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We are the ONE‼︎〜王の遺伝子〜  作者: ギガス
第1章
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第6話 Techno~技術者~

水滴一つ落ちてこない海原、陸風が弱く吹いてきてマストを微妙に調節する甲板で、甲板長が行方不明だと知り水面を観測したが、見えるのは弱く波打っている景色と薄っすら見えるサメの様な影のみ。船員たちはサメに食われてしまったのではと大慌て。このままのスピードなら明朝に陸に到着、すぐに人身売買を始められ、船員も落ち着いて船内と海面を捜索できると踏み、男たちは皆揃って港に行こうとスピードを出そうと帆を広げた。


「いい加減話してよ」

「何をだよ」

「甲板長と。どういう関係?」

「……単純に上司と部下の関係?いやちょっと違うけどまあいいか」

「あの甲板長がカントの上司だったなんてなんで俺に……」

「逆だ。あいつが俺の部下。生意気にも反逆してきやがった」

「……年下……?」

「複雑な事情があるんだよ。別に知らなくてもいいだろ」


ゼロは幾度もカントにはぐらかされ、二度とカントの口からきくことはできないと分かっていても「知りたい」という欲求にゼロは唆される。これまでもゼロはカントに「知りたい」とお願いして教養を身に着けてきた。

カントは親友だ。とは言っても自分に完全に心を開いて会話しているわけではないと思うと、ゼロは心の中で言葉に表すことのできないモヤモヤを感じる。


「朝だ」

「俺たちを引き取ってくれる人が見つかったらいいな」

「見つかるさ。必ず……おおっと来たか」

「あ、またその鳩!」


いつからか来ていた鳩。3年間でゼロが見た回数は数え切れず、いつも見ている気がした。海にいるには少し違和感を感じる生き物だが、なぜか見かけたらカントになついているかのように寄り付き可愛がられる。なんとも不思議な生き物なのだろうか。


このゼロの肩に乗っているリスも同じではあるが、3年前、ゼロが拉致された日にどこからか入ってきたという推測がなされたが、海に近いところにリスの生息地がある事例が見つからなかったことなどからネガティブとされた。一番有力なのは積み荷に紛れ込んだという説だが、これもまた「見つからないはずがない」と言われ結論は出なかった。今はゼロになついており、自分のご飯をこっそり持ってきて食べさせてあげていた。何も、ゼロとカントの二人だけの生活ではなかったのである。


「そういえばそのリスに名前付けてなかったな。どうすんだ?」

「こいつか?そうだな……カントが付けてくれ」

「フーコー……」

「もっとこう……あるだろう。この子は(メス)だって誰かが言ってたし」

「ハンナ!ハンナはどうだ」

「いいね、女の子っぽい名前。よし、今日から君はハンナだ!」

「キュー!」


愛らしい鳴き声を出してゼロの肩に飛び乗るハンナ。そのままスヤスヤと眠り始め、ゼロはハンナを起こさないように自分の寄りかかった体を持ち上げる。弱り切っていたハンナの姿もゼロの必死の看護のより本来の姿を取り戻したようであった。


「そろそろ檻に入れ。俺たちの商売を始めるぞ」


ゼロとカントはそれぞれ用意された檻に入る。船員たちはエピクロスの能力(システム)が発動していると考えているので、奴隷たちの管理に余計な気を使わなくて良く、この辺の管理もルーズにできるのだ。

ついに船は港に到着し、船員の一人が港のものにボロい紙切れなようなものを渡し、売買所の扉が開かれた。


貴族の身なりをしている男たちが我先にと中に入っていく。女はすぐ売り切れるので競争が激しい代わりに、男はそこまで人気があるわけでもない。超低賃金で雇える力のある男と思うと安いが、反乱されたりすると力があるものには幾何か抵抗力が必要である。


そんな中、ゼロの檻に真っすぐ向かってくる男と従者がいた。何も迷うことなく、女の奴隷がいるところにもいかず、体格のいい男が近づいてくることに疑問を浮かばざるを得ない。


「この子を買います」

「いいんですかい?この男だと、代金が……」


航海3年目にしてついにゼロに買い手がついた。だが見たところ、カントにはまだ買い手がついていない。カントはゼロに向かって口を動かす。


「またどこかで会おうぜ相棒」


カントに読唇術を教えてもらったゼロにはそう言われたように見えた。ゼロは嬉しそうに頷き、檻を出ようとする。固い握手もハイタッチもすることができないが、彼らはまたどこかでもう一度会いたいと期待を膨らませ、お互いにアイコンタクトをしてゼロは暗い箱の中に入っていった。


「じゃあ旦那、この男がこの船から出てきたってこと悟られないように部下に隠して運んでもらうから」

「わかりました。代金はそこの人に渡しておきましたので、確認してください」


周りを見て、その男がいかにもな貴族……というわけでは無かった。その男は誰に対しても敬語で話していた紳士という感じだった。この場所に「似つかわしくない」と言った方が正解か。


