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We are the ONE‼︎〜王の遺伝子〜  作者: ギガス
第1章
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第10話 Ex~エクス人~

ゼロの教育方法が変わって4ヶ月が経った。この間、ゼロとラロは突然の方式変更に戸惑いながらも、厳しい教育に徐々に慣れていった。

修行開始から5ヶ月が経過。セィレーンは当初の予定通り、ゼロを新しい場所へと導くことにした。


「唐突だが、ゼロとラロには組合(ユニオン)に行ってもらう」

「……組合(ユニオン)⁇」

「そうだ。次元の割れ目付近の調査、港に届く荷物運び……これ以外にもたくさんある、要は職業斡旋所だ。お前らにはここで仕事を斡旋してもらい、経験を身につけてもらうんだ」

「それで、その荷物運びという単純労働で僕らに経験を付けさせるのですか?」

「まあ慌てるなゼロ。ラロは別として、お前にはユニオン側から特別任務が与えられる予定になっている」


ーーーーーーーーーーーーーーー

ぎこちなく敬語を学習したゼロは、今さっきのセィレーンの指示の意味を考えていた。


「特別任務って……なんだろ」

「………………さあ?」


ラロにも仕事の内容は伝えられなかった。ただ一つだけ分かっていることは、『ティオ』という女性にセィレーンの紹介だと言えば伝わるらしい。どういう関係なのか聞いても、無駄口叩かず早く行けと言われた。

ゼロ達は、セィレーンに伝えられた場所の住所に近づこうとしていた。


「ここか」

「…………うん」

「ここはロンドンのブティックか⁇」


西洋の街並みにはあまり似つかわしくないバカでかい『U()N()I()O()N()』の文字が、入り口上に貼られていた。

こうしてみると、新大陸の老舗の店と、新大陸に進出した比較的新しめの店の違いは、異国風が出ているかの違いと言っても過言ではない。違いは一目瞭然だ。

いざ中に入ってみると、証券取引所のようにカウンターがいくつもあり、受付も職種で分かれているようだった。募集中の看板は電光掲示板のように液晶パネルで、タッチパネルになっているようだった。

そして職業斡旋所にふさわしくない貨幣の両替、港が近いからか船のチケットまで売っている。賑やかではあるが、ここの客は皆服はある程度汚れていて、臭いもあまりいいものとは言えなかった。だが春のくせに暑い気温にはちょうどいい温度でエアコンが動いていた。

なんと近代的なのだろうか。文明が逆行したと聞かされていたが、これはまるで地球の文明を強引に過去の文明に組み込んだといったところだろうか。


「えっとここからは受付が違うらしいから、ラロはそっちの受付って言われたな」

「…………はなれたくないよぉ。1人にしないでよぉ」

「おいおいおいおい、いくら周りの人が臭くって怖くっても何もしてこないから。安心しろって。またすぐ会えるからさ。な?だからこの手を離してくれよ、な?」


ラロはゼロの服を離そうとはしなかった。ゼロはこういう時どうしていいかわからなかったので、仕方なくゼロが行くべき受付に一緒に行くことにした。


「どうして保護者が必要ないまでに成長してないんだろうなこの甘えんぼめ」


と愚痴をこぼしながらラロの頭を撫でているうち、『派遣受付』と書かれた場所に彼らは着いた。

この組合(ユニオン)には


「あのーすみません。『ティオ』さんという方はいらっしゃいませんか?」

「⁉︎……あー少々お待ちください」


受付のお姉さんにやけに驚かれ、不自然な苦笑いを浮かべられたので、2人ともこの対応に不思議に思った。ここまで驚かれるとは思ってもいなかったが、このような反応を示すのには何か理由があるのか。

