岩山の第四大陸ガット (後)
ギルドの待合室でディアを探すがまだ来ていないようだ。あいつは目立つから探す事に苦労した記憶は殆どなかった。ディアが来るまではヒマだし、モンスターリストだけ更新しておくか。
ガントレットは色々な機能がついてるから意外と遊べるんだよな。
ともかく、この周辺のモンスターはまだ俺のガントレットの中には登録されてない。一応、モンスターリストにはガット大陸モンスターの項目はあるんだけどレンソムント周辺モンスターしか検索できないしリストモンスターの情報もなかった。更新して置いて損はない。リストモンスターの情報もなかったらモンスターハントにも活用できない。
特にここ数年に亘ってモンスターの出現頻度とかは増加傾向にある。
リストハンターのディアとモンスターハンターの俺。この二つのハンターの違いは後者はそのまんま人に害成す賞金の掛かったモンスターを狩ることが中心で大抵の渡り鳥がモンスターハンターと言っても過言じゃない。それに対して前者は凶悪犯とか人間もモンスターも狩ることをしている。最も人間に関しては殺さずの生け捕りにする方が報酬金も高い。殺したら報酬金は減る傾向にある。最もブラックリストに載ってる上位者は“生死は問わない”って事だがな。
ディアも一度だけスモールナンバーと対峙した経験があると話してくれた。詳しいことは話してもらえなかったが、現実感も見えない昔話にしか思えなかった。
とりあえず、モンスターリストは更新し終えてチェックしておく。この辺りはやはり岩場に強い、もしくは岩そのものから変化したモンスターが多いな。魔晶石だけの力を借りて戦うにも、俺の雷やディアの炎だと大した効果は望めない。
魔晶石もそれぞれの属性があり、大まかに光・火・土・水・風・雷・闇の七属性があって隣り合う属性はその力を増幅させる。闇と光は一般的には対極にあるため反発しているといわれているけど闇を無として、光を有とすれば属性の輪が完成する。 まあ、属性の輪は曜日として扱われている一般常識だけど。属性は更に細分化すると十四属性となるらしいが魔術に関して――というより精霊は万物に宿るといわれているため実際にはどれほどの属性があるのかまでは分かっていない。
七属性はこの世界にあるそれぞれの大陸を支配していると言われ、故郷の第三大陸フェルマは風属性で常に風が大陸を守護している。第四大陸ガットは土属性、岩や土が多く大陸を守っているという具合だ。
時間も属性を使っている場所と数を使っている場所があるが面倒なのに、第一大陸ロッドウェルや第六大陸ディアン、第七大陸マルセアスはまだ属性時計だったはず、俺は数字時計を利用しているけど、ディアは属性時計を時々使うから会話が合わない事もしばしば。
しかしなぁ、岩系モンスターは雷や炎は効果がまったく望めない。対して水や闇の属性は岩系に効果があるんだが……扱えないんだよな。
ディアは元々魔力が僅かばかりにしかないから魔晶石で力を上げているようなものだし、俺が使えば……制御できなくて暴走している始末。術士が仲間にいたら楽だろうな。それとも、もう一回調べてみてから術のこと勉強しなおそうか。
そう思って、席を立って相談センターに向かった。
二十分後、俺は再びさっきの待合室に戻ってきていた。
「お、先に来てたか。どうだ、腕の方は?」
声を掛けられて振り返ってみたら紙カップを片手にしていたディアが立っていた。微かに鼻くる独特の香りはハーブティーか。苦手なんだよなハーブティーって、何ていうか……味が歯磨き粉じゃないか、これって。まあハーブって香りを楽しむためのもので味を楽しむものじゃないって思ってるけど。
「一週間くらいはちゃんと暖めておけって」
「長いな。まあ、急ぎはしないから良いけどな」
ディアは傍にあった椅子に腰を掛けてガントレットを弄り始めた。
「そういや、ラディマ高原でリストモンスターがいるみたいだな」
「あぁ、さっき更新してきた。俺のレベルだとキツイかとは思うけど……経験値も賞金もかなりいいからな、結構いい稼ぎになるかなって」
