影で頑張れる人程強い人?
はい。お久し振りです。ウドの大木です
今回は闇光様の提供です。長らくお待たせして申し訳ありませを。
作者は土下座してるので許して下さい
それではどうぞ
男は地を蹴り、鍛え抜かれた強靭な腕で振り上げた大剣を標的である男に振り下ろす
「滅びろ!貴様はこの国に在るべき存在ではないのだからな!」
だがその大剣はガラスを砕く様な音と共にあっさりと砕かれた
それは同じ素材で出来た鉄をぶつけた訳でもなく、魔力による絶対防御でもなく、ましてや大剣が既に壊れていた訳ではない
「ったく毎回毎回しつけーんだよ!特にお前!一日三回の襲撃はしつこいだろ!」
それは拳である
利腕の右でいとも容易く鉄を砕き、左の拳で相手の胸骨を砕かない程度の威力でぶん殴る
男は悲鳴と言うよりも情無い泣き虫小僧の様な泣き声を残し急斜面の崖から転がり落ちていった
後三分で飯の支度だな〜っと考えながら崖を這上がって来る先程の馬鹿に飛び膝蹴りをかました
「霞〜おかわり!」
「へいへいちょい待ちや〜。よっと」茹でた麺を椀に乗せ板に乗せる
椀は板をスルスル滑りテーブルの真ん中で止まる。加弥は麺を取ると椀を強く押して戻す
「おっかわり〜」
「はいはい」
同じ行程を繰り返す
最後に食べれるのは俺である。残った麺と野菜を炒め昼食を済ませる
そしていつも通りコーヒー片手にソファーに腰掛けテレビをつける。いま丁度始まったのは昼の連ドラ『みかわやと奥さん』だ。これでもかっ!と言う程ドロドロで奥様方に大評判らしい
直ぐにチャンネルを変え教育番組の『科学実験室』を見てみる。確か今日の課題は寝てる人の鼻に指を突っ込み捻り上げたらどんな奇声を放つか?だったな
テレビの向こうでは寝てる議員に今まさに仕掛けようとする科学員が映っている
「ぷがぁぁはぁぁぁ!!!!」
見事な一撃だったらしい。議員は鮮血の濁流を撒き散らしながら転がり回っている
心がスッとした
神妙に頷きながらコーヒーに手を伸ばす俺の背後に誰かが忍び寄ってくる。まあ足音ですぐ分かる
「かすみ〜。将棋で勝負だ〜」
ほ〜ら加弥だ
「加弥、俺その将棋嫌いだぞ。なんだよ『角』が成ったら『核』って。成ったら周囲三マスド〜ンで灰になるって」
「え〜。まだマシなの買ったのに。他のだと飛車が火車で三列一直線消し去るとか王が嘔で近付けないとか〜。」
「待って、なんで普通の将棋がないのかな!しかも核二つ使っても俺に負けた加弥はまだ戦う気?また王だけ残して総攻めでもしてやろうか!」
「うわ〜ん。また霞がイジメル気だ〜」
泣き真似する加弥を無視してコーヒーを飲む俺
見事に逆ギレした加弥に殴られた
それから結局将棋をするハメになり、見事に手加減なしで完勝した俺を殴った加弥
そして俺は頬を擦りながら夕日が東の空に沈むのを眺めている
無論ただ眺めてる訳ではない。掌に魔力を集中させイメージを練り上げる
「まだよ。もっと魔力を放出して練り上げなさい」
深娜は模範を示す様にあっと言う間に俺より密度の濃い魔力を練り上げた。なんとなくへこんだ
「いい?そのまま形状を想像して留める。そうすればこんな感じに」
深娜の魔力は一瞬で2メートル近い大鎌へと変化した
魔力によって精製された武器には重量がほとんど無く、魔力を持たない物体に対して最大限の威力を発揮する
「分かったらやりなさい。今は精々ナイフ程度が妥当な所でしょうね」
くっ、なんか知らんがイラッとするな
その気持を集中力に変えイメージを型として練り上げる
俺の右手に集まった魔力は淡い蒼の閃光を放ち徐々に形となっていく。後一息といったその時、夕日を背に物凄い速さで何かが飛来してくる
とてつもない速さで空気が破裂する音も続いている
とっさに横に飛び退き、深娜を押し倒す形でなんとか避ける
一瞬で自分のいた場所を通過した何かは見事に慎の小屋を破壊して地面に突き刺さり漸く停止した
「・・・・・なんだいったい?」
粉塵を上げて停止した何かの方を向いて首を傾げる
「ちょっと、早く退きなさいよ」
俺に押し倒されている深娜は頬を少し赤らめながら睨んでくる
「ああ、悪い悪い」
素早く深娜の上を退くと誰かが俺の背を軽く叩く。ゴツゴツした大きな手だ
ゆっくり振り向くと地面から伸びる岩の腕だ
「・・・・・・・」
岩の腕は親指を下に向けてグッ!とすると力一杯に頭を殴りつけ、地面に横たわる俺を地中に引きづり込み晒し首にされた
あ、窓から洸夜が手を振ってる。あははは、なんだろあの光の塊は
・・・・・・・
「うわあぁぁ!まさかの光の鉄槌だぁぁぁぁ」
四メートル近くまで膨れ上がった光の鉄槌は一直線に降り下ろされ俺を飲み込もうとしている
グッパイ、マイ人生
しかし光の鉄槌は直前で停止した
正確には止められたのだ。銀色の折り鶴に
「折り紙?」
光の鉄槌は折り鶴に吸収するかの様にどんどん小さくなって消えてしまい、変わりというように折り鶴は吸い込んだ光を俺に吐き出し、首から下の土を吹き飛ばした
深娜は何が起きているのか全く理解できていないなか唖然としている
窓の洸夜も足早に階段を降りてきている。壊れた小屋からは人の手らしき物が伸びている。後半は無視しよう
銀色の折り鶴は俺の目の前でゆっくりと解け、一枚の紙に戻る
「・・・厄介だね〜」
そこには短い文が書かれていた
『明日朝早くに行くから出迎えよろしく〜♪by千鶴ノ』
山脈の上空を高速で移動する一つの影
それは空飛ぶ絨毯ではなく、まして空飛ぶベットでもない
「飛べ〜、真っ白い木綿〜〜。火が付いたら焼け焦げる〜♪」
それは真っ白い布だった
「飛べ飛べ木綿〜マッハの速さ!口調はいつも九州男児!」
砂地の魔女、千鶴ノは布には不自然な赤いスイッチをポチッと押した
「おに太郎は〜ん。助けに来たとば〜い」
奇怪な布の乗り物は霞家を目指し猛スピードで天を疾走して行く
間違いと言う名の暴挙をするために
深夜2時、太陽は勿論、風の音以外何も感じられない闇の中、霞家上空には真っ白い木綿が浮いていた。若干角が焦げているが闇のおかげで見えない
「到着だおに太郎は〜ん。きばってきや〜」
天高くで奇声が響くが誰も気にしないので無視しよう
砂地の魔女は五枚の札を取り出した
その札には奇怪な文字が並んでいる
「さ〜てここからが腕の見せどころ」
五枚の札にふっと息を吹きかけ空に飛ばす
手から離れた札な風に乗り宙を舞い、まるで意思が有るかの様に霞家を囲むように五点に落ちる。札は大地に降り立つとその場で直立になり淡い光を放つ
「ホントなら直ぐに出来るんだけど家の中に優秀な魔術師さんと僧侶さんが居るからな〜」
下手に魔力を込めて発動したら寝てても起きてしまう。そしたら確実に邪魔される
だからこそ少ない魔力をゆっくり注ぎ練り込んでいく
「だけど待つだけの価値はあるのよね〜。霞と二人っきりになれるんだから頑張るぞ!」
私怨の塊を掲げ、千鶴ノは古代呪術を開始した
朝日が上り始めた午前5時半、最初に目を覚ますのは決まって俺である。重い瞼を押し上げ伸びをして布団からゆっくり這い出る
寝癖のついた頭をかきながら洗面所に向かい冷たい水で顔を洗い幾分かスッキリしてからやかんに火をかける
部屋に戻った俺は適当に服を選んで着替。そのまま玄関へと向かう
「そろそろ到着するころかな。もう少し遅くてもいいのに」
溜め息をついて外に出ると冷たい空気が肌を刺す
ゆっくり上る朝日に目を細めながら日課の体操を始めた
キタキタキター!!
