第17話 J・S・M part.2
ちょっと明日更新できないかもしれません
「魔力の譲渡だって?」
「そう。私は生物全般に契約の紋を授けることができる。この紋章は決して消えない烙印のようなもので、私との、永遠の契約を結ぶものよ」
「さっきからずっと光ってるのは、魔力を契約者から引き出してるってわけだ」
「そう。この紋章が刻まれている、もしくは直接触れている者に効果があるの。3種類の紋章があるんだけど、説明してる時間はないから後でね」
「その紋章が体に現れる条件としては?」
「…………っ」
「何だよ」
「その……言うのが恥ずかしいのよ。察してくれる?」
「言ってくれなきゃ分かんないだろ。ものが欲しいけどうまく言えない7歳児か」
「耳貸して」
「………………………………」
「ね?」
「それは確かに恥ずかしいわ。何でそれが判明したのか気になるけど、それこそもっと恥ずかしいよな」
「キュー?」
先程までの、ティオの無尽蔵の魔力は今まで契約を行ってきた者達から吸い上げていたのだ。だとしてもあの10分間の火球の量然り、一体何百人と契約してきたのだろうかと不思議に思う。
ゼロはティオと周りを警戒しながら山を降りて行く。山さえ降りられれば、あとは街に紛れ込めばいい。だがそんなゼロ達の希望を簡単に打ち砕く事案が舞い込む。
「この濃度……あの男の……‼︎」
「そんな馬鹿な‼︎あんなに何個もベンタムを置いてきたって言うのに⁉︎」
「落ち着いてゼロ。これはあの男が感知網を広げただけよ」
「……冷静に分析しようか」
なぜミルは感知網を広げたのか。
1つ、魔力を対象にした感知をやめた
「例えば高低差とか。山の中腹からさっきから降りてしかいないから、1番高度が下に位置する魔力の塊を探知しているのかも」
「思い出してゼロ。あなたはこの山の下にも向けて石を投げたわよね?」
「それもそうか。じゃあこれは違うな」
2つ、ゼロの魔力を感知している
「量が少ないゼロの魔力を感知しているとしたら……」
「いやいや、俺の魔力は少ないんじゃなくて無いぞ?」
「そうでも無いわよ。ゼロ、自分で認識してないだろうけど、人には誰でも魔力を貯めておく貯水槽があるの。あなたも例外じゃないわ」
「仮に俺に魔力があったとして、その極小の魔力をあいつが感知できるのか?」
「まあ、確かに……」
考え過ぎて立ち止まっていても仕方がないので、道が険しい中をゆっくり歩きつつ、ティオがコツコツ貯めてきたベンタムをさまざまな方角に投げる。
「ちょっと待ってゼロ。嫌な予感がする」
「どうした?」
「もう一つ感知できる方法を思いついちゃった。一番初めに選択肢にあった『魔力以外で感知を始めた』というのはあながち間違いじゃないかも」
「なんだって?」
「これほど濃度が濃い魔力じゃないんだけど、一応私もあたりにある魔力は感知できるの。レーダーみたいに観測して、魔力の出所を頼りに人命救助とか。これを応用すれば……」
「その通り。お前らも見つけられるってわけさ」
2人の後ろにいたのは、すでに詠唱を済ませて、魔法を準備していたミルだった。
「魔法榴弾‼︎」
「危ない‼︎」
先に動き出したのはゼロだった。が、ティオに肩を掴んで引っ張られ、ゼロは尻餅をつく。
直後大きな爆発と砂煙によってあたり一帯は暗闇に包まれた。
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「爆発がしましたね。あそこでティオ様が何かと戦っているに違いないですよ」
「まさか、あの境界線から怪物とか現れたんじゃ……」
「こんな例は初めてですよ。隣の山だったものもあんなになってますよ。そう言えば、そんな威力と比べれば、今のは小さかったな……」
「とにかく、力になれるかどうかは分かりませんが応援に行きますよ。休憩は終了です」
彼らはあの巨大な山をごっそり削り取った爆発を聞いて、ティオがいると確認されて応援に行こうとしている魔導師たちだ。彼らもまた、あの山の形を作った元凶と戦いに行くことに恐れをなしているが、彼らの恩人のティオを助けに行かないという選択肢はなかった。
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「いつも守られてばっかじゃねえか俺は」
「自分を責めないで。あれは先が尖って収束するタイプの弾よ。無効化できるとしても、時間がかかるから必ず次が来ていたわ」
「ハンナ、飛んでろ。ここは危険すぎる」
「キュー……」
ティオは嫌な予感がしている時から無詠唱でバリアを張る準備をしていた。近くに現れたということは、自分にも被害がいかないほどの威力で撃つはず。よってゼロの能力で消さずとも、自分の障壁で守れると踏んだのだ。
「しかし今の技は……」
「魔法榴弾。尖った先は地形に食い込み、外部だけでなく内部をも破壊する、僕の中で一番お気に入りの技さ」