どうやらディアもモンスターリストを更新してきたんだな。んで、俺が見つけたのはスノーサーベルって言うこの冬の時期に出てくる純白の虎みたいなモンスターで十八レベルくらいあればそれなりに戦える相手だった。リストによればそんなに動きが速いわけじゃないし、弱点も炎で俺にとっては丁度いい相手だった。それに、賞金五万Gは当面の生活費に当てられる。俺の持っていた貯金の殆どは装備や治療に費えたからな。残りは三万程度、ちょっと色々と買い足さないといけないものが多いし宿代もあるから、足りないんだよ。
それに俺が狩れるレベルじゃ、この辺りが限度だ。とはいっても悪まで今のレベル的な強さ上でだけど。それにモンスターに掛かる賞金は最高でも五十万G程だ、高額賞金にしてもモンスターは数多く存在しているし例えリストに載っているモンスターを全滅させたとしても、そのモンスターの陰に隠れていた新たなモンスターが脅威になる……だから、余りにも高額にしてしまえば町の負担がデカくなってしまう為にモンスターに対する上限金額が設定されてるわけだ。対して、ブラックリストに載るような人間は大陸中のギルドや国が支援者ともなるからな……俺の知ってる最高額は一千万だったかな。リストはとってないからまだ上は有るだろうが、縁のない話には違いない。
「レベル的に辛くないか?」
「試してみたい。それに魔術も少しずつ覚えたいから……丁度いいかなって」
札は後で買うし符術の基本と魔術昇華の基礎は知ってる。魔力がなけりゃあの学院にも入ってないしな。それに制御コントロールの精神力は大分上がってきたと分かれば、試してみたい。魔力と精神のバランスは実際にやらないとわからないからな。 後は札一枚の値段が高いのが結構辛いところだがな。
「やめておけ。無意識の内に魔晶石の力を引き出すことの方が多いんだから」
「実戦で経験する方が身につきやすい……だったよな?」
最初の頃にディアに言われた台詞だ。俺は強くなりたいだからこそ上に挑戦を続けたい。
昨日のジャイアントバッドは術で殲滅出来たはずだ。それこそ……ディアに迷惑かけずに。この周辺のモンスターも魔法には弱いタイプばかり、丁度いい練習台になるだろう。
「術……使い始める気か?」
「あぁ、狩に行く前はこの辺りのモンスターで試すつもりだ」
迷うことなく告げるとディアは大きく天井を仰ぎ見た。何か考え始めたか諦めた時の癖らしい。
「まあ、いいだろう。その代わり完全に使いこなせるようになるまで俺のサポートで居る事。治療系が扱えるならそれは早く覚えろ」
深いため息一つと共に告げられて俺は頷き返した。とは言え、符術にも向き不向きはあるから一概に治療系を直ぐに覚えられるかどうかは相性次第だけどな。
「じゃあ、この近くにマジックショップがあったから行ってくる。宿は?」
「あっ……忘れてた」
完全に忘れていたらしい。ディアは総合カウンターを見つけ出すと急ぎ足で向かった。俺もその後について行く。ギルドでは渡り鳥待遇の宿屋や店を紹介してくれる。それに町地図も用意してある。
「この近くに、いい宿屋ってないかな?」
既に夜となったせいで格安の宿は殆ど埋まってるだろうな。
「はい、少々お待ちください」
受付のお姉さんは心持緊張した声でマニュアル通りの応対を始めた。ギルド内にも宿泊施設は一応あるんだけど、完全先着順で泊まれるほうが奇跡に近いような気がする。
「この周辺ででしたら『銀の雫亭』、『ロックゴーレム』、『白の家』がございます。大きな宿ですのでまだ余裕はあるかと思います」
簡単なマップを見せてもらいながらお姉さんが宿屋を指しながら説明をしてくれた。
「ついでに安いマジックショップってある?」
「あっ、はい。レンソムントの下層に『ユグリトの岩屋』が格安で魔道具を扱っています」
ギルドに協力している店は大抵、認定者割引してくれるところが多い。収入の少ない俺にとっては大いに活用したいところだ。そういえばディアが装備品を買っているのを見たところがないな。大抵の道具を持っているのか、それとも俺の知らない内に買い物に行っているのか……わからないけどな。