遂にカスミンが出てきた〜。今よ!今こそ古代呪術発動よ!
「今ここに呪術解放を命ずる。主に逆らいし罪人に一滴の救いを。主を愚弄する罪人にささやかな慈悲を。主を認めぬ罪人に救いの試練を」
地に立つ札は陽炎に包まれ歪んでいく
「試練の時よ、罪人に裁きを。試練の時よ、罪人に戒めを。試練の時よ、罪人に試練を!」
最後の言葉を吐いたとき、千鶴ノは大変な事に気が付いた
霞が足早に家の中に走っていく
「ああぁぁぁ!霞が!霞が家の中に〜、ストープ、ストープ霞ぃぃぃ、呪文は急に止まらな〜い」
何故霞が家の中に走ったか。それはやかんが沸騰してピーーと鳴いたからである
そして家の中で寝ていた三人と、柱に縛りつけられ熟睡する男と家の主は忽然と姿を消した
目を覚ましたのは深娜だ。少し肌寒いと布団を引っ張ろうとして空を掴み、疑問を覚え目を開くとそこには鬱蒼とした森が広がっていた
「・・・・・・え?」
深娜は自分がまだ寝惚けてるけてると思い、近くに転がっている慎の耳をクリティカルに捻った
リアルに奇声を上げたので夢ではないと確信した。だが未だに理解できないのはやはり何故こんな場所に自分がいるのか
奇声を上げたモノから手を離し辺りを見回すと近くに加弥と洸夜もいた。パジャマ姿の二人は縮こまりながらモゾモゾと布団を探し手を左右に動かす。しかし何も無いと確信するとゆっくり転がる様にして近付き二人してくっつきながらまた熟睡し始めた
呆れて目線を反らすとそこには巨木を眺める霞がいた
「おはよ。生まれて初めての最新目覚めを体感したと思うが気分はどうだ?」
「勿論最悪よ」
「だろうな」
苦笑いをする霞は巨木に触れゆっくり息を吐く
「今分かる事は俺達は全く別の場所にいること。更に此処では魔力を精製する事は出来ない」
深娜は試しに最大出力の魔力を放出してみたが上手く練り上げる事が出来ない。内に有る魔力が上手くコントロール出来ない
「それで、これからどうするのよ」
「取り合えずそこの三人を起こしてからだな」
縮こまる二人を軽く叩いて起こし、草むらで伸びてる慎の耳をクリティカルに捻って起こし、今は現状確認である
「しかし慎、お前はなんて格好で寝ていたんだ」
「仕方ね〜だろ。寝床が壊れて着てたの洗濯してたから着替がこれしかなかったんだよ」
秋中頃の肌寒いと気候の中、半袖短パンのチビマッスル。まさに奇怪である。全力で無視する
一方加弥と洸夜はピンクと白の暖かそうなパジャマ姿である。しかし深娜だけは割りと薄い生地らしく、肌寒そうに体を摩っている
「なんでそんな薄着なんだ?」
「私はいつもある程度の保温術を使ってるのよ。今は魔法が使えないから仕方ないのよ」
「保温術ってなんとなく現代の湯たんぽみたいだな」
「帰ったら消し炭になりたい?」
「聞かなかったことにしといてくれ。詫びにほれ」
俺は自分の上着を深娜に渡してやった。千鶴ノさんのトコで色々稽古つけてもらってある程度の気候の変化には対応出来る様になったからな
深娜は暫し俺の上着を見た後、袖を通して着心地を確かめる様に裾を引っ張る
「・・・・・ありがと」
短い礼を言ってそっぽ向く深娜は若干顔が赤かった
なんて事を考えてると左右の腕に暖かい感触が広がる
「かすみ〜。私も寒いからくっついていいよね〜。断ったら捻るよ?」
「霞君、いいよね?駄目って言ったら泣いちゃうよ?」
断る事の出来ないお願い無言で肯定するとさっきまで触れていた巨木が風もなくざわめきだした
か・み・かすみ・・・こえる・・・・ち・のだよ・・・・・
雑音混じりのこの声に聞き覚えがある
「千鶴ノさんですか?」
きこえ・・・やった・・・しん・いしたん・・・ね・・・ちょっとつうし・・わるいか・・・・・えいやっ!
巨木のざわめきは収まり静寂が戻る
「やっほ霞〜。おひさ〜。千鶴ノちゃんだよ〜」
「お久しぶりです災害の元凶。どうせこんな状態になったのは彼方のせいでしょ?」
うぐぅっと唸る千鶴ノは直ぐに開き直り現状を説明した
分かった事は今いるこの世界は架空の世界であり、戻る方法はこの世界の創造者の未練を断ち切る
もしこの世界で命を落とした場合、この世界の呪縛に縛られ続ける
「後ね、もう少しで通信切れちゃうから必要な物言ってよ。頑張ってそっちの世界に送るから」
『まずは洋服!』
いつもの装備に戻った四人と何故か蒼の着物姿の俺
イジメか?仲間外れと言う名のシンプルbullying!
「霞、一人テンパってないで今後の動きを決めるわよ」
bullyingだ!
