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極楽鳥は舞い降りた ⋋(◍’Θ’◍)⋌ ~過ぎ去りし、ひと夏のファンタジー~ 

作者: きら幸運

単なる実話にちょっとだけ妄想を加えました。

 それは、ひと夏のファンタジー……


 日曜の朝。

 八時を少しまわったばかりなのに、すでに汗が止まらない。

 ひたすら暑い。

 エアコンをつけようと考えた俺は、窓を閉めるためにベットから起き上がる。


 網戸の向こう側、ベランダの手すりに立つ侵入者と目があう。

 動物園やテレビでしか見たことのない極彩色の大きな鳥。

 名前は忘れた。

 とりあえず極楽鳥と呼ぼうか。

 その派手派手(はではで)しい鳥が、俺に向かって軽く頭を下げてくる。


 はて? どこかでお会いしましたっけ?


『勇者様! ようやく見つけました! ずいぶんと探しましたよ!』

『バード(仮名)! なぜ俺だと分かった?』

『私は勇者様の忠実なしもべ。どんなにみすぼらしい格好をしようと分かります』

『くっ、みすぼらしいは余計だ! これはパジャマといって、人間界では最高のヒーリングアーマーだ』

『さすがは勇者様! 次の戦いに備えておられるのですね』

『当り前だ。明日は月曜、しかも勝負の月末だからな。今日は一日くつろいで英気を養うのさ』


 俺たちは目と目で会話(妄想)する。


 極楽鳥の名前がバードなのは許してくれ。

 とっさに思いついたのはそれしかなかったのだ。

 単純ですんません。


『ところで、バード(仮名)。なにしに来た? 俺はもう剣も魔法も使えない。お前の期待にこたえることはできない』

『なんですって!? では、明日はどうやって戦われるのですか?』

パワポ(パワーポイント)だ。もちろん、ワードとエクセルも装備していく』

『おお……勇者様は姿形すがたかたちくずれ、コホン、姿形すがたかたちは変われども、戦い続けておられるのですね』

『お前、俺をディスりかけなかったか?』

『はて? なんのことやら? 空耳そらみみでしょう』


 目と目の会話(妄想)に空耳があるとは思えなかったが、俺は流すことにする。


 ともあれ、デッカい派手な鳥がなぜベランダにいるのか分からない。

 俺は暑さを忘れ、ただ茫然と極楽鳥を眺め続けた。

 

「ママー! いたよ! ポンちゃんを見つけたよ!」


 窓の下から少年の声が聞こえる。

 俺が住むのは団地の五階。

 逃げたペットを探す母子が道路からこちらを見上げている情景が目に浮かぶ。

 こっちは妄想でなく想像だ。

 一見いっけん似てるが違いは大きい。


「ママー! あのおうちのひとにお願いして、ポンちゃんを捕まえてもらおうよ!」

「たっくん。あきらめなさい。そんなこと無理よ!」

「でも、ポンちゃんがぁー!」

「たっくん、ごめんねー。ママがもっとしっかりポンちゃんを見てれば良かったのに……」 

 

 母子の会話に、俺は固まる。

 バードあらため、ポンちゃんはくるりと向こうを向く。

 飼い主のたっくんの声が聞こえたのだろうか。

 いや、ポンちゃんの視線は下ではなく、上を向いている。


 青い空、白い雲、そして自由。


 ポンちゃんの望みが手に取るように分かる。

 これも妄想だが、真実に近いだろう。

  

『バード! いや、ポンちゃん! たっくんの元に戻ってやれ! いや、戻ってくれ!!』

『勇者様、お元気で。いつの日かお迎えに参ります』


 いまはそれどころじゃないと思いながらも止まらない妄想。

 

 俺はそーっと窓際に近づき、網戸をゆっくりと開けようとする。


 ガタン!


 しまった! 痛恨のミス(クリティカルダメージ)

 

 立て付けの悪い網戸が鳴らした音に、ポンちゃんが驚く。

 鮮やかな青色の羽根を広げ、大空に飛び去ってしまう。


「ああーっ! ポンちゃんがぁーー!」

「たっくん、ごめんね。ママのせいでー」


 ヒシと抱き合う母子の情景が目に浮かぶ。

 ベランダから下を眺めたい衝動を辛うじて抑え込む。



……ポンちゃんが逃げたのは、俺が悪いのだろうか? 俺は精一杯行動した。いや、行動しようとした。たっくん親子に謝るべきか。いや、それは違う気がする。俺がいようがいまいがポンちゃんは飛び去ったはず。それに、もしポンちゃんを捕まえたとしても、おとなしくしてくれるとは思えない。俺は鳥を飼ったことがない。扱い方を知らない。ポンちゃんはデッカイ鳥だ。冷静に考えれば無謀なチャレンジをするところだった。けど、俺がヘマしなければ、もしかしたら……



「ポンちゃん、さようならー! いままでありがとうー!!」

「たっくん? あなた偉いわ! そうね、お別れを言わなくちゃいけないわね……さよならー、ポンちゃーん!」


 たっくんが悲しみを押し殺して、明るく振る舞おうとする。

 息子の健気けなげな姿に、母も懸命に涙をこらえる。


 そんな光景が窓の下で繰り広げられているのだろうか……

 

 ベランダから下を眺めたい大きな衝動を全力で抑え込む。


 ええもう。

 暑いとか暑くないとかなんて、大空の彼方にすっ飛んでしまいましたよ。


 俺は想像した。


 この夏、少年たっくんはおとなへの階段をひとつのぼったに違いないと。


 そう。


 それは、過ぎ去りし、ひと夏のファンタジー。



<追記>


 後日、家の近所の電柱に張り紙がありました。


 <逃げたインコを探しています。ポンちゃん。オス(六歳) 連絡先……>

 

 写真は俺が見た極彩色の大きな鳥でした。


 その後、半月ほどして張り紙はなくなりました。

 ポンちゃんが見つかったと信じていますが、もしかしたら異世界に行って俺の帰還を待っているかもしれませんね。

 なにしろバードは、(勇者)の忠実なしもべですから。


 おしまい。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。


ではまたどこかでお会いしましょう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 妄想の会話が楽しくて良かったです。
[良い点] 妄想部分と現実部分が程よく調和していて楽しめました。 大江健三郎の小説に『バード』というあだ名の男が出てくる作品があるんですが、それを意識しているのかな、と思いました。 かごから逃げた鳥は…
[良い点] 妄想とせりふが楽しく、次はどうなるのだろうと期待しながら読ませていただきました。 ぽんちゃんがどうなったかも、読者が想像する余地がありいいですね。
2018/12/07 19:31 退会済み
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