「やはり位置は悟られてたか」
「ああ、僕が反応するレーダーの中で、測定前と測定後で位置を確認するんだ。時折動いているものから離れた魔力源が出てくるが、どうせあの得体の知れない黄色い鉱石なんだろうなと思って見に行かなかったのさ。で、そしたら見つかったた。もう逃げ場はないよ」
ミルが身構えた。彼が2人に勝負を仕掛ける理由は未だ不明だが、彼は2人を殺しに来ている以上対抗しなければならない。
「魔法榴弾‼︎」
それはまるで尖った小さな岩を飛ばしているかのようだった。爆発が辺りを襲い、ゼロはティオが作る防御魔法ランク5の網糸の後ろでじっと身構えているだけだった。あまりにもティオが頼り甲斐がありすぎて、ゼロの出番が全くないのだ。
この防御魔法『網糸』は、打撃攻撃に弱いものの、遠距離攻撃を、その網の柔らかさを利用して跳ね返したり、逸らしたりすることもできる。だが、やはりそれはミルも既知のようで、すぐに近距離攻撃に切り替えて来る。
そう来ることをティオは分かってたかのように、近くに巻いていた罠を発動させる。その元はゼロがいろんなところに投げ続けていたベンタムだ。彼女はその石に蓄えていた魔力と接合し、その石から詠唱して罠を発動させたのだ。
ミルはあまりにも驚いてしまい、その罠の発動に反応が遅れた。障壁を張るまでもなくミルは吹っ飛ばされ、立ち位置は振り出しに戻る。
「ハハハ……嘘だろ?お前、三重思考できるのか?」
「ええ。訓練したわよ。無詠唱を習得するよりも苦労したわ」
「やっぱりだ。お前はどの魔導師よりも優れている。四賢人よりもずっとな。お前の名誉はこの俺、OXTナンバー10が保証してやる」
「OXTだと……?それもナンバー10って」
「ああ。だから僕は能力者だ。僕の能力は『物質を濾過させる』ことができる。汚水を純水に、魔力を超良質魔力へとね」
「だから濃度が濃かったわけだ。濃い魔力であるほど魔法の威力への還元率は高い。だからあんな小さな榴弾でも大きな爆発を起こせるんだ」
「正解。揃ったね?ここに1千万人に1人と言われる能力者が三人も。拒絶、濾過、譲渡だと」
ティオは先程からミルが足の方に魔力を集中させていることに気づいていた。次は蹴り技がやってくれであろう。ティオは自分に硬化魔法を掛け、罠を仕掛けて待機し、ゼロを守る簡易的な結界を展開する。準備は万端だった。
だが、ミルの行動はティオと大きくズレていた。
ミルの魔法は特殊である。詠唱をせずとも体の一部に魔力を覆うだけで爆発的に速度も威力も上がる。高度な魔術を施すにはティオじゃあるまいし詠唱を施さなければならないが、詠唱する時間を無くして高い威力を出せるのだから、対魔導師としてはもってこいの術だ。
それを存分に活かすと思っていたが、ミルはゼロに走ると見せかけてティオに狙いを定めていた。ティオはパターンBが来ただけだと対応を変えたが、直後自分が作った防護壁に叩きつけられた。体に激痛が走り、アドレナリンが出て来る中でティオは状況を素早く認識した。
ミルは先にティオとゼロの足元にベンタムを仕掛けていたのだ。その石はさっきまで陽動に使っていたティオの石である。ゼロもティオも対応が遅れた。直後ティオからゼロに標的が移り、ゼロもまた吹き飛ばされる。ミルはそこで手を緩めない。
飛ばされて行くゼロを追いかけていた。ゼロはなんとか空中で受け身を取ろうとするが、ミルが追いかけて首を掴まれ木に激突した。ゼロは受け身をとれず、頭から星が出てきそうな痛みを感じたが、口にうがいできそうな程の血が溜まっていたとしてもミルの手に吐き出し舌を噛んで意識を保つ。
「離せ……」
「もう力も出ないだろう。君の能力が拒絶なら、意識とも永遠に拒絶してみます?」
「ゼロに触らないで‼︎」
「魔法榴弾‼︎」
「なっ……」
いつ詠唱したのだろうか、比較的大きめの魔法榴弾を撃って来たのを反射的に同じような魔法で相殺を試みる。ゼロが巻き込まれない単発の威力が高い攻撃魔法ランク8『炎鷹』である。ティオのオリジナル魔法で、辺りの酸素を物凄い勢いで吸収して爆発的な威力を前方に叩きつける魔法だ。これにより、ティオもミルも、そして軽くゼロも酸素不足で呼吸困難になりかけるが、ミルは御構い無しにゼロの首を掴んでいる右腕に超良質魔力を込めた。
「これは拒絶しないんだな。君の能力、なかなか魅力的だったけど、攻撃的じゃないならこれでおしまいだ」
「やめて‼︎」
ティオの悲痛な叫びはこの空気を変えることはなく、ミルの右腕が闘気覇を発生させた。まるで手に手榴弾を持ったまま爆発を起こしたような技の後、木は爆発で折れ、ゼロの頸動脈の血流は逆流し、肺が機能しなくなる。次に首の骨が折れて脊椎と脳にダメージが入り、ゼロの身体の機能は完全に停止する。
死だ。
ティオはたった今絶望を目の当たりにした。