第11話 Controller~ストッパー~
ここは社長室のような場所だ。ここに来るまでゼロはイライラする気持ちを押し殺しラロを見て中和していた。応対していた受付係をも鋭い形相で睨みつけていた。受付嬢は黙って深く頭を下げたが、その態度がゼロの気にくわず、余計にイライラさせるだけだった。
「それで、先程はこの烏合三人衆が迷惑かけた。本当にすまん」
「あなたが謝ることじゃありません。人相を特に確認せず、思い違いで人を殺しそうになったその3人に謝ってほしいのですがね」
「「「……す、すみませんでした……」」」
その3人も“これで満足か?”と言わんばかりの顔をしているが、ゼロがそれに気が逸れる前にCCが話を切り出した。ティオは3人をその場に正座させた後、CCの横に座る。
「それで、ご用件はなんじゃらほい」
「セィレーン・キルケゴールという人の紹介でここにきた。ティオさんに言えば分かると言われて」
ティオは目をまん丸にしてゼロと目を合わせる。親が子供に怒るような顔で見られたゼロは何事かと動揺するので、何処に驚く場所があるのかを聞くのを出遅れた。
「しごとをあっせんしてくれるっていってたよね」
「えっ…………ええもちろん。何がいいかな……って言っても分かんないよね。ちょっとリスト持ってきてあげるから待ってて」
と言い、3人の返答を待たずに出て行ってしまった。かなり早口で言われたので、後半よく聞こえなかったが特に気にすべきことでもないと勝手に自己解決した。
「それで爺さん、俺たちを能力者だと言ってたな。俺たち以外にも能力者っているのか?」
「現に君がさっきまで話していた彼女。能力者じゃぞ」
「なに?」
意外な返答が帰ってきた。魔法を使うだけの普通の魔法使いかと思っていたが。CCは補足説明をしてくる。
「まあ彼女は元四賢人じゃから。普通の魔法使いというわけでもないぞ?」
「四賢人?」
「この大陸で最も強いとされる4人の魔法使いのことじゃ。この国の王子が直々に指名する行政の最高機関に直属している王族の親衛隊みたいなものじゃ。給料はどこよりも高いし、将来は絶対安泰じゃから、国のすべての魔法使いはこれに憧れてるんじゃ」
「そんなところにあいつがいたのか……でも最も強い魔法使いと言う割には、さっきのバリアは随分薄かった気がするんですが、これ俺がナメられてるだけですか?」
「君は同時思考と言うものを知っているかね?」
「同時思考って……そのままの意味だろ」
「一つの魔法を詠唱しつつ、裏では別の魔法を頭の中で詠唱し発動するのだ。つまりは隠し刃。この技術は通常無詠唱の技術と脳が2つ必要だといわれているが、何千回も回数を重ねているうちにようやくできる技術なのだ。儂でもできん。でもそれを――彼女は10歳でやり遂げおった。彼女は天才じゃよ」
「俺と対峙した時も喋りながらシールド張れていたのはそういうことだったのか……そんなに優秀な魔法使いがなんでこんなところにいるんだ」
「それは彼女に直接聞きなさい」
横を見てみれば、ティオがそこにいた。扉のそばに隠れていて話を聞いていたのは気づいていたが、他愛もないこのような会話をわざわざ隠れてまで見る必要があるというのだろうかと思っていたが。
「国に縛られたくないからよ。私はこうやって仕事を失った人、幼いうちに両親を亡くした人たちを絶望から救ってあげたい――それでも王都からの勧誘が激しくって、時には私の……いや、まあ頭のおかしい人がたまに来るのよ。この3人は頼んでもないのに彼らを追っ払っているのよ」
「だって俺たちにゃこれしか恩返しすることができませんもん!」
「そうっすよ。あんな話聞かされたら黙ってることなんてできないっす!」
彼ら3人はお金が出るわけでもないのにユニオンをパトロールし、ティオに寄り付く虫が現れたら二度と来ないように痛めつけるのだという。
「お前らには俺がティオに変な目的で会おうとする不審者に見えたってことなのか」
「反目はやめようよ。むいみだよ」
「まあ確かにしつこいのは嫌われるよな。もうやめだ。ったく、ラロは可愛いなぁ。可愛いでしょこの子。俺のストッパーになってくれる」
「えへへ」
ラロに諭されて、ゼロの心は一気に冷めた。なにもかもどうでもよくなった気分になり、この目の前にいる3人のことはどうでもよくなったのだろう。ゼロは黒と赤が混ざり合っているボブヘアーをぐしゃぐしゃにしないよう優しく撫でる。可愛がってくれるのが嬉しいのか、ラロは満更でもない顔で微笑みかける。その姿がほほえましいのか、生まれたての赤ちゃんを見るような温かい目でラロを見ている5人がいた。
「あなたにはそう、特別任務を用意しているのよ。あなたに限った話じゃないけど、保護した能力者にはほかの人にはやらせない極秘任務があるの」
「ちょっと待ってくれ……この……これって?」
「ユニオンは孤児でお金もない、肉付きもよくない子供たちでもできるよう教育を施しているんだけど、その子が教育を受けたいと思うなら参加するたびに給料を出しているの」
「授業を受ければ金が貰えるのか!?……やらない手はないじゃんか」
「ええ。その代わり、支援を受けた分のお金は『ユニオンで最低5年働くこと』か『支援を受けた分のお金を返還すること』が必要になってくるわ。いわゆる奨学金みたいなものね。イギリスの奨学金制度を少し私たちなりにアレンジしたものといえばいいかしら。とある財団と協力して、将来を担う若い子を育成しているのよ」
「そらすげえ。無償どころかプラスして返ってくるなんて……普通じゃ考えられねえよ」
「もちろん、これのほかにも規約はあるけど、ユニオンを立てたCCも私もここの職員もみんな子供が好きなの。だから行く当ても住むところもない子供たちを、私たちは全力でサポートしたい。そういった理念でユニオンは動いているの」
腕を組み下を向いてうなずいていたCCは、思い出したかのような素振りで顔を上げる
「話がそれているようじゃが、君はここに特別な仕事をもらいに来たんじゃろ?」
「あ、はい。仕事をもらいに来たんだ……ってラロは?」
「さっきあのズッコケ3人組と外に遊びに行ったわよ」
「気配もなく消えたぞおい。陽気なのはいいが、ラロを止めてくれる人は誰もいないのか」
あと2、3話くらいで1章は終了です。2章は書き溜め次第投稿したいと思っています。