ディアはお姉さんから地図と彼女の手を一緒にとってにこやかにお礼を言っていた。あいつは何処でもああやって礼を尽くす。エルフィンにそんな事されたら何も云えなくなるよな。ま、こっちは聞きたいことも聞いたし先に出てるか。踵を返して出ようとしたらディアも後ろでお姉さんに別れを告げていた。
「銀の雫亭ってのは下層部に近いからそこにしよう」
「任せる。宿取ったら直ぐに、さっきのユグリトって店に行くよ」
レンソムントは上層部・中層部・下層部に分かれた街並みで、俺たちがいる場所は中層部。ギルドの入り口や工場、市場と様々なものが建ち並んでいる。上層部は四元院と研究塔が殆どを占めていた。四元院ってのは魔術・剣術・守護・創造を示し、それぞれが様々な役割を担っている。レンソムントにあるのはそれぞれの院を統括する長老達の議場があるだけで実際はガット大陸の東西南北にそれぞれ院があるらしい。詳しいことは俺も知らない。
ただ、昔に通っていたハウイテウス魔道学院の講師の殆どは魔術院に籍を置いている者が殆どだ。というより、術士は術士組合に籍を置く事が義務付けられていて、その組合統括元が魔術院という訳だ。俺も学院にいた時は術士組合に登録してたし卒業と同時に魔術院に籍を置かれるはずだったんだが、やめてしまえばもう無縁。学院側で除名手続きを済ませてもらった。渡り鳥としても術士をメインで行く気は今はない。俺が魔術院に籍を置く事はないだろうな。
上層部はそう云った機関が集中して、中層部はさっき述べた通り、様々な店がある。下層部は住宅区域が多いが街の構造上さしてモンスターの被害は少ないようになっていた。
「お、在ったあった。とりあえず取れるかどうか聞いてくる」
ディアがさっさとギルドで教えてもらった『銀の雫亭』のドアを潜っていった。外にいても分かるほど賑やかな声が聞こえて来た。大衆食堂を兼ねた宿らしく宿自体も結構な広さが見受けられるが、岩をくり貫いて作られているために奥行きがどれ程なのか想像つかない。
「あれ? あんた、何キョロキョロしてんだい?」
不意に後ろから声をかけられて振り返った。ぞんざいな口調に似合わない女性らしい容姿。胸元をはだけさせたシャツに、タイトのミニスカート……忘れられるわけもない、ほんの数時間前にあったエンゼルフ。
「先生こそ何してんだ」
「ん、飯。結構美味いんだ、酒がさ」
嬉しそうにこの店のメニューをいくつか聞いているうちに、こっちも本格的に腹が減ってきた。ディアもまだ中にいるみたいだし、宿が取れた取れてないは関係無しに、先に飯だけでも食いたいと言う欲望が先に湧いていた。
「悪い、アステリア。宿一杯だっだ。とりあえず……と誰?」
ディアがようやく出てきたと思えば後ろには何やら数名の女の影があるんだけど。その視線は一瞬俺をすり抜け先生の方へと向けられた。明らかに不遜な気配だ。
「あぁ、今日腕を見てもらった魔法医だよ」
「セイナ・メッセルだ。あんたが、アステリア君のパートナー?」
「保護者かな? ディア・サイフォスだ。それとそこに隠れているお嬢さんは?」
保護者だったんだ、俺は今初めて知ったよ。ディアと先生……セイナが軽い握手をすると共にディアの視線がセイナの肩口へと向けられた。気が付かなかった。
「挨拶しな」
セイナが促した処でようやく隠れていた人物が姿を現した。虫のような白く半透明な羽を持った小さな少女……といっていいのか判らないけど……が、ひょっこりと現れた。ハニーブロンドの髪を三つ編みにして、両肩を剥き出しにしている体にぴったりと吸い付くような紺色のワンピースと二の腕まで覆うタイプの白い長手袋。恥ずかしいのか俯き加減にセイナの掌にまで移動するとそのままぺこりと会釈をした。
「えっと……ミルアです……セイナ先生の助手をしてます……」
消え入りそうな声で自己紹介を済ませるといそいそとセイナの髪の影へと隠れてしまった。人見知りが激しいのだろうな。
「すまんね、ミルアは人見知りが激しくて。これでも魔法医として自立しててもおかしくない腕はあるんだ……まあ、それよりも飯がまだだったら一緒に食べないか?
