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We are the ONE‼︎〜王の遺伝子〜  作者: ギガス
第1章
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第1話 Wanna be the ONE〜見返してやる〜

「12歳の誕生日〜?」

「「「おめでとう!!!」」」


狭いリビングに三人の大きな声が響く。

彼の名前は『ゼロ』。この物語の主人公であると同時に、10月10日のたった今12歳の誕生日を祝ってもらっていた。


「何事もなく12歳になれてよかったなぁ!ゼロ!」

そういう彼はゼロの父親だ。

ゼロは医者から、遺伝的な病気にかかっていると診断され、12歳まで生きることができる確率が50%と言われていた。

だが、今ここにゼロは生きている。人生で最も重要で最も壮大な誕生日を迎え、その大きさに比例するかのような、12年間のうちで最も大きいであろう誕生日パーティーだ。12本のロウソクはすでにゼロの息で消されていた。

一体この家族は医者の診断を始めて受けた時、どんな絶望を浮かべただろうか。現在では本人の免疫力だけが頼りの、原因不明の遺伝病にかかったと、まだ3歳にも満たない、物心ついているのかさえ不明な歳の時に宣告されたのだ。

ちょうどその時、母親のお腹には、妊娠20週間の妹のがいた。これから生まれてくれであろう女の子に兄ができると思った矢先、これである。母が浮かべた顔は想像に難く無いだろう。


「色々あったけど、本当に良かったわ。もうこれで病気に恐れることなく生活できるんですもの!」

「お兄ちゃん、良かったね!」

そう歓喜に母と妹の2人だったが、ゼロはそう思っていなかった。確かに、ここまで大きい誕生日パーティーをされると嬉しい。だが、彼は自分の体に異変を感じ始めていた。

両腕が腱鞘炎にかかったかのように痛い。始めはすぐに治るだろうと思っていたが、その痛みは腕の、特に手首あたりに移動して、腫れが出ているわけでもなく痛むのだ。手首のマッサージをしても一向に引かない痛みは、彼を心配させるのには十分だった。

とにかくこれが例の遺伝病でないことを、彼は祈る事しか出来なかった。


「ありがとうお父さん、お母さん。でもちょっと僕ちょっと疲れちゃったから寝るね。僕の分のケーキは取っておいてね。」

「えー折角高いケーキ買ってきたんだから、また冷ますと美味しくなくなっちゃうよー。一緒に食べようよお兄ちゃん」

「じゃああとで食べるから、そこおいといてよ」

そう言ってゼロは自分の部屋に戻って行った。

「ああちょっと!」

「ねえねえお母さん、お兄ちゃん、腕を抑えていたけど、どこか怪我したの?」

「え?」


まさか。いや、これはただの腱鞘炎か、打撲による痛みだろうか……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ジンジン痛む……眠れない……」


手首にある橈骨動脈がかなり浮き彫りになっているところがとても痛むので、心臓から血液が送られてくるたびに手首が痛む。それがここ1週間治ってないのだから、彼に異変を感じさせるのにも無理はなかった。


「入るよー」

妹の……が部屋に入ってきた。手には1ピースのケーキが乗った皿とフォークがある。


「おてて痛いの?お兄ちゃん」

「おててって……お前もう9歳だろ?……子供みたいに喋るのはやめなよ。」

「いつまでたっても降りてこないから、持ってきたよ、ほら。」

「……ああ、そこの机に置いといてくれ」


誰が見ても、12歳の誕生日を迎えた者が浮かべる顔ではないというのは明らかだった。だがしかし、妹はそれを全く気にもせず続ける。


「突然だけど、明日朝早くにロンドンの港までお使いに行ってきて欲しいの。お魚が冷蔵庫に全然無いってお母さんが。自転車で10分だから、カンタン!」

「なんで僕が行かなくちゃいけないんだよ。そういうのはお前の仕事だろ?」

不満を述べるゼロに妹は続ける。

「わたし明日いーっぱいやらなくちゃいけないことあるから、ごめん!お願い!」

やらなくちゃいけないことってなんだよ……と思いながら、小学校は秋休みで宿題も1日目に済ませたから行ってやろうかと思いつつ、手首が痛いので寝ることにした。

「ちゃんとケーキ食べてよ!」

おっと忘れていた。今見ると貧乏な家庭ながら、こんな美味しそうなケーキを食べれることを幸せに思いつつ頬張る。

「それが……最後のお兄ちゃんの贅沢になるからさ。」


そんな妹の声は、小さすぎてよく聞こえなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝。

痛みのせいで5:30に起きたゼロは、秋風の寒いのを我慢して自転車で港まで行った。自転車のハンドルを持つ手も、前と違って力があまり入らなかった。

ロンドンの魚卸市場は朝早くの5:00からやってるところが多い。とれたての魚を購入できる、港町住みならではの特権だ。ゼロは今日の朝食に間に合うように早く用を済ませてしまおうと考えていた。


