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『夫と侍女に裏切られた私は、二人の娘になって復讐を誓う』  作者:


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19/19

19.追記 もう一つの断罪

感想を頂き、とても秀逸な視点でしたので、一話追加させて頂きました。

ありがとうございます。

ガチャン。


重い鉄扉が閉まった。


マルクス、ルーカス、リゼットは、一緒くたに地下牢へ入れられていた。


薄暗い。

カビ臭い。

湿った石壁から、すえた匂いが漂っている。


「お父様が余計なことするからよ。なんでまた人身売買なんて再開させたのよ」

「うぅ……すまん。金が足りなくなってな」

「私達、どうなるのよ……」

リゼットは顔を覆った。


涙が落ちる。

誰も。

自分達が傷つけた人間の話はしなかった。

最後まで。

心配なのは、自分達のことだけだった。


カツン。

カツン。

カツン。

石床を踏む足音が聞こえた。

三人が顔を上げる。

暗い廊下の向こうから、煌々と灯りが近づいてくる。


その先に現れたのは、アルベルト王弟殿下。

そして。

その隣に、小さな影。

アデルだった。


「アデル!」

ガチャガチャ。

リゼットが鉄柵へ飛びついた。

「アデル。お母様は無実だって、アルベルト王弟殿下に言ってもらえる?」

「自分だけズルいぞ。お父様もだ」

ルーカスまで鉄柵を掴む。

相変わらずのクソぶりである。


アデルは二人を見つめた。

「おい……」

低い声が漏れた。

「お父様を殺そうとして、どの口が言う」

三人の動きが止まった。

いつものアデルらしからぬ口調。


そして――。

お父様。


「お父様?」

ルーカスが戸惑う。

「私は生きているよ?」

アデルはゆっくり首を振った。

「お前じゃない」

一歩、鉄柵へ近づく。

「ウェルツ伯爵だ」

ルーカスの顔から表情が消えた。

「私は――エマの生まれ変わりだ」


沈黙。


「お前の妻だった、エマだよ」

三人の目が見開かれた。


ガシャン。


ルーカスの手が鉄柵から滑り落ちた。


アデルの目から涙が落ちた。

「リゼット……」

小さな頃。

いつも一緒にいた。

笑った。

話した。

友達だと思っていた。

「あんなに仲良くしてたじゃない」

声が震える。

「それが、ずっと憎かったって……」

リゼットの顔が強張った。 


「ルーカス」

今度は、かつて愛した男を見る。

「あんなに愛していたのに」

「エマ……」

「裏切って。私が死んだ後に、二人で笑って」

唇を噛む。

「鼻が曲がるって、なによ……」

ルーカスが俯いた。


「マルクスだって」

アデルは最後の一人を見る。

「お父様が、あんなに良くしていたのに」

「お嬢様……」

マルクスの唇が震えた。


「私は全部見ていた」

三人が顔を上げる。


「霊魂だった時も。アデルとして生まれてからも」

涙を拭わない。

「それでも待ってた」

「あなた達を愛していたから」

「何かの間違いだったって。私の見間違いだったって」

「いつか、そう思わせてくれる姿を見せてくれるって……」

アデルの声が詰まる。

「期待してたのに」


「それなのに――」


アデルはルーカスを睨んだ。


「私が命懸けで産んだセドリックまで殺そうとした」

声が震えた。

「あなたの子でしょう!」

ルーカスの顔が歪んだ。

「酷いわ……」

静かな声だった。

三人は呆然としていた。


やがて。

最初に口を開いたのは、ルーカスだった。

「……ごめん」

掠れた声。

「ごめん……エマ」

アデルの瞳が揺れた。

「そうだよな……」

ルーカスは床へ視線を落とした。

「俺達の大切な子どもだよな……セドリックは」

頭を抱える。

「俺は……なんてことしちまったんだ……」


金に。

権力に。

目が眩んだだけだったのかもしれない。

けれど。

もう遅い。


「いやぁぁぁ!」

突然、リゼットが叫んだ。

「気持ち悪い! 気持ち悪い!」

自分の腹を押さえる。

「嘘よ! 私がエマを産んだなんて!」

鉄柵から後ずさる。

「嫌よ! なんであんたなのよ!」

この世で一番嫌いだった女。

その女を。

自分が腹の中で育て。

産み。

娘として抱いていた。

リゼットには、到底受け止められなかった。


「お嬢様……そんな……まさか……」

マルクスは、理解が追いついていなかった。


三人を見る。

ああ。

私は。

まだ、この人達に何かを期待していたのだ。

愛していたから。

愛されたかったから。

裏切られても。

殺されても。

息子まで奪われそうになっても。

心のどこかで。

変わってほしいと思っていた。

――こんな人達に。


それが。

たまらなく気持ち悪かった。

私の中に流れる血がそうさせるのか。


アデルは涙を拭った。

もう。

何も期待しない。


「さようなら」

冷たい声だった。


アデルは踵を返す。

もう一度振り返ることはなかった。


「エマ!」

背後からルーカスの声が響いた。

足を止めない。

「エマ! 待ってくれ!」


知らない。

もう。

私を呼ぶ声ではない。


アルベルト王弟殿下は三人を一睨みした。

何も言わない。


そして。

小さなアデルの背中を追って、静かに歩き始めた。

カツン。

カツン。

カツン。

二人の足音だけが、地下牢から遠ざかっていった。

感想を頂き、つい数字を追いかけがちですが、その先には読者様がいるのだと、改めて学ばせて頂きました。

読んで頂き、そして感想を書くためにお時間を割いて頂き、本当にありがとうございました。

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