第5話 Systemholder~能力者~Part.2
ここからバトルが本格的に始まります。拙い文章であるならすみません。
「あっぶね!」
口より先に体が動く。ゼロとカントの信頼から生まれる技なのか、間一髪でムチを避け、ムチは床に叩きつけられた。木の床は途端にボロボロになる。
「こ、こんなのをカントとロッドは喰らっていたのか。危なかった……まだそこにいたのか」
「よそ見するなゼロ!来るぞ!」
起き上がったエピクロスは怒りを露わにした顔でゼロにムチを振り回す。ゼロに当たりそうになったが、なんとか船の端まで逃げることができた。
ムチが生み出す高い風切音は、そのものの恐怖を誘発する。このムチはただ単に痛いというよりも肉が避けるのだから尚更だ。
すると途端、またもカントがエピクロスの後ろに瞬間移動していた。2度目だがやはり唐突な瞬間移動に戸惑うカントだったが、後ろに移動しただけあり、落ち着いて足でエピクロスの腕を力一杯足で蹴る。するとエピクロスは腕の激痛に一瞬耐えられず、床に鞭を落とす。
その隙を逃さずに、カントはエピクロスの横腹を右足で思い切り蹴る。エピクロスは水平に飛んでいき、船から飛び出した。
カントはゼロに振り返って向き合い
「片付いたな」
と言い終え、その場から消えた。姿形も何もかも。
途端、波の音が激しくなる。ゼロは船から身を乗り出して見てみると、この大きな音は波の音では無いということにすぐに気づいた。彼ら2人は海の上で戦っている。とても信じられない攻撃だった。
視点はカントに移る。
カントはゼロに振り返ってキメ顔でセリフを言っていたはずなのに、気がついたら船の側面にワープして船の側面に張り付いていたエピクロスに飛び掛かられ、今にも水月を殴られそうだった。空中を移動中に唐突に方向転換できるものはいない。カントは急所を避けるように精いっぱい体をよじる。
カントは力いっぱい殴られて、海の中に大きなしぶきをあげて沈んだ。
「カントおおおおおおおおお‼」
ゼロは水中にいるであろう男に海の中まで聞こえるくらいに大きい声を出す。
ゼロは浮き輪を探した。そういえば船首にあったということを思い出し、急いで取りに行こうとするが、もう一度海面を見てみると、さっきと状況は全く変わっていた。
ゼロは自分の目を疑った。カントとエピクロスは海面上で戦っている。
同じ右足同士をお互いに回し蹴りするが、右足はお互いの体の前で衝突。カントは衝突した勢いを使ってその場で体を一回転。左足でエピクロスの頭を蹴ろうとするが右腕でガードされる。
カントは距離を取ろうと後ろに下がるが、エピクロスは海面を蹴って距離を詰める。握りこぶしを作り、避ける暇も無かった。
「俺の能力はこんなこともできるんだよなぁ!」
そう言ってカントを力一杯殴り後方に吹っ飛ばす。吹っ飛ばしたと思ったら、今度は大きく足に勢いをつけて目の前の虚空を蹴り始めた。
そしてカントは自分の前にエピクロスの足があることに気がついた。が、避けられない。エピクロスの蹴りは顔面を強打し、カントは鼻と口から血を出した。カントが今起こったことを理解しているかは定かではないが、船の上から見ていたゼロには一部始終が見えていた。
(カントがあいつの勢いづいた足の目の前にワープしたぞ……⁉︎)
カントが言っていた「人や物を瞬間移動させる」システムというのは間違いではなかったと、いまゼロの中で明確となった。いくら距離を取ろうとも、エピクロスの『逃がさない』システムの前には『逃げられない』。船から落ちて出ていくものを絶対に逃さないというある種便利だが束縛されているということに、ゼロは憤りを感じた。
「あの能力、どうやって攻略できるんだ…?」
カントは鼻から口から血を流してエピクロスを見据える。こぼれた血は海へと流れ、希釈されて見えなくなっていく。夜だからなおさら。血どころか5m離れたエピクロスのこともバックの船のかすかな光がなければ星明りの無い今夜は見えていなかっただろう。
「・・・・・・あいにく、あんたの顔は知らなくとも能力は既に知ってるんだよなぁ・・・・・・」
「じゃあお前を今からボコボコにしてやるから、そのままでいろよなぁ」
といいつつ、またも握りこぶしを作り、振り下ろした。
やはりカントはエピクロスのこぶしの目の前にワープしていた。しかし今度はさっきまでと状況が違う。
カントの腕と指の形は、エピクロスの顔をがっしりと握っていた。正確に言うなら、ワープされたとき既に手の形は出来ていた。空中にワープしたカントは重力を使い、そのままエピクロスを海面に向けて引っ張った。するとエピクロスは重心が変わったおかげで拳は狙いよりも下に行き、狙いが逸れて当たらなかった。カントはその握った顔を持って船の横腹に向けて投げる。
「そーらよッ!」