ゼロはカントに3年間みっちり教えてもらった異世界言語を習得しているので、コミュニケーションが通常通り行えるまでできあがっていた。異世界語をメインに、フランス語、中国語、日本語まで。3年間の幽閉生活の退屈しのぎには十分だった。

ゼロは教えらたことを思い出しつつ、昨夜のカントとのやりとりを思い出していた。


ゼロはずっとお互いが対等な関係で無いと思っていた。隠し事は無しという約束をしていても、

秘密を隠し暴こうという友情関係は仮染めに過ぎない。借りた金は必ず返す。それが今できていないのなら、それを親友と豪語するのは押し付けではあるまいか。


「なあ、俺に何か隠してるだろ?カント」

「ああ。正直言って色々隠しているし、今はまだ言えない。だけど……2つだけ。まず1つ、なぜ俺がゼロに異世界語だけじゃなく、中国語と日本語を教えたのか分かるか?」

「知るかよ。それと甲板長と何が関係あんだよ」

「お前はこれからある団体にお世話になるはずだからだ」

「ある団体?」

「『技術者(テクノ)』。お前はこれからある組織のトップを取ってもらうことになるだろうからな」

「技術者?組織のトップ?なんだそれ」


カントによると、その強さは計り知れないほどの多種多様な『技』と『術』を使って戦う日本を中心とした数十名の人間が所属するこの上なく精強な集団がいるということだ。控えめに言って、宇宙から侵略者がやってきても返り討ちにできる戦力と言われており、国家最高機密である。ただし、これらはあくまで戦争が起きないための抑止力であり、認知しているものはごくごく僅かなものの、恐ろしくも核ミサイルほどの圧力を持っていて、誰も関わり合いになりたくないのだという。リーダーの方針により戦争利用はタブーらしい。つまり国から相当恐れられているが野放しできないので扱いにくい組織である。


「俺はその技術者(テクノ)のトップに会ったことがある。100歳を超えているのに、肌がまだ若々しくて、気迫に押されちまった。吸血鬼なのかとも思った。だが、お前がこいつらさえ味方にできれば、あの能力者集団のトップに立てるはずだ」

「能力者集団のトップに?なんでだ」

「お前は話してくれたな。この世界から絶望した者たちを救いたいって。それが1人であっても成し遂げたいって。それを叶えられる唯一無二の組織。異世界人が大半を占めている組織で、全員能力者(システムホルダー)。だがお前が求めているものは必ずそこにある」

「……組織の名前は?」

「これが2つ目。『OXT』だ。もともと8人いたからタコに由来してそう名付けられていたが、今では10人に増えたから10月に由来していると言い張っている。そして名前から察っするに……」

「異世界人が作った機関では無いな」

「英語だしな。OXTと技術者(テクノ)は完璧に対立している……というより、技術者(テクノ)がその組織の座を奪いにいこうと必死なんだよ。逆にOXTのメンバーは奪われないように必死なんだ。」

「少し裏事情が複雑になってきたな」

「それから異世界人の事を共通で『エクス人』って呼ぶんだ」

「そんな他愛もないことを隠す必要があったのか?」

「エピクロスと交戦した以上、話さなくちゃいけないと思ったからだ。俺のせいでゼロが迷惑被るのは俺としても嫌だし、これからお前がお世話になるであろう組織のことは知っておきたくないか?」


異能力者集団。一人一人が戦力を持っているので、敵に回してはいけない軍団である。しかしこの軍団は実はある条件さえ整えば誰でも入れるのである。


1・大前提に能力持ちである。

2・組織の本当の名前を知っている。

3・構成員の誰かと一度でも交戦したことがある。

4・その結果を踏まえてボスに入軍を認められる。もしくは、OXT幹部の評決で過半数を取る。


実はこれだけではないらしく、それ以降は組織のナンバー3以上の人間しか知らず、口外も許されないという。まるで米国の超大手企業の入社試験のような内容である。


「なあカント、2番目の項目って何であるの?」

「実はOXTの存在自体は知られていても、街の裏側では情報が錯綜してるんだ。『デイダラボッチ』とか『マンチェスター』とかな。この手が100から200くらいあるんだよ。つまり、この時点でもうフィルターかかってるわけさ」

「……もしかして、カントはそこの上司だったわけ?」

「さあ?」

「否定しないってことはそうだってことでいいんだな」

「好きにしろ」


カントはそんなゼロのもやもやとした質問を遮ってラメが輝く海面を見つめ直していた。ゼロもよく分からない内容にイマイチついて行けず、自己完結する事にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ゼロが運び出されて10分後、ひとりの女の子が船に入ってくる。