結局千鶴ノさんの通信は『帰ってきたら二人でイチャイ・・・・・』で途切れた
帰りたくないな〜と思いながら森の中を突き進んで行くと森が開け、小さな小屋が見えた。小川の隣に建つ小屋からは人の気配を感じない
「ごめんくださ〜い」
戸の前で呼び掛けてみたがやはり返事はなく、ただ小川のせせらぎが聞こえるだけだ
「霞、どうするの?その創造者っての見付けなきゃいけないんでしょ?」
加弥は小川を覗き込みながら聞いてくる。洸夜も加弥同様に覗き込んで魚を見付けるとはしゃいでいる
慎も珍しく草原の上で普通に寝ている。普通に
「おいおい霞、何故普通を強調する?」
「お前ハンモックで寝てるけど次の日必ずグルグル巻きになって宙吊りコクーン状態だろうが」
草原の上で嘘泣きをする慎を無視する
その時後ろこら視線を感じた気がして振り向く。しかしそこに広がるのは深い森しかない
何処となく違和感が残るも視線を反らし小屋に近付く
失礼と思ったが軽くノックをして戸を開ける
そこには小さな囲炉裏と戸棚、とても使い古された書物が並んでいる
「・・・・・住みて〜なこんな家」
自然な感想を呟きながら部屋の中を見回す
人が生活しているのは確だ。見る限り囲炉裏の炭にはまだ熱がある。つまり少し前まで人が居た
そこに答えが至った瞬間先程の違和感の理由が分かった
直ぐに小屋を出て周りを確認する
今の所変わった事は無いようだ。相変わらず小川ではしゃぐ二人と寝る奴
しかし深娜は辺りを見回している
「・・・・霞、少しおかしいと思わない?何か視線を感じるのよ」
「俺もだ。恐らく誰かに見られている。それもかなり隠れ馴れしたプロだ。厄介だぞ」
吹く風に揺らめく木々の擦れる音と小川のせせらぎ。はしゃぐ声と奇怪な寝言が聞こえる
「深娜、三人を小屋の中に。俺は少し周りを調べてくる」
懐から狐面とナイフを取り出す
「私も行くわよ」
「いや、深娜は三人と残ってくれ」
かなり不服そうなので物凄い説得力のある一言を言ってあげた
「加弥と洸夜に変な勘違いされたら大変だぞ」
深娜はボディーに軽い一発をお見舞いして小屋の方に歩いていった
闇の中に溶け込む一つの影は此方に近付く者に視線を合わせる
今世界は自分の記憶を元に造り出している
遂に私の試練が始まった
未練を断ち切る試練が
だがそれは今いるこの者に掛っている
見極めねば
この者の技量を
見極めねば
この者の心理を
託す事の出来る者か
確実にいる
気配を押し殺して此方を見ている
まさか千鶴ノさんの修業がここまで役立つとはな
「先程から此方を見ている者よ。そちらから敵意は感じていない。もし良ければ姿を見せて貰えないか」
返事はない
「私の名は野崎霞。半強制的に試練を受ける事になってしまった異世界の住人だ」
やはり返事はない
「・・・・・ならば此方から出向く事にします。先に言っておきますよ」
狐面でゆっくりと顔を覆いナイフを握る
頭の中でスイッチが入った。どうもこれを着けると容赦が出来ないんだよな
「取り合えず本気で行きますから」
一気に感覚が研ぎ澄まされた
囲炉裏を囲む四人
バチパチと音をたてている。手をかざしながら加弥は一言
「メダカ」
「カラス」
慎はさっき森で見付けた茸をひっくり返す
「雀」
深娜は戸棚の本に目を通している
「メイプルシロップ」
洸夜は千鶴ノさんが送ってくれたボウガンをいじっている。魔法が使えないからこれで頑張れと言われて来たので操作手順を確認している
パヒョッ!
「ひょぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
和やかに時間が過ぎていく
ナイフが宙を一閃する
枝葉を切り裂き一直線に飛来するナイフを影は左に避け枝から枝へ跳び移る
ピアノ線を付けたナイフを引き戻し低い姿勢で追跡する
速い。今だ明確な姿を確認出来ていない
ただですら暗い森の中であれだけの速さだ
「かなり厄介だな」
視界の悪い中、足元を確認する事なく左右に木々を避け追い続ける
速い
それに予想以上にこちらの位置を読まれている
正確に此方を狙って投げる刃物をギリギリで避けながら誘導していく
後少しだ
相手の足元に黒く塗装した縄を張り巡らせている。火薬を詰めた筒を地中に埋めており縄に少しでも足が掛れば爆破する
見極めねば
命を預ける事が出来る者かどうか
後少しだ
そう思った瞬間、狐面の者は奇怪な行動に出た
大きく踏み込むと宙に身を投げ出した
罠に気付いたのかと思ったがあの高さでは一帯の罠を回避するのは不可能だ
「これまでか・・・」
思わず漏れた落胆に沈みながら足を止める
ゆっくりと振り向き跳躍する者を見据える
高度が最高位に達して徐々に降下する
その筈だった
しかし狐面の者はそこからさらにもう一度、宙に身を乗せてきたのだ
「なっ!」
驚きに一瞬身動きが取れなくなり、次の行動に遅れが生じた
それを見逃す者ではない。この短い戦闘で黒い影は悟っていた
予想通り狐面の者は懐から刃物を抜き、寸分の狂いもなく此方に放ってきた
「初めましてと言ったとこでしょうかね」
俺の目の前には木に縛りつけられた人がいる。正確には左右の木ににピアノ線を付けた二本のナイフを数本放ち、その中心に位置する木に相手を押さえ付けているのだ
下手に力を込めて動けば人肌位容易く斬れる。それを分かっているのか相手は動こうとしない
「俺は名乗った。彼方も名乗るのが礼儀ではないかな?」
「・・・・夢幻だ」
「・・・女性でしたか。いやこれは失礼した」
俺は何の躊躇もなくピアノ線を全て切った
自由になった夢幻は一瞬で俺の背後に移動し、首筋に冷たい刃を突きつける
「・・・・安易な行動は死に繋がるぞ」
「安易な行動ね・・・・じゃあ聞くけど君の脇にあるのは何かな?」
俺の手にはナイフが握られ、背に立つ夢幻の脇腹に添えてある
「・・・・・抜け目の無い者だな」
夢幻は軽く飛び退き離れた枝の上に降り立つ
「私は夢幻。この世界を創造した者だ」
夢幻は顔を覆っていた黒い布を取り払った
現れたのは長い黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を放つ女性
夢幻はクナイを懐に戻し腕を見せる
白く細い腕には朱色の網目模様が小さく浮かび上がっている
「これが創造者の刻印だ。この世界の住人は全て未練を残して命を落とした者達の集まりで成り立っている。そしてその中の一人、今は私だが未練を断つ試練を受ける者の創造により世界を作り替えるのです」
「つまりこの世界は君の未練を型どっているわけだ」
俺は面を外し考える。どのような未練かは分からないが最終的には本人の意思が大事らしい。本人の意思が折れれば俺達の努力は無駄になるわけだ
「厄介な世界だ」
深々と溜め息を吐きだしと何故か夢幻がこちらをじっと見ている
そして一言
「彼方も女でしたか。素晴らしい動きですね」