エピクロスは悲鳴を出すまでもなく、自分を投げたカントを睨んでいた。投げられた彼は大きな音を立てて船と激突、少し食い込み船は若干左に傾いた。
カントは食い込んだエピクロスを逃しはせず、船がちょうど海面と垂直になるタイミングで彼を蹴った。
木造の船を壊して彼が入ったところは、ちょうどみんな集まっているときの奴隷専用寝室だった。
「そいつのことはお前らに任せるぞ」
と言ってカントはその場で大きくジャンプし、甲板へ飛んだ。
エピクロスは普段鞭を何発も打ち続けている奴隷たちを見据える。全員、特にロッドに関しては床に寝ていて傷だらけで血で汚れている男に怒りと殺意を向けていた。
「勝手にしていいんだぜ、みんな」
全員が頷いた。エピクロスは一生懸命もがこうとするが体が動かない。声を出すことも叶わなかった。
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カントが船の上まで戻ると、そこには声を震わせてカントを見つめいていたゼロがいた。
「……お前も能力者なのか?」
「さあな。さっきは大きな音を立てちまったから、今はとにかく船室に戻るぞ」
「無理だよ。船室に戻ってる途中で必ず誰かとすれ違う。今から戻ろうとすれば見つかるぞ」
「ああ。中から帰ればな」
「え?」
言い終わるとカントはゼロの体を抱きかかえ、海に向かって思い切り跳躍した。
「えええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
ゼロは抱かれながらも叫びつつ、身をカントに委ねる。いつの間にかカントの腰に巻き付いていたロープはピンと張り、放物運動をするようにエピクロスが体で開けた船の穴にきれいに入っていった。ロープはいびつな切り口をした木の板によって切られ、カントとゼロは背中から落ちた。
「だれでもいい!この穴急いで塞げ!」
「これを使って」
奴隷の女一人が置いてあった予備のマストを広げて渡す。シリコンでできたそれは撥水性がとても高いので、隠すこともでき、応急処置にもなるだろう。
「こいつのこと殺したのか?」
と、エピクロスを指さしながらゼロが問いかけると、ロッドは首を横に振る。
「いや、殺してないよ。さすがにそこまではね。」
「海に捨てろ」
「カント⁉」
「十分痛めつけただろう?お前らにとっても、見つかれば鞭打ちで済まされないし、こいつが起きたら処理できるのは俺だけ。お前らはまた俺にこいつのことやらせる気なのか?」
彼らは人を殺したことがない。仮にも自分たちの上官である男を、海に投げ捨てるのには気が引けた。だからただ、黙っているだけだった。
「なんだ。人が殺す気で暴力を振るのは甘んじて喰らうクセに、自分から殺す気で暴力をふるうのはいやだっていうのか。この意気地なしども」
言い終わる前にゼロの握りこぶしがカントの頬を炸裂した。
カントはその場に倒れこみ、少し驚いた顔でゼロを視る。周りの連中はみなゼロのことを止めようとはしなかった。彼らもまた同じような顔をして動転していたのだろう。
「お前はアウトローな気分でここにいるんだろうが、俺らは法律を厳守していた国の出身なんだ。人殺しだけはタブーって心の中で線引きしてんだ。この一線を通り越したらもう二度と元に戻れないような気がすんだよ」
「……握りこぶしの作り方がなってねえよ……」
カントはゆっくり立ち上がり、ゼロを見据えて怒鳴る。
「だったら最後の最後までモラルある人間を突き通すんだな!暴力の無い善良な市民でも装ってろってんだ!」
そういって今度はカントが血の乾いた後がある手でゼロを殴る。その場でゼロは倒れ、数人がカントをゼロから引き離し、数人はゼロに駆け寄り心配するように声をかける。
そこに二人の船員が駆けつける。
「おい男衆ども。海にサメが出たのを確認した。先ほど数回大きな衝撃があったが、多分原因はサメがこの船にぶつかったんだろう。真夜中だが仕事だ!男全員甲板に出ろ!予定より早いが船を陸まで進めるぞ!」
そういって船員二人は部屋を出る。男はそのあとに連れて外に出始めた。
幸いエピクロスの体は女衆が隠していたので、なんとかばれずに済んだ。倒れているゼロの前に手が差し伸べられる。カントの腕だ。
「これでおあいこだぜ」
その言葉には、深い友情を忘れたりしないというカントの優しいまなざしがあった。彼の眼はまるで、太陽の光に照らされた湖のほとりのようだった。
「ちょっと痛かったぜ」
「ああ。俺もちょっとだけ痛かった」
ゼロはカントの腕を掴み、引き揚げてもらう。さっきまでの喧嘩は嘘のように、あっという間に雨降って地固まる。
いつの日かゼロのシステムは『拒絶』であるといつのときかカントは言っていた。だが友まで拒絶する能力ではないようだ。ゼロは自分の潜在能力に気づくのはいつになるのだろうか。