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目の前の看板は動かない。
(これ、本当にモンスターなの…?
勘違いしてない?)
『失礼だな。
不意打ちしてしまえばわかるはずだ。
コイツ、ぐっすり眠ってしまって俺に気がつかない愚か者だから、スパッとやってしまえ』
愚か者って…
スパッとやるにはどうすればいいんだろうか。
剣の構え方なんて知らない。
とりあえずバットを構えるように傘を持つ。
「やあっ!」
振り下ろす遠心力で折りたたみ傘の布が飛ぶ。
…やったか?
看板は真っ二つだ。
手元には、細い剣が握られている。
ギチッ
ガシャンッ
「あれ…?」
看板はガタガタ動きながらくっついてしまった。
『あれ、起こしちゃった』
看板の形がどんどん崩れていく。
昨日見たモンスターのように黒いモヤモヤに変わってしまった。
ええっ。
なんで。
『板の方を斬ったのがいけなかったんだろうな。
核のあるところは支柱だったか』
(そんなの聞いてないっ!)
そうか、よく考えたらこの看板、板はサビサビなのに対し、支柱は全くサビていなかった。
ビニガサと同じだ。
…仕組みはよくわからんが、コイツの本体のあるところは支柱だったらしい。
『不意打ちできなかったな』
しかし看板のモンスターは完全に黒いモヤモヤになってしまった。
看板の形は、もう面影すらない。
(その、核っていうのはさ…まだ支柱にあるの?
…今のコイツに支柱とかいう概念なさそうなんなんだけど…!)
『ほら、よく見ろ。
核はあるぞ』
(だからどこ…!)
…そう思った瞬間。
モヤモヤになってしまったモンスターのそのモヤの中に、環状のものが見える。
『よく考えてみろ、普通壊されて困るものはどこに置く?
擬態中と同じ場所にあると思うなよ』
(あ、あった。
…核って輪っか?)
『そう。』
(うぅ、まじか。
あの輪っかを狙えと?
めっちゃムズイじゃん…)
引きずっていた剣を持ち上げた。
それから、持ち手を肩に担ぐ。
このまま突っ込んでいけるか…?前みたいに。
その瞬間、黒いモンスターはモヤモヤから腕をはやした。
鞭のような腕がこちらへ飛んでくる。
「わっ、」
カキンッ
…。
剣は折れてしまった。
『何してるんだ。
さっさと壊せ』
三分の一サイズになった剣は軽い。
…なんかこっちの方が扱いやすそう。
再び剣を構える。
モンスターはまた鞭を飛ばす。
「お前、この状態で変形できるか?」
『そりゃ、もちろん』
飛んでくる腕の方向に刃先を向ける。
キンッ
刃先は八つに分かれ、枝それぞれを繋ぐように輪っかが現れる。
蜘蛛の巣にも傘にも見える盾が現れた。
「隙ありっ」
盾は、鞭攻撃を跳ね返すと傘のように畳み、槍になる。
そのまま、モンスターに突き刺した。
ザクッ
核は壊せただろうか…
『お見事。
まだ初心者なのに敵を二度も倒しちゃうだなんてすごいね』
折りたたみ傘が言う。
(あれ、家?)
『君、疲労で倒れたからさ。
俺が家まで送った』
(はぁ?どうやって)
『操り人形的な感じで』
(???)
目の前の折りたたみ傘は、私がもともと持っていたやつの面影がない。
なんせデカくなっている。
しばらく、傘を睨みつけた後持ち上げて見た。
「ギェ、重っ。
何キロあんのこの傘っ」
『そりゃ、モンスター2体分の核を取り込んだからな』
(取り込むなっ!)
『えー』
重いと扱いに困ると、文句を言うと、傘はしょげた。
しょげた傘は、モンスターの核を分離し始めた。
針金で作ったような鉄色の輪っかを二つ床に並べる。
『これで満足?』
「いやまだっ、私の折りたたみ傘返してっ!
どうせ分離できるんでしょ!」
『えー』
朝から疲れた。
モンスターを倒して、傘と喧嘩して。
いつのまにか、寝てしまっていたようで窓の外はオレンジ色をしていた。
もう夕方。
部屋の床には、ビニガサが不自然に立っている。
「やっぱり、ビニガサの方がいいわ。
アイデンティティって感じがする」
『ほう、ビニール傘がアイデンティティね』
勉強机の端には鉄製にしか見えない輪っかが置かれている。
これから、この鉄環を集めないといけない。
「コイツらってさ、生きてんの?」
『うん。
今はちょっと封印っぽいのしてるだけ』
「封印?
じゃあ封印といたらどうなるの?」
『俺みたいになる』




