王子がそれやっちゃマズイでしょ!
目を覚ますと隣に見知らぬ男が寝ていた。
金色の真っ直ぐな髪と、どこかあどけなさを残す整った顔立ち。もしかして、年下だろうか。しかも、よく見るとその男は服を着ていないようだ。
男を起こさないようにそっと起き上がって自分の身体を確認してみる。やっぱり自分も服を着ていなかった。胸元には無数の鬱血跡。
…………やっちまった!!!!!!!!
ジャンヌは淑女らしからぬ、下手すりゃおっさんのような呟きを必死に飲み込んで頭を抱えた。嫌な汗が背中を伝う。
落ち着け、落ち着くんだ私、状況をよく見て考えろ!!
…えぇと……。たしか昨日は長年付き合った彼氏に呼び出されて、最近お互い忙しくてなかなか会えなかったけど、わたしも24になってそろそろ嫁ぎ遅れの烙印を押されかけてたから、いよいよプロポーズでもしてもらえるんじゃないか?!なんて意気揚々と待ち合わせ場所に行ったら、彼氏と友達のエレナが手を取り合っていて、はっ?どういう事??って聞いたら、結婚するから私と別れたいと言ってきた。しかも、エレナの腹には彼の子供が居ると言う。
あまりの事に状況が理解できなかった私は「あ、じゃあお幸せに」と言ってその場を後にした。後ろの方で彼氏とエレナがごめんなさいとかなんとか言っていたようだが、殆ど耳に入らなかった。
幸せ気分から一気に絶望のドン底まで叩き落とされた心をなんとか慰めようと、目についた居酒屋に入り、強い酒を何杯も煽った。
何杯目か数え切れなくなった辺りで店主から「いい加減やめな」と止められ、ならば店の中で一番良い酒を瓶ごとよこせ。そうしたら帰ってやる。と店主の胸ぐらを掴み金貨を数枚押し付けて、店のよさそうな酒を数本掻っ払って川原に行き、再びヤケ酒を飲み出した所までは覚えている。が、そこから先の記憶が無い。
………ダメだ。隣に居る男といつ出会ったのか、何者なのかすらわからない。というか、私はこの男と本当に致してしまったのか?ただ互いに裸で寝てしまったという線は無いだろうか…。はっ!そうだ、きっと川原で飲んでいたところを酔っぱらって川に転落し、それを通り掛かったこの男が助けてくれて、近くの宿屋に連れていってくれて濡れた服を脱いだ所で力尽きて寝てしまったとか!胸の鬱血跡はきっと虫だ。大分暖かくなってきたから虫に刺されたんだろう!!痒くないけど…きっと虫なのだ!!
よし!そうと決まればとっとと服を着て相手にお礼の手紙でも書いてとっとと逃げよう!!
そう思い立ってベッドから抜け出し立ち上がると、腰に鈍痛が走り、太股に生暖かい液体が伝った。
恐る恐る見てみると、それは白濁した液体だった。それも相当の量の。
…あっ…終った。
ダメだこりゃ。完全に致してしまってる。
どう考えてもこの腰の鈍痛と白濁した液体の言い訳が思い付かない!!
そうこうしてるうちにも白濁した液体は太股を伝いカーペットに染み込んで行く。
マズイ、こんなものをこんなところに垂らしてシミを作るなんて、一生の恥!!
っていうか、カーペットのクリーニング代なんて取られたらたまったもんじゃない。早く拭かねば!!と床にしゃがめば圧迫された腹部から更に液体が出てくる。
「ぎゃっ!!」
思わず声が出てしまった。
ハッとして後ろを振り替えると男がこちらに蒼い瞳を向けている。
おお。目を開いても良い男。
ってそうじゃない!今のこの状況を把握しろ私!
全裸で床を拭く女とそれを眺める男。
最悪だ!!
どうして全裸で床なんか拭こうとしたんだ!!もっと先にやることが有っただろう!!身体を隠すとか、シャワーを浴びるとか!
そんなことをグルグルと考えて青ざめながら硬直している私に、男が声を掛けてきた。
「おはようジャンヌ。良く眠れたかい?そんな所で固まってないでこっちへおいで。風邪を引いてしまうよ?」
おぉ。顔も良いけど声もなかなか良いな。ベッドから覗く上半身は筋肉質ではないけれど、適度に引き締まっており、非常によろしい。
ってだから、そうじゃない!この状況をどぅしたら良いんだ!?
