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こちら、魔界生物相談所  作者: 葦元狐雪
5/10

「所長! 年末年始ですよ! 上」

 俺とアンリカは研究室の大掃除をしている最中だ。

過去の実験データを記録した書類、ボツとなった発明品、お気に入りのマグカップ、用途不明のネジ、ピエロの人形の入った黒い箱などなど、様々なものを取捨選択しなければならない。


しかし、いざ捨てようという時に限って、これはいつか使うかもしれないと急に勿体なく感じてしまうことで発生する時間的ロスは作業効率を著しく下げる。

そんな時は『保留』と書かれたダンボール箱に投げ込むが、気づけば、そんな優柔不断の箱もとうとう3つ目に突入しようとしていた。


「所長、そちらの進み具合はどうですか?」


荷物の詰まったダンボールを2つ抱えたアンリカが、顔のみをこちらに向けて聞いてきた。

俺は無精髭をぞりぞりと撫でながら涼しい顔をして、


「うむ、順調だ。だから心配は無用だぞ、助手ちゃん」


「ではこの積んであるダンボール箱は、回収してもよろしいですか?」


俺は慌てて制止する。


「ま、待ってくれ! まだ考え中だ。使えるものがあるかもしれないのだ」


「もう、所長ったら。年が明けてしまいますよ」 


そう言うと、アンリカはビニール袋いっぱいの書類を持って研究室を後にした。


「むう。わかってはいるのだがな......これなんかまだ」


俺はダンボール箱からリモコンのような機械を取り出すと、まじまじと観察てみる。

そもそもなぜ、こんな年末も年末に大掃除をしているのかというと、研究のために大掃除を後回しにした結果、とうとう31日になってしまったというわけだ。

今更ではあるが、もっと早くに始めておけばよかったと後悔の念に駆られるのであった。

まあしょうがない。なんだかもったいないけれど、この保留ダンボールを片付けるとしよう。


「よっこらせ」


3つ重ねたダンボール箱を抱き上げ、研究所に備えてある焼却場へ足を運ぼうと初めの第1歩を踏み出したところ、

ダンボール箱からこぼれ落ちたゴムボールに足を取られてしまった。


「おっと、危ない!」


そばにあったデスクに体を上手く預け、なんとか最悪の結果を回避した。

危ない危ない。しかし俺にドジを踏ませようとは100年早いというものだ。

と、思ったのもつかの間。

新たにこぼれ出たクリスタルスカルが、見事にキーボードにあるエンターキーをタップしてしまった。


研究所内に響き渡る警報音。

鉄扉と鉄鎖によって頑丈に封鎖されている『異世界生物召喚装置』が唸りを上げ始める。

すると、慌てふためいたアンリカが早足で戻ってきた。


「所長! なぜ急に実験を」


俺は頬をぽりぽりと掻きながら、


「いや、大掃除の気晴らしに......な」


苦し紛れの言い訳をしてみる。

アンリカはひと呼吸おくと、


「しょうがないお人ですね。始まってしまったものは止められませんし、緊急実験に協力いたします」


「さっすが助手ちゃんだ! では、いつも通り頼んだよ」


「はい、スキャンの準備に入ります!」


アンリカはキーボードを素早くタイピングする。


「さあ、実験開始だ」


鉄扉は弾け飛び、実験室は瞬く間に真っ白い煙に包まれた。

直後の視界は魔界生物を捉えることはできないので、白煙が晴れるのを待つしかない。


「助手ちゃん、どうだい?」


アンリカは目を細めながら、


「少々お待ち下さい......あれは! す、スキャンを開始します!」


アンリカが焦っている。

いったいどんな魔界生物がやってきたんだ?


「お待たせしました! スキャン、完了しました。どうぞ」





[種別] 暴食属・悪食科

[学名] ナンデ・モタベテモエエン・ヤロソウナンヤロ

[名前] オレガノ

[性別] ♂

[性格] 乱暴

[年齢] 42歳

[身長] 260.8cm

[体重] 220kg

[レベル] 35

[血液型] X型

[好きな食べ物] 何もかも

[嫌いな食べ物] なし

[好きなこと] 暴飲暴食

[嫌いなこと] 運動

[得意技] 飲み込む




「なんだ、この魔界生物は!」


「1度、魔界の全てを食べ尽くそうとした、ドラゴンと人間のハーフで突然変異種、『ドラゴンマン』です」


防弾ガラス越しに姿を確認してみると、そこには腹を大きく膨らませた、2足歩行のドラゴンがいた。

人間の面影はほとんどなく、黄金の鱗に鋭い牙と爪、それに退化した翼と異様な短足が特徴的だ。

ドラゴンマンは周囲をキョロキョロと見回すと、やがてこちらの視線に気づいた。


「おい、お前か! この俺様を、こんなわけのわからないところへ連れてきたのは!」


そのドスの効いた声は、壁を隔ててもこちらの腹に響いてきそうだ。

話が通用するかわからないが、とりあえずコミュニケーションを図ってみよう。

俺はマイク付きヘッドフォンを頭にかけ、


「こんにちは。いきなり呼び出してすまない。ただ、我々はあなたに危害を与えるつもりはないんだ。話を聞きたいだけさ」


「ほう? 話......ねえ。何か、こちらに見返りはあるのかい?」


「我々の力の及ぶ範疇であれば。さて、あなたは何を望む」


ドラゴンマンは間髪入れず答える。


「物だ! 俺は魔界の全てを喰い尽くそうとした男! どうやら、この世界はまだ食ったことのない物がたくさんありそうだな......早くしろ! 俺は腹が減っているんだ!」


なるほど、癖の強い魔界生物を呼び出してしまったようだ。

アンリカは心配そうに、眉を八の字にさせてこちらを見ている。

大丈夫、心配ないさ。

俺は天才だ。不可能を可能にする男だ。

もう1度呼びかけるため、マイク付きヘッドフォンを再び装着する。


「わかりました。あなたのその願い、叶えましょう」


「ならばよこせ! 全てだ! 手始めにこの床を食ってもいいんだぞ?」


ドラゴンマンは鼻息を荒くして恫喝する。


「ところで、あなたの好きな食べ物は何でしょうか?」


「そりゃあ全てだ! 何もかもを喰らい尽くせることが俺様の真骨頂であり、美点よお!」


俺は相変わらず不安の色を浮かべるアンリカに親指を立てると、

ドラゴンマンに対してこう言った。


「それでは、あなたの体をこれから改造します」

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