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現代勇者とビニール傘  作者: グルタミンさん


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1/5

1 変な傘



 ニュースでは相変わらず〈モンスター〉への注意喚起がされていた。

 はじめて、その謎生物が現れてから一年。

 社会のシステムはそこまで変わらなかった。


 学校も今までどうりだし、道路には通勤する人、遊びに行く人達の車が通っている。

 これまでと違うところは、皆〈モンスター〉に出会わぬよう祈るようになったことだけだ。


 私は、相変わらず徒歩で通学していた。

 学校までそこまで距離がないし、なんせ出会わないかもしれない〈モンスター〉のために、バスやタクシーを使うだなんてバカバカしいからだ。


 …。

 しかし、その時は突然来た。






 下校中。

 いつものように、歩く。

 マナーの悪い奴らが、自転車を停めまくったせいで歩道は狭い。

 おまけにコンビニのゴミやビニガサなんかが不法投棄されている。

 嫌なところだ。


ガサッ


 物音がしたので足をとめた。

 比較的高い建物に囲まれたところに空き地がある。


 …。

 モンスターだ。


 (逃げなきゃ…)

 

 黒く禍々しいそのモンスターは、こちらを振り返るように動いた。


 顔はない。

 ただ、生き物にも煙の塊にも見える曖昧な何かは、ゆっくりこちらへ向かってくる。


 私は逃げた。

 しかし、恐怖で足元がふらつく。


ガチャンッ


 「痛っ!」


 私は地面に打ち付けられた。

 自転車にスカートが引っかかってしまったようだ。

 周囲の自転車も一斉に崩れる。


チャリンッ


ガラララッ


 自転車をこれほど恨んだことはない。

 倒れた自転車のせいで、道を塞がれてしまったのだ。

 乗り越えようにも足が痛むせいで、どうしようもできない。


 膝を見ると、なるほど、擦りむいたようだ。


(あれ、これで終わり…?)


 私はその時、恐怖から解放された。

 何もかもがどうでも良くなったのだ。


 どうにでもなれと。


 しかし、手の届くところにビニール傘が落ちていることに気がついた。

 誰かが捨てたやつだろう。

 私は無意識のうちにそれを掴み、目の前の黒いモンスターに突き刺した。


ギギギギギギギギギッッ


 黒いモンスターは、もがくように空き地を走り回った。

 それから、後ろに倒れ、なんとか自力で傘を引き抜く。

 モンスターは傘を投げ捨て、どこかへ逃げて行った。


ギーッ


 …助かった。


 空き地には、ボロい傘がひとつ。

 骨があり得ない方向に曲がっているが、意外と錆びていない。


 「ありがとうございます…」

 

 ため息のように声が出る。

 私は傘を置いて行こうとした。


 いや、ここで傘を置いていくのは気分が良くなかった。

 (一度掴んだものだし、家で捨ててやるか…)


 違うのは分かっているが、ここで傘を置いていくのは、不法投棄と同じことをしている気がした。















 …。

 で、傘ってどう捨てるんだ?


 冷蔵庫に貼ってあるゴミ回収日の紙を見た。


 え、傘って粗大ゴミなん?

 しばらく捨てられないじゃんか!


 仕方ないので、自分の部屋に置くことにした。

 もちろん、ナイロン袋に何重にも包んでだ。

 だって汚いじゃん…。


 命の恩人とはいえ、なんの菌がついてるかわからないものを土足で部屋に入れるわけにはいけない。


 ナイロンに包まれた傘をベッドから一番遠い部屋の角に置くと、私は布団に飛び込んだ。


 こうやってベッドで転がると疲労感からじわじわ解放されていく気がする。

 今日は疲れた、早く寝よう。







 翌朝。

 ああ、眠い。


 『起きたか?今日は雨だから傘を用意しておいたぞ』


 「そりゃどうも…って、ん?」


 ここから反対側の部屋の角を見る。

 ビリビリのビニール袋。


 あれ?

 傘は?


 『あれ、息苦しいから。

 後で捨てておいてよ』


 声のする方を見ると…あの傘。

 なんか昨日より子綺麗になっている…気がする。


 目を擦って、部屋の床をぴょこぴょこ跳ねる傘を見た。


 夢か。

 寝よ。


 『おい、朝飯は?

 今日は出かけないのか?』


 んん?

 眠いながら、時計を見る。

 あ。


 「や、やばっ!!!」


 もうこんな時間!

 今すぐに支度をしないと間に合わない!


 『ふん。

 せっかく起こしたのに、起こす時間を間違えたようだ。』


 傘は、床の上で立ったまま言う。


 「てか、あんた何!」


 『見てわかんないかな。

 傘だよ』


 「知っとるわ!」


 私は、空き巣かのように引き出しを漁り、一週間ぶりの食事かのように朝食のパンを胃に詰め込むと、ドアを蹴飛ばして学校へ向かった。


 『あー、おいていくな』


 ビニガサはふわっと飛んでくると私のカバンに引っかかった。










 この日から、私のモンスター退治生活が始まったのである。

 

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