第23話 cliffhanger〜本編開始〜 (第2章完)
ここで一区切り。クリフ・ハンガーです。
ようやく張りたかった伏線をこれでもかと張れました。ここから楽しくなるんやなって……
ゴトンゴトン……
音はそこまで大きくなく、比較的乗りごごちが良かった。走り始めてずっとエクス人は興奮状態だった。それはそうと、その列車で乗組員が男に声をかける。
「すみません、ここは貨物区間ですので、この付近の立ち寄りはご遠慮できませんか?」
「俺は前の両に行きたいだけだ。そのぐらい構わないだろう」
「そうは参りません。この先は危険物がありますので……」
そう言う駅員の左腕が無くなっているのに、彼自身気づいていなかった。ドバドバ流れ続ける血に気づかないまま駅員は倒れた。
「ん?通っていいのか?なら通らせてもらう」
その男は一歩ずつ先頭車両へ足を運んでいく。先頭車両に向けて彼は何をおっぱじめるのか。
ーーーーーーーーー
「今日は駅を経由しないのか?」
「いいえ?これは特急で小さな駅に停まるわけじゃなくて、大きな駅はちゃんと停まるわよ?」
「だとしたらおかしい。さっき大きな駅を通過したぞ?景色を見てたら気になったんだ」
「今日は雨が降るらしいから、そんなに景色も良くないわね。あれ。ちょっと……」
「今通り過ぎてるぞ。いっぱい人待ってたし、何かやばくねえか」
「杞憂よ……きっと始発だけ終点まで直通なのよ……」
「そんなわけねえだろ。しかもさっきからアナウンス聞こえなくなってるし」
ゼロに言われて、小さな寝息を立てているラロ以外がハッと気づく。流石に違和感を感じたようだ。
「運転席ってどこだっけ?」
「確か真ん中の車両って言ってたから6両目よ。そこから後ろ3両が貨物車両ね」
「ちょっと見てくる」
「俺も」
「ちょっと貴方達……!」
パスとベルガモット改めベルは、一応彼らの護衛なので立ち上がろうとするが、通路を通る駅員にあまり席を立たないようにお願いされた。
流石にパスもイラっときたので、駅員に事情を細かく説明するが、駅員が確認に向かうのでやはり立たないように指示された。
大したこともないことを願うばかりだった。
ーーーーーーーーーーー
この列車は2階建になっており、運転席、車掌室ともに2階に在する。6両目に着いたジュラとゼロは、早速運転席と車掌席を見るや否や、目を見張った。血溜まりができているのである。
「これは……!」
「何が起きてんだよちくしょう‼︎一体誰が……」
「おう、まさかお前達からやってきてくれるとは思わなかったな。わざわざ先頭車両まで行く手間が省けた」
「誰だお前………」
ジュラが言い終わる前に男はジュラを窓の外に蹴飛ばした。ガラスを割れる大きな音、ジュラは列車の外に放り出された。
「ジュラ‼︎ぐっ!」
ジュラの身を案ずるゼロだが、その男は、明らかに人間のものではない太い腕でゼロを薙ぎ払う。ゼロは運転席を超えて車掌室の壁に激突する。
「誰だ……お前?」
「これから死ぬお前に俺の名を名乗ってもしょうがないだろう。王の遺伝子がなんちゃらと聞いてはいたが、この程度とは。お前らはOXTに入る資格などありはしないな」
「……っ」
「さらばだ少年よ」
男はゼロの首を掴んでそのまま窓の外に持っていこうとする。が、男は自分の腕が誰かに掴まれていることに気がついた。
「お前が落ちろ‼︎このクソッタレ‼︎」
「なっ……⁉︎」
瞬間男は窓の外に転移していた。掴んでいたゼロはすっぽ抜けて、自分だけ列車の外に放り出された。
「ジュラ……!お前さっき窓の外に放り出されたんじゃ……」
「ああ。たしかに放り出されたが、俺が最後に触っていたこの窓ガラスと自分の場所を入れ替えたんだ」
確かにその窓枠には一枚綺麗に窓ガラスが無くなっていた。ゼロはジュラの能力に助けられたが、また一つ聞きたいことも見つかった。
「なあ、場所を入れ替えるだけならこの窓ガラスの破片でよかったんじゃないのか?」
「俺の能力は転移させるものよりも大きい、もしくは重いものじゃないといけないんだ。さっきはこの妙にでかい机を外に投げて、あいつと位置を入れ替えさせた」
「なるほど」
合点がいった。だがこのままでは列車は常に動き続け、最終的に終着駅でぶつかってしまうだろう。ほのかに臭う鼻を刺激する匂いは石炭の燃えている匂いだ。爆発も避けられないのではないか。
2人ともこれをどう処理するべきか考えているうちに鈍い音が列車の上から聞こえてきた。列車の天井がメキメキと音を立てて外れているではないか。
「さっきはよくもやってくれたなぁ‼︎‼︎お前らもう容赦しねえぞ‼︎‼︎」
「まじかよあいつ、一度落ちたのに登ってきたっていうのか……?」
「逃げようジュラ‼︎あいつは何かヤバイ‼︎」
「逃がすわけねえだろうがよぉ‼︎今ここでてめえらを両手両足引きちぎって捨ててやるよこの野郎‼︎」
「戦わなきゃいけねえのか……あんなやばそうなやつに俺たちは」
人間のものとは思えなかった腕をさっき見たはずだが、今は人間の腕をしていた。一体何が起きているのか、2人は冷静に相手を分析しなければならない。
だが負けるわけにはいかない。この程度の苦難、乗り越えなければ王にはなれない。2人は立ち向かう。苦難の試練そのものへと。
次章のプロローグはありません。もうしばらくお待ちください。