ミルアと二人だけでもいいんだけど、人が多いほうが飯も美味いからな」
「それは是非。こっちも男二人じゃ味気ない食卓だから」
「悪かったな……」
実際は男二人にはならん。他の渡り鳥やら娼館のお姉さんやらが絡んでくることの方が多い。今しがたの人たちもきっと同じようなものだろう。
「アステリアは文句があるようだ。俺たちだけで先に済ませようか」
「文句は言ってないわっ!」
俺が怒鳴った傍にはミルアがいたらしく、慌てて反対側へと逃げていくのが分かった。
「はいはい、一々突っかかってくるな。だからガキって言われんだよ。飯食った後でちゃんと宿探してきてやるから」
ディアに軽く頭を叩かれてから改めて、銀の雫亭へと入っていった。中はかなりの広さがあって、席の殆どは満席となっていた。
「こりゃ、誰かと相席かな」
「そうだね、ミリアは平気?」
「うん。セイナ先生と一緒にいるから大丈夫」
もう勝手にしてくれ。俺は早く飯が食いたい……さっきから腹の虫が鳴りまくって意味なく切れだしそうだよ。
「お客さんら何人っ?」
「四人だ!」
ふっとウェイトレスが気が付いてこちらに声をかけてきた。ディアも直ぐに返事をすると一番奥の席を指し示された。どうやら、人の影になって気が付かなかったが片付けられていない席のようだ。
「行こう。急がないと取られそうだ」
セイナが冗談交じりに言うが本当にそうなりそうな感じだ。一足先に俺が席を確保するために席をすり抜けて行く。ディアとセイナは他の渡り鳥や町の人に捕まらないように、やんわりと断りながら、追いついてきた。テーブルの上はまだ食べかけの皿や飲みかけのジョッキが散乱していたが適当に避けておき、壁にかけられているメニューを眺めていた。
流石に魚介料理は少ないな。だけど、ポトフやらサイダケの串焼きやらと簡単ながらに美味そうな一品料理が格安の値段であった。セイナのお勧めはメイトムのくった煮とミケウイスの串焼きが酒にあって美味いらしい。
「決ったかい?」
「あぁ、さっきのお勧め料理にするよ」
「そっちは?」
「ん、ポトフでも先に貰おうかな。後は串焼きいくつかかな」
「肉は好みじゃないのかい? ここの肉料理は結構美味いんだけどね」
ディアが選んだのは殆ど野菜中心のものばかりだった。菜食主義と言うわけでもないが、あまり肉を食わない。
セイナがウェイトレスを呼ぶと、さっさと注文を告げていた。って、ビール三つにハチミツってなんだかなぁ……ついでに置きっぱなしになっていた皿を片付けてもらって、ようやく広いテーブルが姿をあらわにした。
ミルアもセイナからようやく離れてテーブルの上にちょこんと座った。
「そういや、ディア。例の地図はどうだったんだ」
「あぁ、場所だけは確認取れた。ラディマ高原で似たような洞窟があるらしいから、そこだろうな」
「トレジャーハントかい? まるで盗賊だね」
からかうようなセイナの口調だったが、ディアは慣れているのか笑って躱していた。
「盗賊だよ。まあ、ただの泥棒や墓荒らしじゃないだけマシだろ。一応、ギルドにも登録してるんだし」
ディアの言うギルドはハンターギルドではなく、遺跡管理ギルドのことで未調査の洞窟や遺跡を発見した場合は、それを簡単に調査してギルドに報告しなければいけない義務と調査団に加わる権利を受ける事が出来る。調査団に加わるのは大抵がバイト感覚の連中だ。
ま、実際に未調査の洞窟を発見して何もせずに帰るような奴は誰もいないけどな。ただ、そう云う所に凶悪なトラップがあると厄介らしい。