俺は猛然と抗議した
15分かけてコッテリ叱ってやった
夢幻は非常に申し訳なさそうに枝の上で器用に土下座していた
「申し訳ない霞殿。私が未々未熟だった」
「もういいよ。それにしても霞殿って止めてくれないか。なんかへんな気分だ」
「それは出来ませぬ。主たる霞殿を呼び捨てする事など出来ません」
「・・・・主とな?」
「私の未練。それは主を守り通すこと無く命を落とした事。故に私には今守り通す主が必要なのです。ですのであの様な戦闘で霞殿を見極めておりました。御無礼御許し下さい」
「いや、まあいいけどさ。取り合えず小屋に戻りますか。仲間と詳しく話し合って次の行動を考えたいし」
「承知しました」
小屋に戻って最初に目に入ったのは、壁に縫いつけられた慎と、矢を一生懸命抜こうと頑張る洸夜だった
「・・・・・慎、また新たなプレイに目覚めたのか。いい加減にしたらどうだ?」
「違う!断じて俺は放置プレイに燃えておらんぞ!」
「またそう言って。そう言いながら心の中で」
「だ・・・・断じて違うぞ!」
「なんだその間は!」
「いや、自信がなくて」
取り合えず近くにあった薪を投げつけた
「それで、その後ろにいる黒いのは誰かしら?」
振り向くと黒い布で顔を覆った夢幻が立っていた
「夢幻、布取ったら」
「御命令とあらば」
布を取って素顔を出すと同時に飛び蹴りが炸裂した
無論標的は俺である。脇をえぐる様にくり出された加弥の蹴りは俺の肋を確実に砕く威力だ
しかしその間に割って入ったのは夢幻だ
両手を添え力を全て無効にし、更に膝に腕を決めて軽く捻る
「主に対する無礼は許さんぞ」
「イタイタイタイタイタ!痛いって真っ黒!」
加弥は夢幻の腕を叩きギブっていた
直ぐに解放するよう頼むと渋々ながら加弥から手を離し一歩下がる
「我が主に無礼を働くならばそれ相応の対応をさせてもらうからな」
鋭い眼光で釘を刺す夢幻。そして夢幻に対する皺寄せは自然と俺に向く。敵意の視線で睨まれては恐くて仕方ない
「いや、止めてよ。三人そろって睨まないでよ」
『・・・・・』
怖いよみんな
結局今日は全く話し合いが出来ずに夜を向かえる羽目になった
と言うか三日程進展がなかった
しかし人間三日もたてば馴れるものらしい
今では六人囲炉裏を囲んでイワナの塩焼を堪能していた
「天然はやっぱ美味しいな〜。霞〜お代わり」
「こら!主に何をさせるか!そこの小さいのにさせればよかろう」
「お〜い!チッサイはないだろ〜!心と夢と息子はおっきいぞ!」
周りが理解する前に小屋から叩き出し、小川に掛る水車に縛りつける
「霞〜これはマズブゴボゴボコボプハッ!マジでスマンかすミブグボクバタ・・・」
無視しよう
戻ると不思議そうにこちらを見る夢幻といつも通り気にしない三人
それから数分後、綺麗にイワナを食べた深娜は三日目初の進展を始めた
「そう言えばこの世界は彼方の未練の形なんでしょ?ならそれは何なのかしら?」
湯飲みから口を離し夢幻は押し黙る
誰も急かす事なくじっと待っている。夢幻も又、覚悟を決める様に深く深呼吸をする
「主、これを聞けば戻る事は出来ませぬ。よろしいですか?」
「構わん。それにここに居るのは覚悟をしっかりしてる連中だ」
夢幻は皆を見回し自らの覚悟を決める
「分かりました。全て御話しします」
夢幻は湯飲みを置いて立ち上がり、戸棚の奥、小さな小箱を取り出した
中に入っていたのは鍔の先から折られた刀
「これは私が生前御使えした主の刀。妖刀虎ノ廻。一振りで流れる濁流をも切り裂く豪刀だった業物だ」
「豪刀だった業物・・・・ね。つまりその業物でも倒せない相手に・・」
深娜の問いに表情を曇らせる
「そうだ。主、名は套綴。私達は初代より套綴殿の一族を御守りしてきた。そして套綴殿はその一族の中でも一・二を争う強者と父上から聞いている。実際御会いした時もその威圧に圧倒された」
懐かしむ様に眼を閉じ苦渋に唇を噛む
「敵の名は百鬼夜行。幾多の鬼を従え名の有る強者を葬り去った異形の鬼だ」
すると加弥は首を傾げる
「ねえ霞、百鬼夜行って聞いたことはあるんだけどなんて意味なの?」
「百鬼夜行。意味としては色々な化け物か夜中に列をなして歩く事。他の意味としては多くの悪者が傍若無人に振る舞う事と言われてるんだよね」
「霞君、その百鬼夜行?だっけ、それって確か日本のことわざだよね。つまりこの世界って日本?」
「?よくは分からないが此処は江戸近くの山奥です。霞殿は御存じですか?」
「江戸・・・うん。分かった。洸夜、ここは日本だね。確か今から約400年ぐらい前に始まった時代だ」
「それはいいけど、これからどうするの?相手の強さは分かったけどそれだけで挑むのは無茶じゃない?」
深娜の最もな意見に二人は首を傾げ、もう二人は呑気に茶を煤っている
深娜の容赦ない湯飲み攻撃も夢幻がアッサリ受け止めお決まりになった乱闘が始まる
明日辺りに江戸でも見物しに行くか・・・
飛び交う湯飲みや薪を器用に避けながら茶を煤る霞だった
「霞〜助けベボゴボゴボゴゴボホ!早くたすけぼボホベボゴボゴボゴゴ」
さて、江戸の町中を歩く俺達を奇異の視線を送る人々
先に断っておくがまさか江戸の町中を鎧やら黒いローブやら修道服なんかで歩くわけが無いその辺は抜かり無く夢幻にお願いして一般的な服を調達してもらったのだ
「なあ霞」
「どうした慎」
「いやな、皆朱とか黄色とか蒼とか色取り取りの着物じゃないか?」
「うむ。皆至極当然ながら似合うね」
「なら何故俺だけポルトガルチックなんだ?」
「む、気に入らなかったか小さいの」
「霞!お前の部下どうにかしろよ、泣くぞ!」
「泣けよ」
小さいポルトガル人は隅ですすり泣くので蹴り倒し、近くの茶屋で一服することにした
「夢幻、この辺には百鬼夜行が現れるのか?」
「いえ。あの者は一定周期で町全体に出没します。おそらく次に現れるのは東側の方かと。それと常に数匹の鬼を従えております」
ふ〜んっと頷きながら団子を口に運ぶ加弥
「その鬼は強いの?見たこと無いけど一応私達元の世界じゃ結構強いよ」
「あう・・・・私魔法使えないよ」
洸夜はちょっとヘコンで頭が下がっている
無限は食べ終えた団子の串を常人には見えない速度でポルトガルな人の後頭部に放つ
ポルトガルな人は振り向かないまま軽く弾く
「・・・・・あの小さいのもそれなりに強いようだな」
夢幻は漸くポルトガルチックな人を認めてくれたようだ
「あの者の従える鬼は側近の前鬼、後鬼。そしてその下に四鬼が就いている。風鬼、水鬼、金鬼、隠形鬼。どれも厄介な鬼だ」
「あれ?霞って前にオンギョウキっての言わなかった?」
「言ったよ。忍の起源とも言われた鬼、オンギョウキ。俺達の世界じゃ架空とされてたけどこっちの世界じゃ実在するってことだろ」
まさか本物に会えるとはね。苦笑いの後勘定を済ませ(ここは夢幻の貸し)一通り町を見て回った。相手の出没地点での被害や行動、その他共通するような事柄が無いか調べあげた