受付のお姉さんは、何か電話をしてから戻ってきた。


「申し訳ありませんが、ティオは今海外出張しておりまして、大変申し訳ございませんが、しばらく帰ってこれないようです」

「海外出張って……いつぐらいに帰るか分かりませんか?」

「申し訳ありません。不定期の出張なので不明なのです。どうか今日のところはお引き取りください」

「…………そうですか。また来ます…………」


そう言ってゼロは受付を離れるが、少し歩いて離れたところでラロがゼロの服を引っ張った。


「どうした?」

「…………あの人嘘ついてた」

「………………何?」

「でんわ。どうしましょうって言ってた。ここにいるのにいないって()()()してた」

「居留守使われたのか。しかもあの言い様、俺と話す気はないと言いたいのか……」

「じゃあさ。じょうほうあつめようよ。わたしのうけつけに行くまでさ」


そう言って今度はラロの受付に行くことにした。早速周りに聞き込みをしてみたが、やはりゼロは居留守を使われているらしいことが

ここでゼロはフードを深く被った背の高い男とすれ違う。あまりの不思議なオーラを発しているのに気づき、思わず後ろを振り返ってしまう。


「…………?」


何も無いところで大きく振り返ったゼロに違和感を覚えたラロだったが、わずかに見えた手を見て、ラロは怯えてゼロの腕を力強く抱きしめる。


「お、おい。どうしたんだよ」

「いま……みぎて……」

「……何を見たんだ」

「しらない。しらない。わたしなにもみてない」


ソフィが二人に教えた人間観察の方法を試す時が来たぞとうきうきしたが、すでにその男は角を曲がり、結局見ることはできなかった。


「いなくなってたな……ほら行くぞ。すぐそこだ」

「……」


『給仕係』と書かれた受付にやってきた彼らは、一人でもできるなとラロをおだてて自分はこの施設を探索しようと思い、ゼロは一旦ラロのもとを離れた。

すると1分もかからず3人の男がゼロに話しかけてくる。


「よう。お前さっきあっちの受付にいたろ」

「はい、そうですけど。あなた誰ですか?」

「たーまたま話を聞いてたんだが、ティオ様に会えなくて困ってるらしいな。俺たちがティオ様に会わせてやるよ。付いてこい」

「やっぱりいるんですね。海外出張しているというのは嘘だったんですね」


ゼロは3人の男衆に特に疑うこともなくついていった。給仕の受付から見てたラロは、どこにいくの?ととても小さな声で呟いていたが、ラロが心配する声は届かなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ここって裏路地じゃないですか。こんなところにティオはいるんですか?」

「ああ。いるんじゃねえか?そこに」

「何を言うんです?本当にここに……」


ゼロが振り返ろうとした途端、とても重い鈍器で頭を殴られた気を味わった。脳が揺さぶられ、目飛び出るような感覚を経て、前から石畳の路に倒れこんだ。

ゼロは頭を強く打たれたせいか碌に思考も声も出せず、頭の中が現実的に混乱した。ゼロの銀髪を掴み無理やり顔をあげられたゼロは周りに助けを呼ぶこともできなかった。


「どこから送られてきたんだ?王都の本営からか?それともマフィアか?」

「な、なんのはなし……」

「早く質問に答えろってんだ!」


そういって大きめの体格をした男はゼロの紙を掴みつつ、顔を地面に3回ほどぶち当てる。鼻血が出てきて、目が充血し始めた。目玉が出てこないように強く目を閉じていることしか彼にできることはなかった。


「おい兄貴、こいつ身分証持ってませんぜ。身分証どころか財布さえ持ってきていませんぜ」

「なんだと?そんなはずはない。もっと細かく探せ。服の裏からポケットの裏までだ」

「ほんとにありませんぜ。こいつマフィアでも王族からの使者でもありませんぜ」

「おいおい、じゃあこいつ何者なんだ」

「ゼロお兄ちゃん?」


背後で小さな女の子の小さな声がした。振り返ってみると、そこにはさっきまで給仕の受付にいたラロが涙目でこちらを見ている。その顔は今にも泣きそうなほど怯えていた。


「あっ……あっ……」

「お、おい……お嬢ちゃん?ここは女の子が来ていいところじゃない……ぜ?」


ラロは横を向き泣きそうなのを必死にこらえて逃げ出した。後ろを振り返らずに、ユニオンの中の人に助けを呼ぼうとし、持てる限りの体力を使って助けを呼ぼうとした。誰か助けてくださいと。

しかしユニオンに入る5歩手前で先ほどの柄の悪い男に捕まってしまう。


「いや!たすけて!はなして!いや!」

「うるせえなこのガキ!静かにしろ!」


大きな声を出されたので、男は片腕でラロを捕まえつつ、片方の手でラロの口を塞ぐ。腕の中で暴れふさがった口でもごもご叫ぶラロだったが、抵抗むなしく、ついには体力も尽き黙り切ってしまった。小さな泣き声が塞がった口の中から僅かに聞こえ、流した涙は男の指を濡らしていく。

ラロの口を塞いでいる男は平気でやっているように見えて相当焦っていた。たまたまここの前を通る人が少なかったから、今自分が行っていることを頑張って隠すことに必死だった。だが、そんな中で


「何やってるんです?あなた」

「……え?」

「おや、よく見たらクソガキ3人兄弟の末っ子トッドじゃない。長男のドレッドと次男のドッドはいないの?女児暴行の趣味も持ち合わせているとは知らなかったけど、今のであなたのこと嫌いになっちゃった」

「い、いやこれには訳があるんですティオ様」

「聞いてほしいならその女の子をこっちに寄こしなさい」


トッドと呼ばれた男はラロを解放し、ティオと呼ばれた茶髪で首にリボンを付けた20歳くらいの女に引き渡した。ラロは知らない人に抱きしめられ、混乱していた頭はさらに混乱を催す。だが、ティオの抱きしめるやさしさや力加減など、謎の安心感があり、知らぬ間に自分の全身を彼女に預けていた感覚を覚えた。


「大丈夫?怖くなかった?」

「……うう……ううっ」

「一緒に来て。あなたは私が守ってあげる」


9歳とは言え、そこそこ成熟した体を軽々と持ち上げ、ティオは裏路地に姿を現す。道の上には銀髪に血の色が混じった髪をしている少年が倒れており、2人の男は目を大きく開けてティオを見ていた。