「なあちょっと。ここの奴隷全部私にくれよ」


この船に奴隷を買いに来ている者は大抵奇抜な格好でやってくるのだが、その16歳ほどの女の子は、どこを探してもそんな貴族なんていない、さらに奇抜な格好をしていた。

どこかの国の将校かといった服に、これのおかげで上半身と下半身のバランスが明らかに整ってないスカート、真っ白なマントに元帥帽子を被った、ロングヘアの少女だった。何より喋り口調が男なのである。


「おいおい嬢ちゃん。ここは子供が入っていい場所じゃねえ。ほら行った行った」

「おいおいあんたこそ売ってくれねえのか?商売なんだろ?俺たちはあんたらのヒモなんだろ?」

「うるせえなこのクソガキ‼︎出てけっつったら出てけ‼︎」

「いや待て。こいつぁここの女よりも見た目が良いから高く売れるぜ。見たところ1人だし、力もなさそうだからこのまま売り飛ばしても……」


次の瞬間、二人の男の首が跳ねた。切り口は綺麗に切れていて、血飛沫がその場を舞い、体は汚れた木の床に崩れ落ちる。

周りの者たちは一瞬気がつかなかった。何が起きたのか。少女はポケットに手を入れたままピクリとも動いていない。()()()()()()()()()()


「ぎゃああああああ‼︎」

「やばい!逃げろおおおお‼︎」

「死にたくなああああああい‼︎」


阿鼻叫喚。一斉に貴族たちは自らの保身の為に出口に向かって走ろうとする。

が、出口は見えない壁によって閉ざされているのか、誰も出ることができない。


「逃すわけねえだろ?お前らは皮肉にも家族のいる子供達を強引に奪って飼って働かせたクソ野郎どもじゃねえか。お前らみたいなのがいるから世界は平和にならねえんだろうが‼︎」


16歳の女の子の口から出る言葉では絶対にないが、風が一切吹いてないのにマントが靡き始め、同じく髪も靡き、持ち上がり始めた。

「お願いしますぅぅぅぅ‼︎僕だけは助けてくださいぃぃぃ」

「お金なら幾らでもやるからああぁぁぁ」


するとその2人の体は8等分されて床に転がる。切り口は相変わらず綺麗で、それを見た貴族たちは怒号、悲鳴、鳴咽、そして絶望だった。


「清々しいほどのクズ野郎()()()なてめえらは」


これを見た檻に入った者の顔を表すならば、恐怖。だが、心の端に安心を持った。

だが約1名、これを薄目でため息をつきながら見ているものがいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前も人のこと言えねえじゃねえか」

「ちょ、ちょっと待ってよ。別に奴隷たちについてる首輪を引っ張ってついて来させてるだけじゃん⁉︎この後ちゃんと解放してあげるんだよ?オプション付きで」


このオプションというのは、奴隷の家系まで調べて、元の家にきちんと返してあげるというものだった。

ゼロと違って、ここにいる全員、騙されて子供だけ売られた人ばかりだ。帰るべき場所に温もりを求めているのだ。


「お久しぶりですカント様。あなた様の帰りを我々一同心待ちにしておりました。どうか一度部下の皆さんに顔を出してあげてくださいませ」

「言われなくても」

「ねえねえカント。どうしてそんなにニヤニヤしてるの?なんかいいことでもあった?」

「ああ、ちょっと船で新しい友達が出来たんだよ」

「……その子って、女じゃないよね?まさか私に隠れて浮気……」

「俺がどこでどんな女とやってようと、お前には関係ないし浮気じゃ無いからな」

「ちょっとひど〜い‼︎そんなことレディに言うの⁉」

「レディと言える年齢でもないのにお前随分偉そうだな」


この女うるせえなとカントは一瞬心の中で思っていたが、その余計な思考を従者が気を利かせたのか話に水を差す。

「カント様、それは?」


カントはエピクロスの服の襟を掴んで引きずっていた。エピクロス自体は気絶して服は血が付いているのだが、体重を優に100kgいくだろうものを引きずってるカントも身体能力が人並み以上だというのが分かる。


「マキャヴェリにこれやるよ。探してたやつだ」

「ああ、OXTの裏切り者じゃん。いらないよこんなおっさん。そこの海にでも投げといてよ。ポイッて」

「カント様、私が預かってボスに報告しておきます。それより……奴隷船はいかがでしたか?」

「ああ、これは『国』に必要ねえな」

「そうですか。では」


そう言うと、その従者は指を鳴らす。途端、船は一瞬でケーキカットをするように8等分されて海の海蘊と消え、もともとそこに無かったかのように消えた。その船が存在していた証拠まで消された感覚である。


「では、参りましょうか。“O()X()T()()()()()2()”」


3人の男女はその場から立ち去り、船の中にいた子達も急ぎ足で後について来るのだった。

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