「結果としてなんの共通性も無しで被害も大なり小なり。流石に女、子供には手を出してないがある程度の技量を持ってれば容赦無しか」
「それで、策士は何か思いついて?」
「アクション待ち」
結局それから三日ほど何の動きも無く、皆が皆で割と楽しく生活していた
例えば加弥はちょっとカワイイ簪を付けてはしゃいだり
洸夜はちょっと珍しい料理に挑戦したり
慎は相変わらずポルトガルチックだし
「あんたは相変わらずね。いつまで本読んでるのよ」
「その棚の読むまで。言い返すがいつまで夢幻と睨み合っている」
『そっちが睨むから』
「さいですか」
もう馴れたので本に意識を集中するか
すると深娜は夢幻に首で表に出るよう指示する
「何か様か」
「ふん、白々しいわね」
そこは小屋から大分離れた場所であり、二人以外人の気配は無い
「・・・・・何が言いたい。話が読めぬぞ」
「あら、白を切る様ね。生憎隠し事は私も霞も通じないのよ。あいつは何も言わないけど私は言わせてもらうわ」
深娜はゆっくり鎌を構え夢幻に向ける
「百鬼夜行について隠してる事があるでしょ。少なくともまだ話して無い事がある」
夢幻は身動きせず内心の驚きを隠す
「どうやら図星ね」
深々と溜め息をつく
「別に隠すことをどうこう言う気はないわ。ただね・・・・」
殺気を含ませた鋭い視線を投げつける
「もしその隠してる事で霞が傷つくなら私は容赦しないわよ」
夢幻はゆっくり息を吐き目を伏せる
「・・・・いつから疑っていた?」
「彼方が鬼について話していたときに確信したわ。何故百鬼夜行の事を『あの者』と表現したのか。者ってのは人、人だったモノ、若しくはそれに類するモノを表現する時使うものよ。それに彼方が百鬼夜行の事を話すとき、必ず表情が同じなのよ。全部内側に押し込めて形だけと微笑なのよ」
「・・・・何故私が形だけの微笑だと言い切れる?これが忍としての訓練の表れかもしれぬのだぞ」
「似てるのよ」
深娜は構えを解き視線を反らす
「悩んで悩んで、結局笑って誤魔化そうとする霞と。何があっても内側に押し込めて形を崩せない私と」
夢幻はまだ覚悟する事が出来ない。例え主に嘘をついてたとしても、それが知れた時を思えば言わぬ方が得策
「大丈夫だ。どんな事があろうと主を裏切る事はしない。例え我が名が夢、幻で在ろうと。主を守り抜くは私の信念だ」
夢幻の堅い信念に深娜は諦める。これは彼女の問題なんだろう
すると夢幻は今までと違う意味で表情が固くなった。そして一言
「あ・・・・・」
深娜は物凄く嫌な予感がした
土下座している
夢幻は俺に深々と頭を下げている
「・・・・夢幻さん」
「申し訳ありません。大変な事を伝え忘れていました」
俺の後ろでは三人ほど首を傾げ、一名は帰って来て5度目の溜め息を吐き、夢幻を睨んでた
「百鬼夜行は普通の鬼と違いある概念を保有しています。あの者の一定周囲に居る者は自分の名に縛られます。本来名前にはそれぞれの立場や己を意味し、名は体を表すとされています」
「ふむ、確かに日本神話における神の名は立場を意味していたな」
「はい。ですのでくれぐれも御気を付け下さ・・・・・・!」
突然夢幻は町の方に顔を向け押し黙る
「・・・・どうした?」
「奴が現れました」
夢幻は直ぐに表へ出ると一直線に町の方へ姿を消した
しばしポカ〜ンとしていた五人は慌てて夢幻を追って行った
「・・・今宵も宴か・・・・・・・」
月明かりの下、一人の青年はひときは大きい屋敷の上に降り立った。黒く染まる髪をなびかせ深紅の着物に身を包む青年は腰に吊る笛に手を伸ばし
「ん?」
動きを止める
そこには同じ屋根に降り立つ一つの影があった
「・・・・・久しいな百鬼夜行。滅びの歌を紡いだか」
青年はふっと笑い影を見つめる
「夢幻、今宵も宴が始まるぞ・・・・・踊り手は揃ったか?」
音もなく屋根から起き上がる黒い影
「こちらの役者揃ったぞ?宴の踊り手は・・・・・いや、聞くも又無粋か」
言葉を吐くと同時に屋根に四つの影が降りる
「夢幻、こいつが百鬼夜行か?」
「ああ、私の仇だ」
ちなみに残りの三人はちゃんと降り立ち、洸夜は律儀に(魔法が使えないから)階段を登って来ている
「役者は揃った・・・・さあ、宴の鐘を鳴り響かせよう・・・・・・・」
洸夜がタイミング良く屋根の瓦を外す音と共に一斉に動きだした
瓦を蹴る音が木霊する
そしてそれに続くのは破砕音の連続である
「っ!なんつう重さしてんだ、ダイエットしたらどうだ!」
慎を追うのはの四本角のいかつい顔に、黒く変色した血で染まる金棒を持つ赤褐色の肌をした鬼
そして立ち並ぶ家屋の影から浮き出る鬼
黒色の肌に異常に長い薙屶、一本角の険しい表情。そして腰には数人の頭蓋骨を吊り下げている
一本角は地を蹴り慎の走る高さまで跳び立つと横薙に振り抜く
慎は滑る様に身を低くして回避し、力強く跳躍
一瞬遅れで慎がいた位置に金棒が振り下ろされ家屋を玩具の様に軽々と破壊した
「金と隠か。なら加弥の方は風と水か」
慎は屋根を跳び渡り初めての武器を握り絞めた
加弥は全力で走っている。後方では大量の矢が飛来してくる
しかしその矢は水を凝固して造り上げた物であり、更にその勢いを助けるのは意思ある刃の突風である
加弥は全力で走っている。脇に洸夜を抱えながら全力で走っている
「コウちゃん!足動かして!早く動かして!」
「はわぁぁぁぁ!速いよ〜速いよ〜」
小さい加弥の脇でパタパタ足を動かす洸夜
はたから見れば面白いが本人達は至って真面目なのです。真面目なのです!
「コウちゃん、せ〜ので行くよ、せ〜のっ!」
加弥は力一杯に洸夜を民家の屋根に放り投げ、振り向き様に千角を構え幾多の矢を弾き、無数の刃を避ける
「かかってらっしゃい!手加減無しだよ!」
そこに立つのは二本角に紫色の肌で二矛の槍を構える水鬼
そして四鬼の中では飛び抜けて明るい色の黄緑肌を持ち、身の丈2mを上回る長刀を構える風鬼
共に武器を構え絶え間無く殺気を放ち続ける
しかし二鬼は突然構えを解いた
「引け」
複数の声を同時に話す様な声で水鬼は話しかける
「我等は女、子供は殺らん。自ら誇りを失う気はない。引くがいい」
「・・・・・差別?」
「何と言われようと譲れぬ誇り。我等妖にとって対等で無い者を殺すことは同族殺しの次に卑しい事とされている」
風鬼は長刀を腰に戻し割と高い声で話す
「そなたが如何に強かろうと我等は戦えぬ。我等四鬼、最後の鬼神族として忘れてはならぬのだ」
「あ、あの〜」
下の一人+二鬼は上を見る。洸夜が落ちない様に確り瓦を掴んでいる
「なら百鬼夜行の隣にいた二匹はなんなんですか?」
「アレは妖ではない。百鬼夜行が作り出した分身に過ぎぬ。故に誇りを知らぬ出来損ないだ」
「ふ〜ん。じゃ深娜ちゃんヤバくない?」
そんな加弥の疑問に答えたのは風鬼だった