「はぁ。またあなたたち、私にはあなた達よりもよっぽど優秀でよっぽど強い騎士団を連れているって、余計な事しないでって再三言ったのに聞けないの?」

「俺らも微力ながら助けたいと思ってこうやって行動してるんです!どうかわかってくだせえ!」

「その軽率でよく調べもしない判断力も持ち合わせていなくて、それの結果がこの女の子を怯えさせたっていうなら、私許さないわよ」

「だって……」

「話は後で聞くから。君、大丈夫……じゃないよね。とりあえず傷の手当てしてあげるから」


ティオがゼロの傷を診ようと座り込もうとすると、抱きついていたラロがティオの腕の中から押し出して離れ、ゼロの前で体を大の字にして守る姿勢を取った。


「お兄ちゃんにさわらないで!」


いくら自分を抱きしめてくれた女の人でもラロは止めに入った。9歳にしてはなかなか勇敢な態勢に一同感心したが、落ち着いた声でティオが語りかける。


「お兄ちゃんを守るなんていい子だね。でも、このままじゃお兄ちゃん死んじゃうかもしれないから、傷の処置をさせてもらえないかな?」

「ゼロお兄ちゃん……しんじゃうの?」


ラロの瞳の奥で止まっていた涙が塞き止められずに溢れ出てくる。それを見てティオは再びラロの頭をなでて抱きしめようとするが、それは叶わなかった。ラロの体が突然光りだし、その光は狭い範囲で自分たちの周りを囲い始めた。


すると彼らは驚くべき光景を目の当たりにする。ゼロの頭から流し続けている血はどんどんと消えていき、殴られたはずの頭は徐々に傷が塞がっていくのを見た。それだけではない。トッドが先ほどラロに引っ掻かれた傷は見る見るうちに治っていき、路地裏で枯れかけたタンポポは元の姿を思い出したかのように花開き始める。


3分ほど皆その光景を見て静まり返り光が弱まってきたところで皆我に返り、周りを見渡すと光のベールは消え去っていた。そしてゆっくり起き上がるゼロを目の当たりにする。


(これって……彼女は能力者(システムホルダー)だったのね)


ゼロがティオたちを見る目は恨みと復讐に満ちていて、今にも飛びかかりそうだった。ティオは万一のことを考え、簡易的で透明で丈夫な防御壁を張った。


「落ち着いて。私の名前はティオ。2人が能力者だってことは分かるの。今はここじゃなくて私の部屋で話しま……しょ?」

「確かにあなたは俺が探していた人だ。だがあなたを探すだけで罪とされ、目ん玉飛び出るほどの力で殴られるとは聞いてなかったな」

「それは……ええ、私が悪かったわ。ほらあんたたちも謝って!」

「いいや、謝って欲しいわけじゃない。本気で殴らせろ。こうでもしないと気が済まない。そこをどいてくれ」


敵意をむき出しにして3人兄弟に近づくゼロ。やり返しちゃダメとゼロを止めようとする力不足なラロ、例えバカな部下であったとしても上司として守る義務があるため立ち塞がるティオ。先程から一切声を出さずにティオの後ろにいる3兄弟。張り詰めた空気に支配されていた状況はゼロがラロを押し切って進み始めたところで緊張状態が解かれた。


「こんなバリアを張って予防線を張ってるっていうのに対話だって?冗談きついぜ。対話(ダイアローグ)の意味分かって言ってんのか?」


鋭い目つきでゼロはバリアに触る。すると、みるみるうちにバリアははがされていく。


「ちょっとうそでしょ!私のバリアが消えていくなんて……」

「文句言うなよ。俺は別にあんたに手を出さないし、これはただの報復だ」


ティオはさらにバリアを張ろうとするが、いくら自分の内の魔力を振り絞っても発動できない。

バリアを張ろうと踏ん張っていると、結局消えてなくなり、3人は無防備な状態となった。ティオの反応が遅れたその隙に、ゼロは一番体格の良い男にこぶしを揮う。

ティオの真横で空気を切り裂くこぶしが通り過ぎ、後ろを見ると5メートルほど飛んで行ったのが確認できた。彼はゼロの頭を思い切り殴った男だ。


さらにゼロは空いた左手でもう一人の男の目を潰そうとしていたが、そこでいつのまにか側に立っていた老人に止められた。腕を掴まれ勢いを殺され、手首を強く握られ、開いていた3本の指も閉じていた。


「やめるんじゃ若いもん。私の目が届いているうちは、ユニオン近くで暴力行為は禁止じゃ」

「俺はあんたの目が届いているここで頭を殴られたんだが。それも今俺が殴った威力の倍近くでな」

「言葉の綾じゃ。あー言えばこー言うものでもないじゃろ。それに、ティオに会うためにきたんじゃろ?どうやら君は他と違う能力者のようじゃ。客室まで案内しよう。そこで正式に謝罪させてもらう」

「いこうよお兄ちゃん。もうやめようよ」


今にも泣きそうな顔をしているラロを見たゼロは、怒りで我を忘れていたその気を直し、黙って接待されることにした。

「お爺さん。あなたは」

「キュプロス・カステヤノス。CCでいいぞ。生粋のエクス人じゃ!」


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