サイドc
俺、怪我人c(仮名)はとある高校の二年生。今日の授業で普通の暮らしをしたと思っている。何もないから当然だ。
そう思っていた矢先のことだ。
ロッカーに向かい靴を取り出そうとすると、何やら一通の手紙があった。嘘だろと思う。平凡な俺が、校舎裏に呼び出されるようなことをしたのかということ(妄想という名の希望)。入れ間違いではないだろうか。内容は思った通り校舎裏に来てほしいとのこと。二択である。ヤンキーに絡まれるか、告白かのどちらかである。望むは後者。さあ来いと覚悟を決め校舎裏に向かった。
「私と、付き合ってください」
告白でした。その場でむせび泣きました。人生でこんなにも幸せを感じる瞬間があるのかと泣き崩れました(回想)。
泣きすぎてその子はドン引きしていたが、今思えば当然だしそもそも僕は平凡なんかではなかったと思う。好きな子に頑張ってアプローチする。こんなこと普通の高校生には難しいものだ。女心なんて五次方程式に解の公式を求めるようなもの(意味不明)だった。よくやっていたと感じる。はっきり言おう。絶対によくやった。
結局その子とデートのように一緒に帰ることになったときだった。
一人の絶望を物語る悲鳴が上がった。そして若い男が僕に、いや彼女を襲うためにナイフを構えた。漢の本能だろうか、突っ込んできた男から彼女を守るために彼女に覆いかぶさった。その直後、背中に冷たい空気が流れるとともに火に炙られるような痛みが全身に走った。
痛い、苦しい、辛い。
それ以外に考える暇もないほどの痛みである。一瞬、異世界転生のような文字が走った瞬間、魂の叫びが僕の生きる力を押し上げた。友だちから恋人になったというのにこんなことで死ねるわけがないだろうが。イチャイチャしてもいないし、恋人に甘やかされてもいない。死ぬんじゃないぞ。
これが走馬灯だと思うと今も恐怖である。
目が覚めた時、病床にいた。随分と厳重な部屋だ。見る限り僕は相当重い怪我を負ったのだろう。看護師と目が合うと看護師が叫びながら医者を呼んでいった……そんなに容体がまずかったのだろうか。
医師の話によれば僕は三日間完全に意識不明の重体だったそうで医者も手を尽くしたものの諦め半分に近いほどの深手を負ったようだ。
「奇跡って本当にあるんだね」
医師は目を輝かせながら言ってきた。その事はまた後でいい。問題は僕の恋人が無事かどうかである。
「君が庇ったおかげで全く怪我をしていないよ」
良かった。本当に良かった。
その後駆け付けた家族に咽び泣かれ(遺伝)父は過呼吸で失神した。流石に恥ずかしかったけど、僕のことをここまで心配してくれている家族で本当に良かったと思う。
彼女も遅れてきた。同じく咽び泣いていた。罪悪感もあるのだろう。自分をかばったせいで僕が深手を負ったことについて。でも、死ぬのは嫌だが彼女を守れるのであれば身を投げ出せる。だから泣かなくてもいいよと声をかけた。悪いのは怪我をさせた若い男の方だからと。そう恋人に語り掛けた。
その後の展開は目まぐるしく変わる。警察の事情聴取で犯人の目的について聞いた。すると帰ってきた答えは意外なものだった。
「犯人の青年aは病気で現実との区別がつかない状況で誰かに襲われていると思っていたようだった。そのせいか記憶がほとんどない。だから犯人はaではない」
唖然とする。襲った犯人は捕まらないのかと、そう聞くと。
「犯人bが病院から彼を誘拐し監禁し、わざと症状を悪化させて街に解き放ったと供述している。だから実際に裁かれるのは犯人bになると思う」
そう聞くと少しだけ青年aが不憫に思えた。彼も普通に暮らしていたのだろうから。
それでも納得がいかないのが大怪我を負ったこの身である。詐病もあるのではないか。よく漫画でもあるが罪を逃れるためにわざと病気になったふりをしたり、犯人と共謀したりしたのではないかと。高校生活を台無しにされたのだからその分の罪は償ってほしかった。全治六か月。高校に行くにも、生活するにも大きな負担がのしかかることであろう。病院でのリハビリで授業についていけなくなる恐れもある。原状復帰が優先の今、授業なんて後回しに決まっていた。
「ここでいうのもあれだけど両者ともに書類送検されていてね、起訴されるかもしれない。詳しくはテレビを見てみてもいいと思う」
僕は被害者になった。考えもしなかった。でも実際になってみて僕はこの世界を生きていることを改めて実感した気がする。事実と真実を知るためにも僕はテレビのリモコンを手に取った。