「いや、あの者からは特別な力を感じた。百鬼夜行と似た異形の力を。そして着物の少年からはそれとも違う力を感じた」
「って言うか男ってよく分かったね」
「皆は分からぬのか」
何とも緊張感に欠ける会話だった
「っくし!」
霞はくしゃみをして振り返る。誰か俺の事言ってたな
と思っていると横っ面をおもいっきり蹴られた
吹き飛ぶ俺と蹴る深娜。そしてその間を異常に長い長刀が通過し、民家を容易く両断する
「霞、よそ見出来る相手だと思ってるの?」
「いいや、ただちょっと大変失礼な事を言ってんじゃね〜かこの野郎的な波動を感じてつい」
言うなり後方に飛び退く。すると頭上から灰色がかった肌を持つ無表情の妖が拳を振り上げ落下し、民家を粉々に粉砕する
口から漏れる荒々しい呼吸に合わせ体は上下し、ゆっくりと腕を引き抜く
「・・・軽くヤバイ?」
「ふん、上等よ」
めちゃくちゃ強気の深娜を横目に夢幻に注意を向ける
夢幻は短刀を構え一分の隙もなく百鬼夜行を見据えている
どうやらこの二鬼は夢幻を狙う気はないらしい。非常に好都合だ
「・・・・・霞殿、この者は私に任せてもらってよろしいでしょうか?」
「行けるか?こいつは・・・・・」
「殺ります。それが私の使命ですので。霞殿も御気を付け下さい。前鬼、後鬼は百鬼夜行の分身に近い存在です。故に概念にも殆んど影響を受けないので厄介な相手に変わりありませんので」
そう言い残し、夢幻は一気に百鬼夜行との距離を詰め右下段から振り上げ、踏み込む右足を軸に体を左に捻り脇を狙い強烈な回し蹴りを放つ
しかし百鬼夜行はスレスレで避け、絶え間ない微笑を続けながら霞達から離れるように後方に飛んでいく
瞬時に後を追う夢幻に俺は叫ぶ
「夢幻!無茶はするな」
夢幻は足を止める。振り返る事無く立ち止まる
「霞殿・・・・」
小さく漏れる言葉は自分自身聞き取れるかどうかも分からない程小さな囁きだ
「御安心ください」
振り向く夢幻は微笑む
「私には霞殿を御守りする使命もあります。決して敗れはしません」
背を向ける夢幻は霞に対し深く謝罪し、百鬼夜行を追うため脚に力を込める
「そうか。行ってこい我が友」
息を呑む夢幻は必死な振り返る衝動を押さえた
罪悪感拡がる心中を殺意で被い
震えそうな脚に自負を打ち付け
壊れそうな心に信頼を縛り付け
「・・・・武運を・・・・・・霞」
夢幻は風の様にその場から姿を消した
「あれでいいの?」
深娜は油断無く構え問掛ける。その表情には少し陰が見える
「問題無い。夢幻は強い。俺等は出来ることを全力でやるだけだ。手始めに」
懐から取り出す狐面で全てを被い隠す
「そこの二匹を殺るぞ」
俺は間合いを詰めた
「吹っ飛べぇぇぇぇ!」
慎は宙に浮く金鬼目掛け一本足打方の如く黒色の鉄棒を振り抜く
金属音に近い音を響かせながら金鬼は再び宙を舞い、派手な砂埃を巻き上げ路面を転がる
「いいね〜鉄真丸。俺にピッタリだぜ」
千鶴ノさんが一緒に送ってきた武器の一つ
鉄真丸。物体が物体にぶつかる時、作用反作用が発生する。
作用とは物体Aが物体Bに与える力であり、反作用とは物体Bが物体Aに返す力である
しかし鉄真丸は反作用を受け付けない武器なのだ
ようは二本の鉄のハンマーをぶつけ、片方は跳ね返るがもう片方はなんともないといった感じである
「しゃぁ金鬼、何時まで寝てんだ。どうせ起きてんだろ」
薄れる砂埃から起き上がる金鬼。しかし体には一切の傷は見当たらない
「硬いなちきしょう。鬼ってのは頑丈だな」
「嫌、金鬼のみ与えられたモノだ」
地にあぐらをかき此方を見る穏行鬼。武器も地に置き戦意が無い事を示している
「我等四鬼、各々に秀でた技が備わっている。風鬼、水鬼は名の如く風と水を操る事が出来る。そして我、穏行鬼は姿を偽る力。金鬼は己を鉱物の如く硬化するのだ」
「つうかそんな教えていいのかよ?」
金鬼は埃を払い低く轟く声を出す
「我等は相手に対等で在ることを望む」
金鬼は金棒を構え地を蹴る。代質量の金棒を力任せに振り下ろす
慎は横に飛び退き家屋の壁を蹴り金鬼の上を跳ぶ
金鬼が地に振り下ろした金棒は大地をえぐりクレーターを作る程の威力を有している
「うぉぉぉぉぉ!」
慎は身を捻り高速で回転する。回転で生まれる遠心力を全て金棒に注ぎ振り下ろす
何かが砕ける音が響く
「・・・・やっべ〜」
金鬼は己の腕を盾に鉄真丸を防いだ。鉄に匹敵する硬度を砕く威力であった。しかし急所かそれに類する決定打に当てねば不利になるのは自分だ
不意に視界が揺らぎ、続いて異常な衝撃が脇腹に拡がる
痛みはまだ無い。有るのは身体中に拡がる振動
金鬼の一撃は肋を的確に狙っていた。唯一砕けなかったのは防具の性能と、無意識に行った防御のおかげだろう
そのまま桟橋を破壊して水路の壁に激突する。そこで初めて痛みが身体中を貫く
「がぁっ!・・・いつつ。効いたな〜」
「まだ立つ。頑丈だな」
「あんがとよ金鬼。どっちもまだ動けるだろ?」
「無論」
慎は飛び上がり金鬼と対峙する。長期戦は避けたい。次の相手は恐らく四鬼でもトップの穏行鬼。
体力を考えれば次の一撃で決めるしかない
金鬼は動き出す。地を蹴り跳躍して右腕に握られた金棒を慎に突き立てる
慎は腰を落とし鉄真丸を居合いの様に構える
脚に力を込め近付く金棒に鉄真丸を抜き放つ
反作用を受け付けない鉄真丸は弾かれない。ならば後は自分の力呑み注げばいい
慎は全力で振り抜いた。互いの武器が音を立てて砕けるのも構わず
だがまだ終らない。振り抜いた姿勢を無理矢理捻り更に回転する
肋が悲鳴を上げるのを無視して拳を構える
狙うは落ちてくる金鬼の顎。決めは勝利のみ
「くらっとけぇぇぇ!」
己の拳はいとも容易く砕けた。そして相手も又砕けた
加弥はふと空を見る
何かが響いた気がする
そんな気がしたが今は相手のみに集中しよう
指先に構える武器を相手に叩き付ける
「大手!」
「ぐぬぅ。ま、待った!ちょっと待った」
「待ったな〜し!勝負に待ったは無しよ」
将棋中だった
「待て!我は将棋たるものを詳しくは知らぬ。しかし『角』が『核』に成るのは知らぬぞ!」
「此が真実よ!」
「なぬ!」
茶店に腰掛け対局する加弥と風鬼。そしてその脇では洸夜と水鬼がお茶を飲みながら和んでいた
「ふむ、そなた等の国はそれ程に豊な社会と技術を有しているのか」
「でも此方ほど自然が豊かとは言えませんよ。人工の物も多いですから」
ズズ〜と煤り串団子を口に運ぶ。霞君も呼びたいな〜と思いながら加弥の方を見る
「ぬぬぬぅ、ならば此で大手だ!」
飛車をパシンと決める風鬼。しかし加弥は不適に笑う
「甘いわ風鬼!ここで金が成るのよ」
引っくり返る金は『禁』と彫られている
「飛車禁止!」
「そんな殺生な!」
洸夜はふと思った
私達何がしたかったんだろうか
頬をかすめる風に舌打をし、下段に構える鎌を振り上げる
しかしそこに割り込む様に灰色の拳が迫る
