表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白のSと共に  作者: Kanra
プロローグ
1/435

首都高速

 勤務を終えた運転手。

 夜の高速道路へ車を進める。

 タクシーはいつ、何処へ行くのか解らない。夜中に東京から府中、千葉、埼玉、横浜なんてよくある話だろう。 

 実際、今、トヨタクラウン・スーパーデラックスのハンドルを握る俺こと、九重拓洋だって、こんな夜中に高速道路を走るのは珍しくもない。

 まあ、今日はそれほど遠くではない。

 赤坂で乗せた客で、飯倉インターから首都高速を走ってレインボーブリッジを渡ってお台場と言う物だ。

 今日はこの客で終了。

 レインボーブリッジを渡って鹿浜橋インターまで首都高を走る。

 高速料金が発生するし、湾岸線から中央環状線の方が速いが、気分的にレインボーブリッジを渡って帰りたかったから、このルートを走る。

 黄色いクラウン・スーパーデラックスは、台場インターから首都高速に入りレインボーブリッジへ歩みを進める。

 港の夜景、ビルの電飾が周囲に広がる。

 反対車線を別のタクシーが台場方面へ走っていく。

 緑のクラウン・コンフォード。その後を中型トラック。俺の後には、湾岸線からレインボーブリッジを渡って都心へ戻る新型のジャパンタクシー。

 深夜0時の高速を走るのは、タクシーや長距離トラック、そして夜行バスが多い。

 箱崎ジャンクションから6号向島線に入る。

 眼下に隅田川が見え、対岸のネオンが見える。

 吾妻橋付近を通ると、浅草の呑み屋で飲んだくれた人達がタクシーを拾って居るのが見えた。これから何処へ帰るのだろうか。そして、あのタクシーの運転手は何処へ行くのだろうか。

 道路の繋ぎ目を通過する度、ガタンガタンと列車のジョイント音に似た音が聞こえる。

 お台場でお客を降して回送にした俺は、スマホで音楽を聴きながら走る。

 その日の気分によってBGMは変えるのだが、今日はfripsideの曲を流している。

 標識が、まもなく堀切ジャンクションであると知らせる。

 堀切ジャンクションと小菅ジャンクションは、俺が免許を取り立てだった頃に嫌がっていた場所だ。

 中央環状線、6号向島線、6号三郷線が短い区間で交わる要衝だが、それだけに沢山の車が行き交う上に分岐を右往左往する者も居るから怖かったのだが、今や二種免許まで取得し、練習運転で何度か走っているうちに、もう怖くなくなった。

 だが、それでもここは気を使う場所だから出来れば通りたくない。

 中央環状線に入る。

 ここからはもうほぼ一直線。

 途中、鹿浜のガススタンドで車に燃料を入れるが、それ以外はもうまっすぐ会社だ。

 荒川の向こうに千住の明りが見え、常磐線の鉄橋を越え、川口ジャンクションで中央環状線から川口線に入ると、王子方面から同じく黄色のスーパーデラックスが合流し、俺の後に付く。

 パパっとパッシングをする。

 俺と同期の車だったのだ。

 鹿浜橋インターで高速を下りて近くのガススタンドへ入る。

 あくびをしながらガスが満タンになるのを待つ。

 この車の燃料はLPガスだ。

 燃料が入ると、一路、会社へ戻る。

 足立区の外れ。川を渡れば埼玉県という場所にある俺の勤務先。

 洗車場に車を入れ、洗車を始めると、俺の後を走っていた同期の車も来た。

「タクミおつかれ。」

 と言うのは、同期の海南江陽司。

「後ろから煽るな危ねえ。」

「トロットロ走ってっから。」

 その癖こいつの安全評価は良い。

 だが、売上金では俺より僅かに劣る。

 今日の俺の売上は5万ジャストに対し、こいつは3万9千。

 実は、海南江は今日でラスト乗務だった。

 彼の生まれは島根県出雲市。

 東京で一旗揚げようと、寝台特急に乗って単身出てきたのだが、西日本豪雨で実家のある地域が被災し、実家の手伝いをするためやむ無く退職し、地元でバイトしていたスーパーに再度就職するらしい。

「ラストランはどこまで行った?」

「東京ミッドタウンから調布だった。府中の免許センターの近く。思い出したよ。俺等が入社して、免許取りに行ったの。」

「ああ。俺は苦労してようやっと取れたんだった。」

「最後の納金、すませちまうよ。」

 洗車を終え、売上金を納金する。

「明日、本当に良いのか?」

 と、海南江が言う。明日は海南江の送別会を同期のドライバー4人でやるのだ。

 同期と言っても、6人しかいない上、ドライバーは男4人。女子も2人居て1人はドライバーだったが今は事務の仕事をしている。

 今日、俺は家に帰らず、海南江の寮に泊めてもらう。

 寮と言ってもシェアハウスのような形で、3LDKのマンションに3人が住んでいる。

 海南江の部屋に住んでいるのは、同じく同期の安斉一歩と、同い年だが中途入社した倉敷秀雄。彼は元JR東日本の保線マンだったらしい。

 一晩、寮で寝て、次の日は休み。

 タクシーの運転手の勤務体系は隔日勤務。二日分の仕事を一日で片付けるため、朝6時から深夜まで勤務し、その翌日は明け番という休養日だ。その他にも公休日と有給もある。

 正直、好きでも無いこの仕事だが、仕事のせいか、俺の生き方も変わって来たような気がする。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