「……あれ?どうしたの?……もしかして、動けないの?」
なんだか色々と混乱している私を見て、男が立ち上がる。
ぎゃっ!ちょっちょっとそのままこっち来るな!!見える!見えてるから!そのブラブラしたの隠してくれ~(泣)
「ああ…溢れちゃって動けなかったんだね。昨日、余りにも気持ちよすぎて何度もしてしまったから…気持ち悪いだろ?今、浴室に連れていってあげるから。」
そう言って男は私の膝裏に腕を回し横抱きにして持ち上げた。
俗に言うお姫様抱っこで浴室に連れていかれると床に座らされ何度か湯をかけられ、汚れを落とした後、再び横抱きにされ二人一緒に湯船へ身体を沈めた。
「ねえジャンヌ、さっきからずっと黙っているけど、どうしたんだい?どこか痛い?」
いえ、貴方が誰だか解らなくて困っているんです。確かに腰は痛いですが…なんて言えない。
いや、言ってしまおうか?どうせ、昨日会って行きずりで身体の関係を持ってしまったような相手だ。きっともう、会うこともないだろうから正直に話そう。
「あの…すみません。実は昨日の記憶が殆ど無くて…」
「…えっ?」
あ。目が点になってる。そんな顔をしても良い男なんだなぁ…
「…じゃあ昨日の事は…もしかして覚えてない?」
「…あっ、その、ご免なさい。」
浴室で向かい合って入浴しながら話す会話では無いが、下手に話を合わせて後から墓穴を掘るより早く話してしまった方が私の精神的にも良いだろう。
「じゃあ、僕の名前は解る?」
「……いえ…」
「そこからか…」
目の前の美男子が頭を抱えている。
「ごっご免なさい。…私、昨日物凄く酔っぱらってて、川原に居たところまではしっかり覚えてるんですが、そこから先は朧気にしか覚えてなくて…」
「そうか…なら、風呂から上がったら昨日の事を話そう。君には知っていて欲しいことが有るから。」
そう言って男は浴槽から出ると、備え付けのバスローブを羽織ると私にもローブを渡してきた。それを受け取り体に巻き付けると二人で部屋へ向かい、ソファに座った。う。空気が重い…。
「まず始めに僕の名前だが、僕の名前はアレクサンドル・ヴィ・クロスクロウ。この国の第一王子だ。」
「……………はぃ?」
えっ今、この人何て言ったの?理解できない。
アレクサンドル・ヴィ・クロスクロウ?
この国の第一王子?
……あっ、冗談か!!場の空気が重いから冗談を言って和ませてくれようとしてるんだな。
「アハハ…またまたそんな冗談を…「冗談では無いぞ?」」
そう言うとアレクサンドル(仮)は元着ていたであろう服の内ポケットから黄金に輝く指輪を取り出してきた。
そこにはこの国の紋章である二羽のカラスと王冠が象ってあり、側面にはアレクサンドル・ヴィ・クロスクロウと名前が刻んで有った。
「これを見ても冗談だと思うか?」
「いえ…」
……ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
ってことは何か!?私は昨日、この国の第一王子と致してしまったというのか?あまつさえ先程一緒に風呂まで入ってしまっているぞ…。
まてまて!そういえばこの国の第一王子ってまだ18じゃなかったか?
とっとととと年下!?しかもまだ十代!!もう、犯罪じゃないか。
あっ私、死ぬんだな。きっとここで十代の王子に酔っぱらって手を出した性犯罪者としてしょっぴかれて死ぬんだな。……終った。詰んだ。
彼氏に降られた翌日に王子に手を出した性犯罪者として死ぬなんて絶望的な人生だったな…。お父さん、お母さん、弟よ。先立つ不幸をお許しください…。
「…おい。お前の考えていることが大体解るぞ……。そんな遠い目をするな。別に性犯罪者として処刑なんてしないしさせないからこっちを見てくれ」
人生の終着点を思い描いていると王子が手を握ってきた。
「昨日、僕とジャンヌにあったことを全て話そう。嘘偽りなく。」
そうして王子は昨日の事を語り出した。
昨日王子は、隣国の姫君との婚約が濃厚になり結婚を視野に入れた性交渉の練習をすることになったらしい。結婚後子孫を残すためには性交が必要になってくる。それをつつがなくこなすために臣下の妻がその指導の相手となったそうだ。しかし、王子はそれを拒んだ。大切な臣下の妻を抱く事は出来ないし、何より愛してもいない女を抱くなど死んでも嫌だと、一人で城を脱走した。
何度かお忍びで降りたことのある城下でフラりと入った居酒屋で酒を飲み、程よく酔いしれ、二件目を探そうと歩いていたら、川原に座り瓶から直接酒をかっ食らっている私を見つけ、声を掛けたらしい。
ううん…確かに川原で飲んでいて誰かにこえを掛けられた気がするけどそれが王子だったとは…。
王子は「なんでそんな所で酒を飲んでいるんだ」と尋ねたら、いきなり私が泣き出して、「今までずっと付き合ってきた彼氏に二股を掛けられしかも、相手が友達で妊娠して結婚するから別れてくれと言われた」と、切々と語ったらしい。それはもうしつこく。余計なこと(主にシモ方向)までガッツリと話したらしい。
そうして私は「ずっと彼と結婚することを夢見て尽くしてきたのに、彼のプロポーズを待って嫁ぎ遅れの烙印を押されても待っていたのにこの仕打ち!!もう、生きている意味も無い!」
と川に飛び込もうとした所を王子に止められ
「ふざけるな!!僕だって辛いんだ!!」と婚約と性交の練習のあらましを私に話した。
王子は、「僕だって好きでもない女と結婚させられなきゃならないし、大事な臣下の妻を性交の練習のために抱かなくてはならないなら死んだ方がマシだ!」
と川に飛び込もうとした所を今度は私に止められたらしい。
好きな男と結婚出来なかった女と、好きでもない女と結婚をしなければならない男は意気投合して川原で酒を飲んだ。
そして、互いに結婚に絶望したもの同士、いっそくっついてしまえばいいのではないかと王子が提案してきた。私はそれで一考に構わないが、王子の好きな女ではないが良いのかと聞いたら、胸の大きさは好みで顔も割りと好きだから大丈夫だと言ったらしい。
確かに私の胸は大きい方だが、それでいいのか王子よ。
「別に、胸だけが好みだった訳じゃないぞ。あの時はかなり僕も酔っていたから、そんなことを口走っただけだ。」
だから、なんで私の考えてることが解るんだ王子!
