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間に合った…!
はぁ、家を飛び出してから時計も見ずに走り続けていた。
なんだ、いつも着く時間とそんな変わんないじゃん。
…急いで損したかも。
『間に合ったんだから、よかったじゃん?』
「!?」
この傘、教室に…!
いつの間に…玄関で置いてきたはずなのに。
『玄関寒い。嫌。』
(シーッ…!傘のくせに喋るんじゃない!
ここどこだと思ってるんだ!
変なもの持ってきたって思われるじゃんか!)
『他の人には聞こえてないから、安心しな。
テレパシーってやつだ』
(…ならいいか。
…いや、よくない。お前何者だ…!)
昨日見た骨の折れまくったビニガサとはまるで別物なんだが…。
見るからに朽ちたビニールも、今は新品同様だし。
骨の金属部分も、昨日より光沢があるような気がする。
『そんなジロジロ見るな。
そんなただのビニール傘を見つめてるお前こそ、変なやつだぞ?』
…。
キーンコーンカーンコーンッ
7時間目は化学。
これで今日の授業も終わり…あぁ疲れた。
(…化学式ばっか見てると、Cが顔に見えてくるんだよな。
端に小さく描いとくか。
へのへのもへじみたいに…)
『やあ、見事に集中が切れているようだね』
「!?」
なんだ、ビニガサがいたんだった。
(授業中に話しかけるなと、一時間目の初めに言ったはずだが…?)
『いいじゃないか、どうせ集中してないんだから。
俺にも暇つぶしさせろ』
(はいはい)
なんだか生意気なビニガサだ。
『そうだ、この時間が終わったらまたあの空き地に行ってみるといい』
(空き地って、昨日モンスターがいたとこ?
えぇ、怖すぎ。やだよ。)
『まあ、嫌と言ったところで、いつも通る道なんだから寄らないわけにはいかないだろうけどね』
(うざっ…)
『いい事教えてやるからさ』
帰り道。
やはり、あの空き地の前を通るしかないか…
他の道は、山が近すぎたり、逆に車が多すぎて危なかったりだ。
(はぁ…教えたいことって何?)
『もう少ししたらわかる』
…なんだよ、それ。
あの空き地まですぐそこというところまで来た。
相変わらず、ここの道は汚い。
ドンッ
ガサッ
?!
あれ、この音。
モンスターだよね?
『着いたな。
そう言えば、お前ってなんて名前なんだ?』
(テ、鉄野舞花だけど。
…今聞くことなの!?)
ドンッ
『じゃあ、マイカ。
あのモンスターに近づいて俺を構えろ』
(は?構える?)
『そう、分かったらGO!』
(えぇ、待って)
構えろと言いながら、ビニガサは私の手を引くように空き地に向かっていく。
コイツ…すごい力だ。
建物の陰から、少しずつモンスターの姿が現れた。
(ちょっと、止まって!)
ビニガサは言うことを聞かない。
ほぼ引きずられるようにして空き地の前に出た。
ザンッ
ギギッ
黒いモンスターはゆっくりとこちらを見る…ような動作をした。
大きさは、自転車くらい。
こうやって改めて見ると、意外と薄っぺらい。
黒いモヤモヤにかこまれて、どんな形をしているのか詳しくはわからい。
「ふぅ…」
深呼吸して、傘を構えた。
…特に何も起きない。
黒いモンスターはゆっくりと近づいてくる。
「…?」
本当に何も起きないじゃない…!
これ、やばいよね。
ビニガサは無言のまま。
この詐欺師っ!
モンスターはあと1メートルというところまで来た。
後ずさろうにも、後ろには違法駐輪された自転車が…
私は自棄になった。
傘を槍かのように構え直した。
そしてそのまま、黒いモンスターに突っ込んだ。
その瞬間、目を閉じていたので何が起こったのかわからない。
ただ目を開けてみると、自分の手には傘ではなく、カッコいい槍が握られていた。
その先には、ボロボロと崩れ落ちるあのモンスターが刺さっている。
『おつかれ』
槍が言う。
(何、あれ…)
『何って、お前が倒したんだろ?
おめでと』
槍は手からピョンと離れる。
自ら近くに落ちていたビニールの上に刺さりに行った。
槍の先端から八つに枝分かれしてビニール傘の姿に戻る。
(ちょっと、何したの?
理解できないんだけど…!)
『ん?
ちょっと試してみただけ。
君にモンスター退治の素質があるかどうか…ね?』
(…。)
傘は、ひとりでに開いたり閉じたりしてビニールの砂を落とした。
それからまた私の手に飛びついてくる。
『マイカよ、おめでと。
君はこれからあいつらを救えるんだ』
…。
私は、ふらついた足で家へと帰った。
あぁ、疲れた。




