英雄
<ミーン ミーン ミーン>
気の滅入る暑さとセミの鳴き声
汗を拭いながら神社の裏に在る林を歩く。
子供の時の記憶だと裏の林は本当に小さく、入って直ぐに林の向こうの商店街が見えた筈なのだが。
「商店街に行くならコッチの方が 絶対近いと思ったんだがな~・・・」
少し不安になって独り言を呟いた時、林の切れ目が見えた。
思わず足早になり林の外に私は、駆ける様にして出たのだった。
しかし、林の外に出た私を迎えたのは見知った商店街では無かった。
「なんだココは・・・?」
私は周囲を見渡して呆然としてしまった。何処だココ?再度、周囲を確認して整理してみる。
林を抜けて出た所は大きな道。舗装もされず剥き出しの大地で、それが左右に果てしなく続いている。
果てし無いと言うのは少し言い過ぎかもしれない。右の道はかなり遠くでは在るが壁の様な物にぶつかっている。左の道は遠くの山に続いている。
正面は平野が続き、遠くには山が見える。で、最後に元来た林だけど、後ろを見たら見知らぬ森でした・・・なにコレ?
〈ミーン ミーン ミーン〉
後ろの森からセミの声が聞こえる。
空を見上げると太陽はまだ高く昼の頃合だと時間を知らせる。
〈ぎゅるる~〉
腹が減った・・・ 元々昼飯が食べたくて商店街への道を急いだのだ。
呆然としていても始まらない。まずはココが何処なのか確認しなくては
周囲を再度見渡し誰か人は居ないか?と目を凝らす。すると山に続く道に馬を引いた一人の人影が見えた。
かなりの距離が在るが人影に向かって私は歩いた。人影はこちらに向かっているのだから、待っても良いのだが不安だったのだ。
いくらか距離が詰まり、向こうの人影が少女と荷物を積んだ小さな馬なのだと確認できた時、左側の森から3人の男が飛び出してきた。
「よう 兄ちゃん? 着てる服とポッケの中身を置いてきな 序に命もだ」
「運が無かったな ボウズ 次の嬢ちゃんが待てるからな 手早く済まさせて貰うぜ?」
そう先頭の二人が声を掛け、薄ら笑いを浮かべつつ腰から長い刃物を引き抜いた。
剣?ちょ?嘘だろ? 日本でそんな物を持ち歩けるわけ無い。そう思いつつも鈍い灰色を基調に所々に赤錆を付けた刀身に、私は本能的な恐怖を覚えた。
一人がその鈍い光を放つ剣を振り上げ襲ってくる。私は全力で後方に飛びのく様にその剣を避け・・・ころげ
「ひ・・ヒィィィィィ!? あァ あワぁ? あ ぁ ぁああああ!?」
情け無い声を上げながら四つん這いで、這う様にして男達から距離を取った。
「ちっ 逃げんな糞ガキ! 大人しく死にやがれ!」
「おいおい 熱くなって着てる服を汚すなよ? 上は良いが下は高く売れそうだからな」
「解ってんよ いちぃ<ガシュ!>」
「あ!?」
<ドタ・・・ガシュ!・・・ズサァ>
「なぁ!? テメー! 何しやがる! ぶっ殺すぞ! アマ!」
男達から四つん這いの状態のまま逃げていたら、突然何かが男達に刺さり2人の男が倒れた。
何かが飛んできた方を向くとショートカットの少女が、鋭い笑みを浮かべて男に向かい声を掛けた。
「ヘイヘイヘイ ぶっ殺す? そいつは上等なジョークだよ旦那? てめーらが最近ココらを荒らしてる馬鹿野郎かい?」
「小娘が調子に乗ってんじゃねーぞ? 不意を付いて2人殺ったのはほめてやるがな 正面からこのオレと殺り合って勝てるとでも思ってんのか? アァ!?」
「勿論だよ旦那 それにお前らの首には良い値が付いててね トンだボーナスだよ? 逃す手は無いさ」
そう言って少女は一気に男に向かって飛び掛った!
男は剣を正面に構え、飛び込んでくる少女を向かえる。
飛び掛る少女に合わせる様に男は踏み込み、少女の胸元を一突きに・・・!?
少女は小さなナイフを剣の腹に添わす様に突きの軌道を逸らした、同時に体を捻る様に突きを交わし男の懐に入る。
突かれる刹那、男の懐に潜り込んだ少女は男の首元をナイフで薙ぐと、フワリと男から離れ、そして男は斃れた。
まるで物語に出てくる、民のピンチに駆けつける"英雄"の様な少女に、何か芝居でも見ていた様な現実感の無さに、私は先程まで恐怖で震えて居たのも忘れ歓喜したのだった。