再度舌打をして攻撃を中断し、身を低くして転がる様に赤黒い肌に目を覆う黒い布、長剣を持つ前鬼の横をすり抜ける
後鬼は素早く反応し、深娜を背後から追うがそこに俺が割り込む
手に持つ刀は千鶴ノさんから送られた歪刀。鉄としての丈夫さを持ち、鞭としての柔軟さを持つ奇刀
上段から振り下ろす歪刀を寸前で避け、相手は一旦距離を開ける
「無事か深娜」
「ええ、なんとかね」
乱れた息を整え深娜は小さな水晶を掴む
「・・・・いいわね」
「ああ。チャンスは一度。直撃呑みが狙いの必殺技だ。行くぞ?」
深娜は自分の中に存在する魔力を最大限に放出し、水晶に注ぐ
ガラスの様に透き通っていた水晶は徐々に色を変え蒼く染まっていく
「内に秘めし秘術の心得、覇刻の力を示せ」
俺は低姿勢で地を蹴り、二鬼の背後に回り込む
若干反応の鈍い前鬼は容易く回り込めたが、やはり後鬼は何かを察したらしく直ぐに飛び退いた
「今だ深娜!」
「総てを飲み込み無を産み出しなさい!狩狂鎌!(しゅきょうがま)」
砕け散る水晶から溢れ出す蒼い靄が拡がり形を成していく
蒼白い鎌は形を成し、更に大きく膨れ上がる
前鬼も直ぐに飛び退こうとしたが俺は直ぐに膝裏をおもいっきり蹴ってやった
鬼の膝カックン
そりゃ〜爽快な気分だった。カクンと傾き膝を付く前鬼
その場を離れて眺めたが凄い貴重なシーンだ
そしてまるで懺悔してるような格好の前鬼を飲み込む様に狩狂鎌は迫り、容易く前鬼を消し去った
ふと空を見る百鬼夜行に身構える夢幻
百鬼夜行は一瞬蒼白く輝いた西の方に目をやる
「今宵の踊り手は愉快だな。今まで以上に愉快な踊りてだ」
「部下が逝ったか。ならば直ぐに後を追わせてやろう」
素早く身を低くして屋根を蹴り背後に回り込み短刀を抜き放つ
しかし百鬼夜行は微笑みを絶やさず踊るように連撃を避けていく
「変わらぬな夢幻。あの頃と少しも。そう・・・・・上段の斬は囮」
囮の斬撃の後に放つ回し蹴りを舞う百鬼夜行
舌打ちをする夢幻はクナイを抜き放つ
しかし百鬼夜行は相変わらず微笑み、総てを打ち払った
「変わらぬな。あの頃と少しも・・・・・・そうだろ、我等最後の血族にして唯一の妹よ」
「言うな!裏切りの刻印を持つ者は兄ではない。貴様を討つのは私の使命だ。滅びよ無克!」
夢幻は叫び動き出す
総てを終らせる為に
「なあ隠行鬼さんよ〜」
「なんだ」
「いいの?これ」
「構わぬ。いつもの事だ。気にするな」
鬼に気にするなと言われるのもどうかと思う慎。今慎は鬼の秘薬たる薬を頂き完全復活を遂げた
複雑骨折した拳と皹程度で済んだ肋、その他体力気力まで全て完治している
「対等の立場で闘うが我等の掟だ。怪我人を倒した処で卑怯なだけだ」
「まあいいけどさ。ほんじゃやるかい?」
立ち上がり拳を構える。しかし隠行鬼は別の方を眺めている
「いや、どうやら無克が力を解放するようだ」
「無克?誰だそれ」
「お主達には百鬼夜行と言った方が分かりやすかろう」
「へ〜。無克っつうんだ。初めて知った」
「無克は夢幻の兄だ」
「・・・・・・・・まったまたぁ〜」
「よく分からぬが不愉快になるぞその言い方は」
「鬼に冷たい視線投げ掛けられた〜!」
隠行鬼は慎の事を少しウザッたく感じたとか
拡がる波動
全てに等しく全てに与えられし名の元に
名と言う某の意味を見つめ直せ。全てに存在する名と言う力を見つめ直せ
将棋(?)に敗北した風鬼は突然空を見上げる
「水鬼、これはもしや・・・・」
「うむ、恐らくは・・・・・厄介だぞ」
そんな二人のやりとらに首を傾げる二人
しかしそんな事を気にする事なく全ては飲み込まれた
「・・・・・これは・・悪夢か?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。あ、足元の石に気を付けて下さいね。転んだら大変ですから」
そそくさと小石を家屋の隙間に放り投げる慎
隠行鬼は非常に困った。先程までと打って変わって変になった
いや、元から変なのは百も承知。
一言で言えば変態が変人に変わったのだろう
「あ、隠行鬼さん、お疲れ様でしたらそこの茶屋で一杯どうです?」
取り合えず殴って黙らせる事にした
鬼が二匹、全力で走る
「風鬼!何が起ったのだ!我には分からぬ!」
「右に同じだ水鬼!さては何か失礼な事を言ったな!」
二人の女は全力で走る
「待ちなさい風鬼水鬼!観念して勝負なさい!」
「ちょちょっとどうしたのコウちゃん!さっきまで和やかだったじゃん」
「加弥!勝負は常に真剣で油断なんか駄目なんだよ!」
「呼び捨てにされた!」
割と大変そうだった
後鬼と対峙する二人
相変わらず荒い呼吸に合わせ体を上下する後鬼はゆっくりとした動作で鉄爪を填める
「霞、あんた大丈夫なの?そんなんで」
「ああ・・・・馴れたから大丈夫だろう。しかし深娜、その・・・・なんだ。その格好どうにかならんか」
非常に困った。もう男として困った
何故なら深娜の格好は俺のと同じ色の着物なのだが・・・・露出箇所が妙にあるのだ
肩の辺りは着崩してるし丈は短くてミニスカートみたいだし胸元大胆だし
何より雰囲気が違うのだ。本人は自覚してなくても見えないフェロモンが放たれているのだ
「仕方ないでしょ。名前がそうなるんだから」
今俺達は百鬼夜行の概念下にいる。名前が力を持つ概念
深娜の場合、深は深いや奥底を意味するが娜はなまめかしい、女性としての色気等を意味するのだ。迷惑この上ないな
「煩いわよ!」
改心のビンタを受けた俺は無散する
白い煙の様に散った俺は直ぐに元に戻る
「おい、一応痛いんだから止めろよな。集中しないと戻らないんだから」
霞としての力を持った俺はどうも居心地が悪い。先程みたいに飛び散るし集中しないとどんどん広がっていく感じになってしまう
「取り合えず後鬼を片付けますか。ほいじゃ深娜、ちょっと失礼」
俺は左腕を深娜の方に向ける。すると腕は次第に霧状になり深娜を包み込んでいく
「ちょっと、何よこれ」
「霞の力だよ。霞っつうのは物を隠し包み込むっつう意味もあるんだ。ついでに言えば俺一人で十分だから加弥達の方を見てきてくれ」
俺は見えない何かを掴み後鬼に向ける
「名前が力を持った時点で俺の勝利は決まったんだからよ」
深娜は溜め息をつき背を向ける
「さっさと帰って来なさいよ」
「了解」
俺は力強く踏み込み見えない武器を振り抜いた
広がるのは夢見た景色
遠く彼方に忘れ去られた幻の一辺
「ここ・・・・は・・・・・」
確かめる様に見渡すと風情ある造りの部屋に囲炉裏の前に腰掛ける套綴
「ん?漸く起きたか。わしが来ても寝ておるとは珍しいな」
「套綴・・・・殿」
「何を呆けておる。お前らしくあるまいて」
豪快に笑う套綴はあの頃と少しも変わらない
内に秘めた鬼神のごとき迫力も。部下思いで何処か安らぎを感じる優しさも
「悪い夢でも見たか?少しうなされてたが」
「・・・ゆ・・・め」
