Ⅳ.階段
【4】
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「なんかニコニコしてる凪沙サン気持ち悪いね」
そう爽やかに笑いながら
話してくる顔を見ていると
若干悪意を感じる
「やだなー悪意なんてないよぉ」
「心読まないでくれる?」
今日は土曜日
再来週にある実力テストのために勉強がしたいと
和波くんから電話があったのは今朝のことだ
まだ寝ていたかった私は、勿論断ろうとしたが
『凪沙サンたすけてー』
『悪いんだけど…』
『もう凪沙サン家の前にいるからねー?』
『…は?』
と言う風に
なんで私の携帯番号知ってるんだとか
私の家知ってるんだとか
疑問はあったけれど
仕方なく着替えて
玄関をでて今に至る訳だ
「だってさー、ニコニコしてるじゃん」
「してない」
「ていうかニヤニヤしてるよねー」
「和波くん、もう帰っていいのかな?」
「えぇ!?ごめんなさい!!」
さっきまで隣でニヤニヤしながら歩いていた、
そんな和波くんは
私の前に回り込んで
両手を合わせて謝ってきた
「…もういいから」
「やたっ!」
土曜日の校舎にはどこかの運動部の掛け声と
吹奏楽部の演奏が聞こえる
図書室につくと
妙な静けさに違和感を覚えた。まるで違う世界だ
「時に凪沙サン、俺なにを勉強すればいいのかな?」
「は?…えーと…ちなみに和波くんは何が分からないのよ、数学なら…」
「全部!!」
「……………」
頭が痛くなってきた
========
「…だから、ここにこれをあてはめて…」
さっきから何度同じことを繰り返しているのだろう
取り敢えず得意な数学から始めが
どれだけ細かく教えても
『わかんないよ』
と、ペンを投げ出す
今も必死で教えている
のに、隣を見ると絶望する
気持ちよさそうに寝ている
「………………」
まあ、一時間頑張ってたし
少しだけならいっか
休憩がてら図書室を出た
休みの日の教室は静かだ
いつもは足早に歩く廊下をゆっくりと歩く
――カツンカツン
自分の足音とどこからか聞こえるトランペットの音色をBGMにして歩く
階段から吹く風が
あまり短くないスカートを揺らしている
――ザァ…
一際強い風が吹けば
無意識にスカートを髪をおさえる
「あ……凪…?」
見上げればそこには背の高い男の子が一人
階段に座って
本を読んでいた
「あ、…部活?」
「ううん、俺は帰宅部だから。駿をまってるんだ」
「…そっか」
会話が続かなくて
なんとなく笑った
そしたら彼はクスリと笑う
「ここ、風が凄く気持ちいいんだ」
自分の隣を本をもっている手とは逆の手で叩いている
「え?」
「きなよ」
「あ、うん」
焦ってそこに座れば
穏やかな風が髪を浮かせる
「あ、のさ秋羅、くん」
「秋羅でいいよ、なに?」
「秋羅は本、好きなの?」
ん?とした顔をした
そして本をもった手を見て、ああと納得したように
「これは、前から好きなんだ。これだけな」
「へぇ…」
「凪は変わんないよな」
「…そう?」
秋羅はゆっくりと私の顔を見た。そして少し笑って
「うん。…凪だ」
「……ッ」
たったその一言で
よくわからない
今まで感じたことのない
胸の締め付けられる
感情
キュッて音がなった
「…凪?」
「え、あ?え?」
「どした?」
感情に追い付かない思考がグルグル旋回する
どうすればいいのか分からないまま固まっていた
「大丈夫か?」
秋羅の手が私の方に伸びた
その手は私に触れる前に、
止まった
「……?」
秋羅の手を掴んでいたのは
「…ハァ…ハァ」
息を切らした
和波君だった
「和波…くん?」
【next】