3 闘い再び
『起きろ』
「え、やだ。
今日土日じゃん…」
『ヤダじゃない。
起きろ』
あまりにしつこい。
しょうがないので布団から出る。
あれ、ビニガサはどこだ…
床には畳まれたビニールが置いてあるだけ。
このビニールって…
『おはよ』
真横から声がした。
「わっ」
…びっくりした。
横にいたのはビニガサではなかった。
黒い光沢のある布が包まれた棒…
これは…私の折りたたみ傘。
まさか。
『ははっ、驚いた?』
なんでビニガサが私の折りたたみ傘になってるんだ。
『実は、美味しそうだから昨日の夜食べちゃったんだ。
ごめんね』
(私の折りたたみ傘…?)
『そう』
(はぁ?)
『まぁ、いいじゃん
これで持ち運びも楽になるだろ?』
(よくない!
なんで、貴様なんぞ運ばなきゃならんのだ)
折りたたみ傘は、床をぴょこぴょこ跳ねる。
動きはまるでビニガサと変わっていない。
『え、俺言ったよね?
君には素質があるって。
普通の人は、モンスター相手に傘で攻撃しようとしないよ』
跳ねながら傘は言う。
(なんの素質…!)
『んー、現代版勇者?…の素質』
呆れた。
私はこんなイワクツキの傘に振り渡されるだなんて御免だ。
私は、また布団にもぐった。
『えー』
傘はまだ床の上を跳ねているらしく、コツンコツンと音が聞こえる。
『アイツはね、俺の友人だった』
傘は独り言かのように言う。
「アイツって、あの空き地のモンスター?」
ついつい布団を払いのけて反応してしまった。
傘は、私のすぐ目の前にいた。
「わっ」
『冗談。
でも俺と似たようなもの。』
「クソっ、騙された…
ビニガサと似てるって、付喪神的な?」
『んー、違う。
道具がお化けになるのが付喪神だろ?
逆だよ逆。
お化けが道具になんの』
「よくわからんわ」
『俺の劣化版って言ったらいいか?
最近趣味悪いやつの間で流行ってんだ』
傘は、少し離れてから言う。
何かを探しているように動く。
「流行ってる?
キミが?」
『昨日見ただろ?
俺が自由自在に変形できるってこと。
だから、裏の世界で捕まえられたり勝手に合金にされたりするんだ』
「捕まえられたり…?
そんな密猟にあってるみたいに…」
『実際。
あってるんだよ。
マイカと言ったか、お前に半死の仲間を助けて欲しいのさ』
そんなことを言われても。
(私、普通の女子高校生ですよ…?)
『だからさ、普通の女子高校生は傘でモンスターに立ち向かうだなんてことしないから』
…。
その通りかもしれない。
「ところでさ?
今日土曜日だよね。
なんで起こしたの?まだ六時なんだけど」
『あー、それなんだが…
ここの近くで昨日くらいの大きさのモンスターの気配がするんでね』
傘は、部屋の引き出しの前で立ち止まる。
ふわりと浮いて、引き出しをこじ開けた。
とってにひっかかって、少し開けてから梃子の原理を使う。
「はえ?
朝からモンスター退治?
…ってか、何してんの」
『準備』
傘は、引き出しの中から適当に服を取り出すとこちらに投げつけてくる。
ポフっ
上着が顔に投げつけられた。
家から少し歩いたところに、小さな山がある。
周囲を住宅地に囲まれて、衛星写真で見ると島みたいだ。
目の前には、森。
遠くから見る分には小さく見えたこの山も、いざ入るとなるとデカい。
この山の森に入ってしまうと、二度と出て来れなくなるような気さえした。
どの木も背が高く、葉を茂らせ、視界を最悪にしている。
七時前の空は明るいとはいえ、太陽が登っていない。
おまけに木が作る陰が山の中を夜にしているかのようだ。
「本当に、ここ?」
『そう』
モンスターがいる気配だなんて、私にはさっぱりだ。
あたりは静かで、時々車やバイクが通る音が聞こえるだけ。
傘は、肩かけカバンに入っている。
ビニガサの姿ではできなかった芸当だ。
「お前、なんか重くなってない…?
昨日のビニガサはこんなじゃなかったはず…」
『んー、なんせ昨日はあのモンスターと君の折りたたみ傘を食べちゃったからな。
その分重くなってるんだろう』
「え、モンスターも食べたの」
『そう。まあ、一時的にだけど』
そんな会話をしながら、山へと入っていった。
『ストップ。
ここだ。目の前にいる。』
足を止める。
木の隙間から、それらしきものを探したが見つからない。
(どこ…?)
『いるだろう?目の前だ』
目の前?
目の前にあるものって、木と草と変な看板しかない。
(ん?何この看板…)
『触るな。起きるだろ』
え、まさかこれ。
自動車のフロントガラスサイズのこの看板が?
『モンスターは俺と似たようなもんだって言っただろ?
アイツらもこんな感じで擬態する』
私は、看板から少し距離をとって、傘を構えた。
昨日みたいに。




