トンプソン氏の最期
「(この人はもしかして?)」少年が、その男が誰であるか思い出したと同時に一発の銃弾が男の腹部に命中した。
男は銀行強盗をした。短剣を銀行員に突きつけ金を要求したまではよかったが警報装置を押され、駆けつけた警官らに包囲されてしまいしかたなく人質をとって立てこもったのだった。
「おじさん!」人質となっていた少年が、腹から血を流し倒れた男にかけよった。「おじさん、トンプソンさんでしょ?やっぱりそうだ!僕おじさんの映画見てたよ!大好きなんだ!おじさんが剣で戦うとこ!お願い死なないで!もう一度戦ってみせてよ!」
男は驚いて目を大きく見開いた。「君…知ってるのか?でも何年も前のじゃないか…」「うん、でもパパがビデオを持ってて何度も何度も見てたんだ!」
「そう、か…」一瞬の沈黙のあと、男は涙まじりに少年に語りはじめた。「ごめんなぁこんなことになって…だんだん映画の仕事が来なくなって出番がなくなっちゃってなぁ俺は不器用だから剣を振り回すのしかできないし…それに剣のアクションが大好きなんだ…!でももう今どき誰もそんなの見ないんだよ…」
「僕が見るよ!」少年は泣きじゃくりながら男の言葉を遮った。「僕が見る!大好きなんだ!おじさんの剣さばき!」
その時、ドカン!という音とともにドアが打ち破られ警官隊が突入してきた。「お願い撃たないで!」向けられた銃口から男をかばうように立ちはだかろうとした少年を、男は「伏せてろ…!」と言いながら最後の力を振り絞って床に引き倒した。直後、男は二発目三発目の銃弾を背中に受けて少年の上に倒れた。
「おじさん!」
「いいんだ…」
「…おじさんの映画が大好きでした」
「ありがとう…」
男は穏やかな笑顔のまま動かなくなった。