「はっはっはっ、こりゃ愉快。こんなお主を見るのは初めてじゃ」膝を叩き笑う套綴は茶を煤る
「套綴殿、無克は何処に居ますか?」
「無克か?お主そこまで呆けたか?さっきから主の後ろにおるだろうが」
夢幻は焦りながらも直ぐに振り向く。そこには相変わらず微笑んだ無克が立っていた
「我に用か夢幻?余りにも愉快でつい眺めてしまったぞ」
無克は囲炉裏の側に歩み腰を落とす
「しかし夢幻に呼び捨てにされたのは些か悲しいですな」
「お主は威厳が足りんのだろうに。いつも笑ってばかりで」
お互い声をあげて笑う。そんな光景を眺め夢幻は思う
本当に夢だったのではないか。今見てる世界が真実ではないのか
強く優しい套綴殿がいて
いつも笑顔の兄がいて
郷には同士がいて
「兄上。套綴殿・・・・・・・」
夢幻は静かに眼を閉じる
俺は右腕をスッと動かし後鬼の横をすり抜ける
後鬼の腕からは鮮血が吹き出し低い呻き声をあげる
「どうだ?見えぬ武器ほど避けづらい物はないだろ?もっとも見えぬのは武器だけでは無いがな」
うっすらと水気を帯た歪刀を軽く振ると音もなく景色に溶けこんだ
「見えぬ刀と聴こえぬ音。どうだ、こんな相手は初めてだろ?」
後鬼は叫びをあげ恐ろしい速さで拳を振り下ろす
「無駄だってまだ分からないか?学べよ鬼」
的確に俺の頭を捕えた鉄爪は虚しく空を斬る
無散する小さな水滴は後鬼をすり抜ける形を成す。そして残された後鬼は身体中から血を流し膝を付いている
「無駄だ後鬼。言ったろ?名が力を持った時点で勝利は決まったんだから。考えろ後鬼。何故俺が一人でいいと言って深娜を返したか」
忍笑いの後諭す様に語りかける
「理由は二つ。一つは単純。女性に血生臭いとこは見せれまい」
屋根の上に跳び移り後鬼を見下ろす
「名前が力を持つ。名前とは別に一人一つではない。俺にはもう一つの名があるんでね」
澄んだ空気に指を弾く音が拡がる
「我は今を生きる魔王なり。疑い物の鬼よ。今一度土に戻れ。新しき世界が産まれるその時まで」
静かに空間が砕けた
そこには何も無い。何も存在しない
「もう一つの理由はやはり単純」
屋根に立つのは真紅の瞳に後ろに伸びる長く鋭い角。蒼の着物に不釣り合いの漆黒の羽
「こんな姿は見せれないだろ?いくら俺の魔王に対するイメージの姿でもさ」
魔王は月の輝く空を駆けていく。友の元へ
「夢幻、どうした?」
「兄上。私は夢であって欲しいと私は何度も思った」
ゆっくり眼を開け兄である無克を見据える
「夢の事か?どんな怖い夢を見たのかは分からぬが安心しろ。我は此処にいる」
昔と変わらぬ微笑みは眩しかった
「そうだ。兄は此処にいる。だが其処にはいない。そうであろう無克」
拡がる景色は月夜の世界
「夢幻・・・・何故だい。何故醒めてしまったんだい?」
「私の名は夢幻。夢とは儚い存在。幻は実体が無いもの。そして私は逃げていたの。受け入れたくなかったのだ。現実を」
「何故だろうね。何故受け入れれたんだい」
胸に突き刺さるクナイをゆっくり引き抜き無克は問掛ける
「私は今まで主は主として見ていた。主の為に命を捨て、主の為に己を捨てていた」
一瞬で十数のクナイを無克に放つ。直ぐに引き抜いたクナイで弾くが傷は更に増える
「だが今の主は私を友と呼んでくれた。初めて友と呼んでくれた主だ」
金色に輝く瞳は兄を見据える。無克は乱れた呼吸をゆっくり静める
「私は主の為に命を捨てぬ。主の為に生き続けてみせる」
無克は微笑みむ
「夢幻。我等最後の血族よ。そなたは逞しなった。よくぞ我を止めてくれた。力に呑まれし堕弱の兄を」
月夜に笛の音が鳴り響く
透き通る音は歓びに満ち、哀しみに震えていた
「兄上・・・・・」
透き通る音は響き渡る
そして溶けて消えていく
「我が最後の血族の主よ。聞いているか」
空に語りかける
「我に眠りを与えてくれるだろうか。安らぎを与えてくれるだろうか」
「・・・・気付いていたか百鬼夜行」
「我は夜を歩む悪しき鬼なり。気付いて当然。我より悪しき者よ」
ゆっくり地に降り立ち夢幻の隣に立つ
「俺はお前に眠りを与えれるだろう。しかし安らぎを与える事は出来ぬ。違うか?」
「だからこそ願いしたいのだ。償いの時を頂きたい。それが我の最初にて最後の願いだ」
夢幻は兄に背を向け空を見上げる
「霞殿。私からもお願いしたい。兄に・・・・・眠りを与えはくれないだろうか」
震える体を必死に抑え、夢幻は俺に微笑む。全てを背負い、その全てを笑顔の内側に封じ込め
「分かった」
俺は空に向かって指を弾いた
「兄上、急がれよ。套綴殿が御呼びだ」
「そうせかさないでくれないか?これでも急いでおる」
屋敷の屋根を跳び渡り、兄妹は主の元へ向かう
妹は急かす様に兄の袖先を引き、兄は相変わらず微笑んでいる
我は幸せか?
無克は己に問う
当然だ
己は無克に返す
兄妹は主の元へ向かう
夜が明け太陽が町に射し込み
「御世話になりました霞殿。私と兄を救って頂き誠に感謝しております」
深々と頭を下げる夢幻は笑っている。作り物の笑顔ではなく、心から笑ってくれた
あの後皆の元に戻ると割りと大変だった
加弥はふてくされて隅でイジケており、洸夜が必死に何か話しかけている
「何したんだあの二人」
「洸夜さんに呼び捨てにされてイジケてるのよ」
「ああ。洸って水が拡がるって意味で洸洸で勇ましいって意味だからな。名前に少し呑まれたんだろ」
視線をズラすと三鬼が深娜から視線を必死に反らしている
大方深娜のフェロモンに負けたんだろうな
隠行鬼は慎が目を覚ます度に殴り倒している
無視しよう
それから夢幻は四鬼を従え郷に戻ると言った。残り少ない時間を兄と套綴と共に暮らした屋敷で過ごすそうだ
「霞殿。時間が迫っております。後少しで異界の門が開きます」
最初に降り立った巨木は渦を巻くように歪み闇の門を造り上げる
「夢幻、これで主と家臣の関係は終りだ。違うか?」
「・・・・はい。多々御迷惑を御掛しました」
「ふむ。漸く互いを友として呼べるな」
俺は懐からナイフを取りだし夢幻に渡す
「受け取って貰えるかな?我が新たな友よ」
夢幻はゆっくりナイフを受取り、代わりに己のクナイを取り出す
一瞬夢幻の瞳が金色に輝き、クナイに指を滑らせ文字を刻む
「夢霞。たとえ儚き夢であっても集まり霞と成す」
夢幻は己の髪を少し切り、クナイに縛る
「この世界を出るまでは付けて頂けるだろうか。友として願いたい」
俺は笑い受け取る
「生涯いかなる事が有ろうと外すことはしない。それが友の願いと聞き受けた」
互いに背を向け歩む
「また会おう我が友よ。いずれ輪廻の行く据えで会える事を」
「また会える事を願いたい。転生の先に彼方が居ることを」
闇の門は音もなく消えた
いかがでしたでしょうか?楽しんで貰えたら幸いです
今回でRPGは一区切りです。以前感想を書いて下さった方に大変心配して頂き決意しました
それではまた何処かでお会い出来ることを