86と同じ仕様か!?)




