7 トランペット
日曜日、昼。
学校にて。
タナコと勉強会をする事になった。
タナコは午後から吹奏楽の練習があるそう。
この教室には、私たち以外いない。
おそらく他の教室にもいないだろう。
ふふふ、二年のこの時期から勉強してるだなんて…偉いぞ、マイカ…!
適当に教室の真ん中の机を動かして、向かい合わせにくっつけた。
タナコは私より勉強ができるやつだ。
こう机を並べると教えやすいだろう。
私の席の右側にあの傘をかけた。
ビニガサは今は無言。
まあ、そうしてくれるとありがたい。
…。
『なあ、マイカ。
妙な気配がするんだ』
「…。」
無言でいてくれるとありがたいと思ったばかりだぞ…
(何、妙な気配?
モンスターが出ても今は行かないからね)
『いや、違う。
お前の目の前の人間の持ち物のことだ』
(持ち物?
タナコの持ち物がどうかしたの…?)
タナコは、机に教科書入りのカバンを立てかける。
その反対側に何やら、小さめのスーツケースのようなものを置いた。
「ねぇ、タナコ。
それって何?」
私は、スーツケースを指差して言った。
「あ、コレ?
コレは、楽器だよ。トランペット。
マイカちゃんにはまだ見せてなかったかな?」
「高そうなカバンに入ってんだね」
「そもそも楽器が高いからね」
タナコはトランペットケースを持ち上げて見せてくれた。
「持ってみる?」
「え、そんなことして大丈夫?」
「大丈夫」
タナコは席を立ち、革製の四角いケースを差し出した。
私は両手で受け取る。
…流石にコレを落とすのは怖い。
タナコが手を離した瞬間、ずっしりと手に圧力がかかる。
「お、重っ!」
「へへ、コレでも金管楽器の中では軽い方なんだよ」
「コレで軽いの…!」
スーツケースは、おそらく赤子より重たいだろう。
赤子を持ち上げたことはないが、おそらくだ。
『コレだ…!』
ビニガサがうるさい。
コレは、ただのトランペットだろう?
『コレ、ただの楽器じゃない!
開けろ!』
(コレ人のものだよ…開けられるわけないじゃん)
『頼めばいいだろ!
楽器くらい』
あー、ウザ。
「タナコ、ごめんだけど…楽器見てみたいな。
もちろん、ダメならいいんだけどさ」
「え、いいよ。
トランペット、カッコいいよ」
タナコはあっさり了承した。
ケースの金具を弾くように開けていく。
ケースを開けると、中から金色のものが輝いた。
わあ、綺麗。
まるで、宝石だ。
いや、とある王族に受け継がれし伝説の武器といったところか…
どっちにしろ、息をのむような輝きだった。
「へへ、私も初めてみた時はそんな目をしていたっけな」
タナコは言った。
「今は、ただの同業者って感じで楽器の美しさなんて気にしなくなった」
…。
なんだか悲しい。
こんなに綺麗なのに。
『やはり、コイツだ!
ただのトランペットじゃない』
(あのね、今はこの金色の光沢にうっとりしたい時なの。
こんな綺麗なものがモンスターな訳ないじゃん)
『モンスターな訳ないじゃんっ』
カン高い声…あれ、ビニガサ?
声変わった?
『誰がビニガサやって???』
(ん?なんの声だ)
『あいつ、トランペットの声』
(え、マジ?)
「マイカちゃん。
どうしたの?
まるでお化けでもみているみたい」
タナコは言った。
私、そんな変な顔してた…?
「そ、そう?」
「トランペットにでも話しかけられたのかな?」
!!!
タナコはニコニコして言った。
(ぐ、偶然だよね。
そんな冗談言うだなんて、なんてタイミングなんだ…)
「そ、そんなわけないじゃん。
トランペットからカン高い声なんて聞こえてないよ〜」
「甲高い…ね、」
「あ。」
『アホか』
ビニガサが会話に食い込む。
(だ、だまれっ)
『どうやら、タナコとかいうやつは…
キミと一緒で俺たちの存在を知っているようだ』
ビニガサは独り言かのように言った。
(本当?…なんでタナコが?)
『知らんわ、でもキミみたいに落ちてるものを拾ったり、出会い頭のモンスターに反撃したりしたんじゃない?』
(んなわけ…)
「マイカちゃん…?」
「…はい」
「聞きたいことがあるんだけど」
「…なんでしょう…?」
私は目線を少しそらした。
ビニガサのことを知られるのはマズイ。
あんなふうにモンスターと戦っているのを知られるのもマズイ。
しかし、タナコの目は好奇心でいっぱいだ。
もう、話す金属についてあれこれと聞かれるに違いない。
「ヘイロ族って…知ってる?」
…?
ヘイロー?