「それとも、盗賊は嫌いか?」
「そう言う訳じゃないけどね。渡り鳥なんかやめて私の手伝いしない? あんたがいてくれると女性客も増えそうだからね」
「はははっ、やめておくよ。定住は苦手だし誇りもってやってるからな」
ほのぼのムードですな、あんたら二人は……初対面とは思えない馴染み方だ。
「は~い、おまたせぇ」
ウェイトレスがドンっとビールの入ったジョッキをテーブルに置こうとして、ミルアが慌てて避けてきた。そらまぁジョッキになんかに潰されたくないよな。
「大丈夫か?」
「えっ……あっ……はい」
「こっちにいたら?」
ディアとセイナは話に夢中でこっちには気が付いてないようだ。軽い乾杯の後で直ぐに話しに戻ってるくらいだからな。気が会うって奴だろう。俺は壁を背にしているから、俺とセイナの間なら皿が運び込まれる事はないはずだ。ミルアもそう思ったのかトコトコとこちらへと移動してきた。何か、可愛いな……姉さんも照れたりすると赤くなった顔を隠そうとして俯きながらよく歩いてた。ミルアの歩き方はまさしく其れだ。
「この店にはよく来るのか?」
ミルアは小さく頷く事で肯定の返事を返してくれた。
「セイナと二人じゃ静かな食卓ってな感じにはならないんじゃないか?」
「でも、楽しいですよ……」
「こっちは楽しいとかは思えないけどな」
やかましすぎるのは考え物だ。何となく分かったのかミルアが小さく笑っていた。セイナもディアも既にジョッキを空にして二杯目を頼もうとしているのが目に映る。視線をずらせば、好奇の目があちらこちらから向けられておった。
「アステリア、お前も飲むだろ」
「あぁ……」
まだ半分近く残ってたが気にしない。普通に飲んでるうちに、二杯目と殆ど同時に料理が運ばれてきた。結構時間が掛かったが、この混み具合じゃ気にしてても仕方ない。
ぐっと一気に残りのビールを飲み干して、メイトムのくった煮に箸を伸ばす。熱々の肉と野菜に辛目のスパイスがすげぇ合う。マジで美味い。
「食うか?」
ミルア用に少し小さめに崩したメイトム肉と野菜を取り分けてみた。流石に普通の箸だとデカ過ぎるため爪楊枝で器用に食べていた。
「おいしい♪」
ふむ……餌付けしてる気分だな。
「な、アステリア。お前も構わないよな?」
「ん……全然話し聞いてなかった」
いきなり話を振られても意味が分からなかった。
「だから、お前の腕が治るまではセイナの処で厄介になろうって。宿代の代わりに診療所の手伝いが条件だけどな」
「あぁ、セイナが良いならね。後、ミルアもな」
「こっちから言い出してるんだから、構わないよ。ね、ミルア」
「セイナ先生がいいなら……」
とりあえず宿確保。色々と料理をつつきながら酒飲んでると、流石に酔いが回ってきた。元々、酒には強くなかったからな……ディアと一緒に行動するようになってから飲むようになったとは言え、ペース速すぎた。気分わりぃ…………
「大丈夫?」
「ま……なんとか……」
「少し調子に乗りすぎたか」
暑くなってきたのかディアが重ね着していた上着を脱ぎながらそんな事を言ってきた。一瞬だけ、素肌が覗き体中の傷跡が見えた。いつ見ても見た目ににあわねぇ体つきしているよな。それにしても、元々酒に強いディアとそれに引けを取らないセイナ、そんな二人に合わせて飲んでたら、いつも以上に杯を重ねてしまっていた。
「一緒に外に行くか? 私も少し、外の風に当たりたいしな」
