第12話 side of Kant Part.1~閑話:カントの日常・その1~
予約投稿を間違えてしまっていたので、今日だけ16:00投稿です
すみません
やあ。また会ったね。俺の名前はカント、ここで衝撃の事実。この名前偽名なんだ!
え?知ってた?まあそうだよな。OXTの面子の名前聞けばコードネームだってわかるもんね。
俺はOXTっていう組織のナンバー2だ。ボスは除いてな。主な活動って言ったらそうだな……企業フィクサー?建国者(予定)?で、慈善家?治安維持活動家?
あー待って。建国者ってなんだよって思っただろ。実は俺には夢があるんだ。自分の国を建国して……頭痛が痛くなってきた。そう、平和まで行かずとも平穏な暮らしができる世界を目指してんだ。OXTにいる一部のともだ……メンバーに働きかけて手伝ってもらってる。これができるからOXTなんだ。
さてと、ちょっとばかし俺の建国日記を見てもらうとしようか。今日の俺は企業フィクサーだぜ!
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重苦しく緊張感がどことなく感じられる空気の中、見た目が50代後半と思える険しい顔をしたものが10名揃っている。ここは新大陸発の民営の鉄道会社である。ここは重役たちが定例会議を行おうとしており、社長が取り仕切り始める。
「エクス列車建設の現在の状態を報告しろ」
「はい、現在チキュウとの物資運搬は順調に行われており、完成まで超特急で進めております。カント様に言われた10年という目標も予定通り行けば達成できそうでございます」
「よろしい。だが事前に渡された報告書では、資材の調達に先月よりも金がかかっているようだが」
「そちらはチキュウの鉄と銅の高騰が原因であります。値上がりにより、予算の一部をこちらの方に使うことになってしまいそうです」
「どのくらい延長する予定だ?」
「私は3ヶ月と踏んでおりますが、10年のノルマと予算内余裕で間に合うでしょう」
「完成まで間近なのだから、皆の者、決して気を抜かず職務に励むように。他に無ければ終わるが……それと君は残りなさい」
社長がそう言うと役員皆揃って出て行き、報告をした役員の男と社長だけが残った。すると奥のドアからノックをする音が聞こえる。
「入ってください」
一瞬男は驚いた。強面で強情なあからさまに接しにくいうちの社長が敬語を使ったのだ。その相手は
「初めまして。とりあえず二人ともそこ座って」
20歳前後のベリーショートな黒髪でスーツ姿の少年が出てきたのだ。男の思考回路はショートした。
社長に上から目線で話しかけるとはなんたる不届き者だと脳裏に浮かんだが、次の一言で男の目の前は真っ白になった。
「あなたが横領していたんですね。この会社の金を」
「カントさんの手紙の通りやったらやはりボロが出たな。まさか君のような真面目で誠実な男がやるなんて思わなかったよ」
「ちょ……ちょっと待ってくださいよ、何を根拠にそんな事言うのですか。横領だって?冗談はやめてください」
男はあくまで冷静を装っているつもりだが、 カントはお構いなしに追撃を行う。
「3ヶ月前から横領の徴候はあった。毎月1億、予算と比べれば決して高いわけじゃないから普通は気づかない。鉄と銅の高騰もおかしな理由じゃない。だが、それが毎月同じ額づつ実際の額よりも増えてるんだ。ぴったり1億1千2百万円、端数が百万円単位だから簡単に気づいた。まるで借金でもしてるかのように」
「な、なんだって……」
「次に動機探しのため、この会社の上層部のプライバシーを1週間かけて全て調べ上げさせてもらった。みんな何の個性もない中、あんただけ一つ他と決定的に違うところがあった。えっと……あんたの息子さんは……」
「…………ああ。とても重い病気にかかっている。エクス人の1千万人に1人がかかるとても珍しい病気だ」
「先天性細胞腐蝕障害。徐々に筋肉と血管が壊死し、早期的に治療しないと手足が動かなくなり、最終的には心臓と脳に達すると言われている……治療法も全く確立されておらず、研究の難題さと莫大な研究費用が原因で死亡率は100%と言われている病気だな。あんたは自分の息子のために会社の金を横領してまで研究に投資していたんだ」
「その通りだよ。どうして俺の子がこんな目に遭わなきゃならない?まだ産まれたばかりだというのに、酷すぎる仕打ちじゃないか」
「……君を治安維持部隊に身柄を引き渡す。付いてきなさい」
「どうしてなんだよ……」
男はたった今2度目の絶望を味わうことになった。不可逆的で、失うことは避けられないという揺るぎない事実を突きつけられ、自分の生きる意味は無くなったと思った。
カントはその顔を見て、3年半前のゼロと重ね合わせた。まだ子供なのに親に捨てられ、ここから逃げる事は出来ないと知った時の顔を。カントは言おうか迷っていた言葉を出て行く寸前の男に投げた。
「優秀なのも、大切な家族を守るのもおおいに構わない。だが俺には何を犠牲にしても達成せねばならない目標がある。それが10ヶ月も延ばされるのはご免なんだよ」
「…………」
「だけどな、俺が今言った言葉は自分の目標を明確にするための体裁、守らなくていいスローガンみたいなもんなんだよ。救いを求めるものには手を差し出し、絶望に沈むものには希望を与える、そういう奴になろうとあの日から決めたんだ」
「……じゃあ僕に君は希望を与えられるとでも言いたいのか?今から全てを失うこの私に‼︎」
「あんたの息子さんの病気を詳しく調べた。どんな医療機関よりも完璧に全て分かる解析を使った。あんたの息子さんのその病気は先天性じゃない。後天性だ‼︎」
カントは男の挑発を最後まで聞かず、途中で遮って叫んだ。半ば動揺している男にカントは続ける。
「先天性の細胞腐食障害は産まれたときから脳に障害があるせいで手術が不可能だという理由がある。だが‼︎後天性は脳から来る病気じゃない。体のパーツから始まりそれをもとに侵食する病気だ。思い出せ‼︎最初に腐食が始まったパーツはどこだ‼︎」
「…………左手小指の先だ……」
「なら小指の第一関節を切り落とせ。そうすれば腐食化は止まるし、腐食した部分は自然回復する筈だ。これが最近の研究で分かったことだ。どこかの誰かが多額の研究費用を提供したおかげで、もう少しで解明できそうだった研究が後押しされたんだと」
「………………………………」
「行きましょう。もう君はここに用はないでしょう」
無言で立ち去って行く社長と男。カントは家に帰ろうと振り向いたところで後ろで男が呟いた言葉を聞き逃さなかった。
ありがとう、と。
よかった等の安堵の言葉ではない。感謝の言葉だった。カントの口角はいつのまにか少しだけつり上がっていた。
先天性細胞腐食障害は新大陸で最初に発見された治療法のない病気だ。当然、横領は許されることではないが、彼の行動は良くも悪くも未来につながるであろう行動であっただろう。後天性の治療法は完全に確立しているわけでもないし未だに完治できる治療法はない。だがそんな事は、カントの中でどうでも良い事であり、自分は人に希望を与えたということしか頭には無かった。