「さてどうしようかな……やっぱりここはオーソドックスにサーモンかな……」

そう考えていると、店主のおじさんが突然、ゼロを見て話しかけてきた。


「なぁなぁ⁉︎、あんたゼロくんだろ。あそこの木の船の中でも魚売ってんだ。見てってよなぁ⁉︎」

そういう店主はあまり清潔感を感じさせないような雰囲気だった。魚を売る人のイメージとは遠くかけ離れていた。早朝だからか、人がいないので自分のことを認識するのは難しくないが、

だが言われてみれば、今の時代からすると遅れてるように思われそうな、しかしとても大きな木製の船から人が出入りしているのがわかる。その人たちも、朝なのにどこか高価そうな服を着ていて、急ぎ足で船から大きな荷物を持ち出しているみたいだ。


(あそこで本当に魚売ってるのか?)

と思うゼロだったが、百聞は一見に敷かず、半信半疑で中に入って見ると、意外と人は多く、ガヤガヤと賑わっていた。強いて分からないことといえば、話している言葉の中に知っている言語がないというところか。


(本当にここで合ってるのか?)

不安がこみ上げてきた。どこかに英語を話せる人はいないのか。周りは自分の知らない言語で溢れている。


「あのー、魚を買いに来たんですがー……」

試しにそこにいた船員みたいな服を着た男の人に話しかけて見ることにした。


「ん?ああ、付いてきな。」

船の中で初めて聞いた英語だった。もどかしくも大人しく付いていくことにした。


「この部屋だ。さあ、入った入った。」

ゼロは部屋に入ると同時に違和感を感じた。魚が一匹も見当たらない。部屋には、魚の生臭い匂いではなく、もっと違う気持ちの悪い臭いが立ち込めていた。


「ねえ、ほんとにここで合ってる……」

その言葉は、勢いよく閉じられたドアと、ゼロの鳩尾に来た蹴りによって遮られた。


「がはっ⁉︎」

「おうおう、お前が聞いてた男の子か。にしてもずいぶん危機感ねーな。魚がこの船で売られてないことくらい気付けって」


あまりにも唐突で、話が見えなかった。痛みで苦しんでるゼロに、木製の手枷を後ろ手ではめられる。さらに男は胸から一枚の紙をゼロの顔の目の前に持ってきて続けた。


「コレが見えるか?奴隷売買契約書だよ。ほら、ここにお前の親のサインと印鑑あるの分かる?お前は親に売られたの。良かったな!」


12歳の理解力ではこの状況を理解する事はできなかった。12歳で無くても分からないだろう。ほんの昨日誕生日を祝ってもらったばかりの親に、今【売られた】と言われたのだ。

それだけでは終わらなかった。


「ほら、ここ見ろよ。俺らはお前を奴隷として購入すると共に、お前の親は100万ポンドを受け取るって。よかったなぁ。お前のおかげで親はこれから贅沢に暮らせるぜぇ?」

「嘘だッ!お父さんとお母さんはそんなことしない!」

「じゃあ思い出してみろよ。唐突にお使いを頼んだのは誰だ?」


昨日の記憶を掘り返す。頼んできたのは妹だが、間接的にお使いをお願いしたいと言ったのはお母さんだ。そんなまさか。


「ゲホッゲホッ、そんなちっぽけなことで売られたなんて信じる方がバカだ!」

「バカはどっちだこのクソガキ!」


またしても鳩尾を蹴られる。ゼロは地べたに這いつくばって、痛みで言葉も発せなくなった。


「この船で売ってる物はなぁ、奴隷なんだよ。ド・レ・イ!最低3年間この船で躾けた奴隷を高貴で裕福な奴らはそれらを買っていくんだよ。大枚はたいてなぁ!」


ゼロの脳内は、乗船した人の殆どが高価そうな服を着ていたということより、1年以上も奴隷として働かせ続けるのかという思いの方が強かった。

涙目で紙をもう一度見ると、両親の名前と拇印まで押されたスペースに腹が立ってきた。もしこれが本当に両親が書いた物であるとするならば、12年間は一体なんだったのか、遺伝病の心配から解き放たれたんじゃなかったのか、そもそもなんで自分の息子をこうも簡単に金目当てで交換できるのか、その動機はなんだ……………

そうこう考えているうちに意識が遠のいてきた。

(もしこれが本当にお母さんたちのものなら……)

その時ゼロの腕になにかが起こったが、今気付く事は無かった。

本格的なバトルが始まるのはもうちょっとだけ後です

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