「行って来い。俺はミルアちゃんと一緒にいるから」
軽く手を手を振って見送られ、セイナの肩を借りて店の外に出た。冷たい風が心地よいくらいだ。
「ディアって変な奴だな」
「ん……あぁ、そうだな」
いきなり話を振られ、俺は素直に返した。店の外に備え付けられているベンチに腰を下ろして壁に寄りかかる。マジで体がだるい……
「ディアは、すげぇ変な奴。寒いとテンションが異様に低くなるくせに暖かいと今みたいに誰とでも直ぐに馴染む。そんで、世話好きで……人を囮によく使うし」
「私もね、渡り鳥だったときにディアによく似た奴を知ってたよ。容姿がよく似てるけど性格は違う。暗殺者だったんだ。人を寄せ付けない冷たさと近づいただけで殺されそうな空気を纏っててね、暗殺の傍らで義賊もしてる訳の分からない奴だった。リストにも載ってた」
「……何が言いたいんだ?」
セイナと俺の口調はいつの間にか鋭くなっていた。
「傷まで似てるって……どう思う? ヘル・アルクェイスって名前なんだけど、そいつと同じ傷。胸元の刀傷……私がつけた傷と同じ形だった」
「ディアとそいつが同一人物って言いたいのか?」
「可能性は否定できない。ただそれだけだ……どういう理由であいつがアステリア君と一緒にいるのかは分からないけど、気をつけて置く事には越した事はない」
「じゃあ、なんで俺たちを泊めるって言い出したんだ?」
「知りたかったから。暗殺者は素顔を見られれば見たそいつもターゲットとなる。けどね、こうして生きてる私がいるその理由をな」
セイナは臆することなく上着を肌蹴させて、体に刻まれた傷を曝け出した。酒で上気して肌が赤く染まっている為、くっきりと白い傷が浮かび上がっていた。左胸の心臓の位置にほぼ正確に傷があった。
「この位置に刻まれたのに、生きてるんだよ。あの時はこれ以上ない程の屈辱だった。もっとも、こうして生きてる事が出来る幸せも感じるようにはなったけどね」
「俺は、ディアの過去は知らない。俺が知ってるのは今のディアだけだ。セイナ……忠告はありがたいけど、きっとあんたの思い違いだよ」
セイナに上着を掛け直しながら俺は言い切った。俺はその暗殺者の名前は知らないし、ディアがその暗殺者と同一人物だとは話を聞いてるだけじゃ、信じられなかった。
それに、例え知ったとしても何も変わらないような気がした。
「お二人さん、まだ外にいる気か?」
いきなりドアが開いてディアがひょっこりと顔を出した。その褐色の顔にも赤みがさして締りの無い表情となっていた。
「あぁ、戻るよ。アス、行こう」
セイナに促されて店の中に戻ってみると、さっきよりも皿の数が増えていた。ミルアがテーブルの上で自分より大きな串焼きに噛り付いてる様が見えた。ディアはディアで近くにいる女の人が声をかけてくる度に困った顔をして……その光景を見てセイナが軽く笑っていた。
「アス……ごめん。さっきの話は忘れてくれ」
「分かってるよ」
席に戻った俺たちはまた新たに運ばれてきた酒で二度目の乾杯をしていた。
勢い余っての投稿でした。R15指定は不要化とも思いましたが、念のため。
当時に仲間内で妙に流行って書き方と三点リーダーの多用に流石に、修正してみました。
infoseekのHPが幅を利かせていた時代に寄稿した作品です。
ぶっちゃけ、二、三話後には主人公チートになります。
小ネタ程度に、ギルドの表現とお金の単位は白雷でも一部引き継いでます。