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死体と遺体と痛い〜ホラーショートショート集〜  作者: 御影のたぬき


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1/7

足首

 椅子に足をかけた瞬間、右足首が重くなった。


 筋でもつったのかと思った。けれど違った。重い。誰かがぶら下がっているみたいに、ずしりと下へ引かれる。


 見下ろして、息が止まった。


 女がいた。


 俺の右足首に両腕を回して、ぶら下がっていた。濡れた髪が頬に張りつき、首が横に折れている。口が少し開いていて、そこから細い息みたいな音が漏れていた。


 悲鳴は出なかった。


 喉がひゅっと鳴っただけだった。


「……なんだよ」


 女は答えない。ただ、落ちまいとするみたいに、ぎゅっとしがみついていた。


 足を振る。


 その瞬間、左足にも重みがきた。


 男だった。スーツ姿で、ネクタイが首に食い込んでいる。顔が紫色に膨れて、目だけが妙にぎらついていた。そいつも俺の左足にぶら下がっていた。


「離せ!」


 叫んだとき、ズボンの裾の中に何かが入ってきた。


 指だった。


 冷たい指が、足首から脛へ這い上がってくる。一本じゃない。何本も。細い指、節くれ立った指、小さな指。


 反射で裾を叩いた。


 何もいない。


 なのに、感触だけが増える。


 そのとき、畳の下から声がした。


「いた」


 子どもの声だった。


 椅子の影の下に、顔があった。頬を畳に押しつけたまま、子どもがこっちを見上げていた。片目が潰れているのに、口だけが笑っていた。


「いた」


 畳の縁が、みし、と鳴った。


 隙間から指が出た。


 一本、二本、三本。


 そのあと、いくつも。


 手が出る。腕が出る。顔が出る。みんな首に縄の跡があった。目を剥いているのに、どの顔も妙に安心していた。


 やっと間に合った、みたいな顔だった。


 足がもう上がらない。


 何人もしがみついている。


 見えていない重みまで増えていく。


 その中で、子どもが笑った。


「次」


 女が顔を上げた。


「やっと」


 男が、喉の潰れた声で言った。


「落ちる」


 その意味がわかった瞬間、全員がいっせいに下へ引いた。


 ぐん、と体が持っていかれる。


 椅子が滑る。


 視界が傾く。


 首にロープが食い込んだ。


 息が消える。


 倒れた椅子の向こう、畳の黒ずみが見えた。ただの汚れじゃなかった。何度も同じ場所に椅子が倒れた跡だった。


 何度も。


 何度も。


 苦しさで目がにじむ中、足首に絡みつく手がさらに増えた。


 爪が皮膚に食い込む。


 そのまま耳元で、誰かが囁いた。


「今度は、おまえが掴む番だ」

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