第19話 MY LIBERATION〜新たなる一歩〜
投稿遅れて申し訳ありません。後で修正します。
倒れたティオとミルは調査隊が持つ転移の魔道具によって救急搬送され、ゼロも同じくホークライダーによって空中からユニオンに戻っていた。ハンナはゼロに付きっきりで、手術の時も一切離れようとしなかったため、救急隊に麻酔で眠らされた。
その後の医師の説明より判明したことだが、脊椎と頸動脈、脳に傷跡のようなものはなく、全て正常に稼働していることを知らされた。ただ、右腕の、魔力を循環させる栓が壊れていて、これは今外科的治療法を検討、研究中のものであるため、しばらくは治らないという事実も突きつけられた。
ティオは全身傷だらけで、3日間眠っていたと言う。その間、様々な人から花や贈り物を病室に置かれていた。そんなティオでも真っ先に思ったのは、自分の身体の調子ではなくゼロの容態のことであった。
ミルは右目の止血などを施され、現在のところ監視レベル最高レベルの3で、ジャーガジャック刑務所に様々な封印効果を持った首輪や指輪、腕輪をつけられて拘留中だという。
ゼロはこの後ハンナとラロと目一杯遊びセラピーを受けて、ラロの能力によって完治に至った。
こうして2人の、悪夢の1週間は終わりを告げた。
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ちょうどあの事件から1週間後、ティオからゼロとラロに召集命令が下りた。あの事件について詳しく話そうと言うティオの計らいだった。だがセィレーンはこれを「次のステップ」と言い換えた。なんのことかゼロには理解し得なかったが、行ってみればわかるといつも通り一蹴された。
「よく来たわね。いらっしゃい」
「キュー☆」
「たった1週間合わなかっただけだが、元気そうでよかった」
「そっちこそ。今日は私の説明責任を果たしにあなたとラロちゃんを召集させてもらった。ラロちゃんにはなんのことかわからないかもしれないけど、つまらなくなったらおそとであそんできていいからね」
「だいじょうぶ。はなしきけるもん」
「まあ可愛げあるわね。それはいいとしてゼロ、私はあの禍々しい生物について説明しなくちゃいけないわね
「あの、大きさと威力が比例しない異形の塊のことか」
「アビスコードっていうの」
「なに?」
アビスコード。それはゼロがこの大陸に来るずっと前に存在が確認された、未知の技術で魔法などを操ることができる生物だと言う。ちょうどそれは、10年以上前にエクスで起きた戦争の起因となった禍々しき存在であるという。
「その戦争でアビスコードはエクスじゅうを混乱に貶めた。大量の小さな生物と、山一つ吹き飛ばす威力を持った幹部クラスが確認されて、この王国の軍隊が迎え撃った。そこで大活躍したのが技術者なの」
「その名前久しく聞いてなかったな。そいつらほんと何者なんだ」
「リーダーはモリオウガイっていう人だったわね。みんなから『モリセンセイ』って言われてて、彼が強すぎるせいで中国にいる技術者たちも日本が掌握してる」
「本当に日本人みたいな名前だな」
前に船でカントから技術者のことを耳にはしていたが、ティオと話すうちで少しづつ全容が見えてきた。
どうやら彼らは日本を拠点に中国、フランスで密かに暗躍しているらしい。エクスにも派生組織を置いていて、世界中を監視しているという。
リーダーのオウガイは、OXTの席を狙うほかのメンバーと違って、永久的に技術者の頂点にいるつもりらしい。彼が上にいることで士気を上げる効果もあると言う。
ふとここでゼロは足音に気がついた。1人は先程ティオの部屋に案内してもらうと同時にお茶を運んで来たふくよかな男、もう1人は床を鋭く叩く足音より、ローファーで廊下からこの部屋まで15歩かけて歩いていたので歩幅は約74cm。つまりは慎重165cmほど。足音が通常と軽いので女か、やせ細った男か。
「失礼します。ティオ様、お客様がお見えになられました」
「入れてあげて」
ゼロは視線の先に、長い髪を後頭部で三つ編みのお団子にしている茶髪の、20歳ほどの年齢の女がやって来るのを見た。ゼロはその女の手首に釘付けになった。
その女は手首が繋がっていた、言い換えるなら彼女は手を縛られていた。
「ティオちゃん久しぶり!元気にしてた?」
「そっちこそ!フランスでは上手くやってる?」
「街の人みんな私に優しくしてくれるの。こんな手になってもみんなのお陰で生きてるわ」
てっきり罪を犯して連行されたのかと疑ったが、彼女はティオの知り合いらしい。こんな手と言うのだから、何かただならぬ秘密でも持っているのだろうか。
「紹介するわね。彼がゼロよ」
「あなたが……話は聞いているわ。アビスコードの幹部クラスとOXTの幹部を倒したっていう……しかもその功績が認められ、王国が勲章を授与させると銘打ってるらしいですね」
「待て待て待て!俺そんな話聞いてないぞ!」
「あれ?てっきりティオちゃんが伝えていると思ったのに」
「……私が意図して伝えてないのよ。王国のこと嫌いなの知ってるでしょ?」
「あら野暮だったかしら」
王国から勲章を貰えるのは光栄なことではあるだろうが、ティオが受け取らないというのであれば、ゼロはただ1人授与式に出席することになる。それは王国のティオへの心象を悪くしてしまうに違いない。ゼロは慎重に今後のことを決めることにした。
「突然だけどゼロくん。今日用があるのはティオじゃなくてあなたの方なの」
「同じことをあの男も言ってたな。忌々しい」
「今日をもってあなたを正式にクレイドルの一員として迎えるわ」
「……は?」
「キュー?」
ゼロは首を傾げるとハンナも真似して首を傾げる。どうしてこうも自分の周りには分からないことをまるで知っているかのように言ってくるやつばっかなんだよ、と今思っていることだろう。今度は知らない組織に入団させられるのか。
「きっとあなたは今聞きたいことが山ほどあるのでしょう。とにかくついてきてください。話はそれからです」
先ほどの勲章の話の後にこの話を出すのだから、何か功労賞のようなものなのだろう。子供は知らない人には付いて行かないでと親にしつこく言われているだろうが、ゼロは12歳以降初めて知らない人についていこうとする。
「しばらく会えないけど、どこにいてもその舌にある紋章は消えないから、魔力が必要ならいつでも取っていっていいわよ」
「おう、またな」
そういえば彼女の能力のことを聞きそびれたが、どうせまたいつでも会えるんだろうし、別に今聞く必要はないと思い詮索はしなかった。
だが2人が再開するのはずっと先になるだろうということを、このときゼロはまだ知る由もなかった。
ティオ・???
能力名『オール・フォー・ワン』
3種類ある紋章「搾取」「譲渡」「交換」を任意で刻み付けることができる。能力発動の条件は「ティオの体液を体内に摂取する」こと。ティオはこれを利用して無尽蔵の魔力を蓄えておくことができるが、あまり外部と内部の魔力放出が多ければその分ティオのスタミナも消費する。
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ジョン・スチュワート・ミル
能力名『フィルター』
物質を濾過して質を大幅にあげることができる。泥水を純水に、劣化ウランを純粋ウラン235に、魔力を超良質魔力に。