「全部顔に出てるぞ。」
えっそうなの?じゃあ顔を隠せばいいのか、…って両手が王子に握られてちゃ隠せないよ!!
「顔を隠そうとするな。僕はジャンヌの顔を見ていたい」
あっ、もうそう言うのお腹一杯なので話進めてください。
話を戻すと、胸が好みだと言った王子に私は、じゃあ揉んでみろと言ったそうだ。
「彼氏にフられ、もう揉む相手もいなくなった胸だから好きにしろ!」とブラウスのボタンに手をかけたところで、辛うじて正気に戻った王子が「流石に外で婦人の胸を揉むのは抵抗がある」と今の宿に二人で入り、思う存分私の胸を堪能したそうだ。
…だから胸に大量の鬱血跡があったのか。
そして、男と女が密室で二人きり。男は女の胸を揉み、互いに酔って理性のタガが外れていればすることは1つ。
だが王子は、女性を相手にしたことがないから、知識はあっても実際のやり方が分からないと馬鹿正直に言ったらしい。
すると私は、「…ならば、私を使って好きなだけ練習すれば良い!ついでに私が知っていることは全部教えてやるからありがたく聞きやがれ!」と言ったそうだ。
王子はその心意気に感動し、「なら必ず責任は取るから最後までやらせてくれ」と私に頼み混んだのだが、
「責任なんか取られて王宮に呼び出されたらたまったもんじゃない。そんなもの取らなくて良いから、好きなようにしろ!」
と私に言われ、
「じゃあ、僕が婿にいくからそれでどうだ!!」と王子が提案し、「その提案乗った!!ならいっそ避妊なんかせず子供も作ってしまえ!!」と行為になだれ込み、互いに力尽きるまで行為に没頭したそうだ。
そして、現在に至る。
穴があったら入りたいというか、もうこの世から消えて無くなりたい…(泣)
「というわけで、僕はこれから城に戻ってジャンヌの婿になる準備をしてくるから、家で待っていてくれ。」
「は?婿?」
「そうだ、婿だ。ジャンヌが王宮に来たくないなら僕が君の所に行けば良い。そう言って納得したのは君だろ?」
「イヤイヤイヤ!!ちょっと待って下さいっ!王子がそんな事したらマズイでしょ!?」
「ん?多分大丈夫じゃないか?」
「結婚はどうするのですか!?王子は隣国の姫君と結婚をせねばならないはずでは?」
「ああ、それなら弟に任せるさ。ついでに王位もくれてやろう」
「はぁ!?なぜ、そんなに大事な事をサラッと決めてしまうのですか?良く考えて下さい!!」
「……ジャンヌは僕が君の婿なるのは不満か?君は僕に、国のために好きでもない女と結婚しろというのか?」
「そんな事は全く無いですが、それとこれとは話が別です。」
「僕の初めてを奪っておいて、責任は取ってくれないのか?」
「えっ……せせせせせせ責任て…」
「取るのか、取らないのか、どっちなんだジャンヌ?」
王子が笑って問いかけてくる。
でも、目が笑ってないよ!!恐怖政治だっ!
責任取りませんなんて言ったら間違いなく酷い目に合わせるって目が言ってる!!
「……………………取らせて頂きます。」
「そうか!なら僕は王宮に行ってくるから、ジャンヌは自宅に戻って、結婚の準備を始めてくれ。僕の指輪を君に預けておくから決して逃げては駄目だよ。逃げたらどうなるか、分かってるよね?」
そう言って王子は、そそくさと着替えて王宮に戻っていった。
私の左手には金色に光る王子の指環。
これから私はどうなってしまうのだろう。
指輪を握りしめ、私はガックリと項垂れるのであった。
了
気が向いたら続きを書くかも知れません。
続きがあったら見たいですか?
どうなんだろう…。
見たいかたがいらしたら書いてみようかな…?
12月10日誤字を訂正しました。
気が付いたら日間ジャンル別ランキング8位になっていて、チビるかと思いました!!
ご覧になってくださった皆様、お気に入り登録をしてくださった皆様。本当にありがとうございます。
気が向いたら別の連載物も有りますので、ご覧になって頂ければ幸いです。