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待合室へ二人が姿を現すと、奥さんは立ち上がり不安気な表情で駆け寄ってきた。必死に堪えているのかただ二人のどちらかからの言葉を待つだけ。
「ご安心下さい。無事成功しました」
その言葉に不安や緊張は一気に解け今にもその場へ倒れてしまいそうな奥さん。
「あとは目覚めたのち最終検査をし、完治を確認でき次第退院という流れになります」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
涙ぐみながらお礼と共に頭を下げた奥さんは梓と燈莉の手を順に力強く握り締めた。
「それでは旦那様を病室へと移動させてもらいますので少々お待ち下さい」
「はい。本当にありがとうございました」
そう言って奥さんは最後に深々と頭を下げた。
「ではもう暫くお待ちください」
それから他の看護師と共に羽崎は病室へと移され、澤田へと再度引き継がれた。数日後には検査も終わり無事完治した彼は病気が嘘のように健康となった体で退院した。
「あれ? 今日って新しい患者さんのミーティングあるんじゃなかったっけ?」
待合室でそれぞれが各々の時間を過ごす中、暇そうに分解したモデルガンを弄っていた陽哉は思い出したように声を上げた。
「無くなった」
それに対しゲームをする空鏡の隣で机に足を乗せ、椅子から伸びたアームで自撮りのようにしたタブレットを見つめる燈莉が答えた。
「えぇー。じゃあもう帰っちゃおうかなぁ。そんなんじゃはるさんは帰っちゃう、帰っちゃうぞー。っと」
小躍りする口調と共に流れる手捌きで銃を組み立てていく陽哉。
「あっ! そーだ! 何か甘いもん食べに行く人ー?」
すると陽哉は名案だと付け足したそうな調子で手を上げ参加者を募った。悠と葉
、空鏡から燈莉へ視線でみなを撫でていく。そして少し遅れて一度目を見合わせた悠と葉が同時に手を上げた。
「はい! 二名様ご案内しちゃいまーす! 空鏡ちゃんは? 燈莉ちゃんは?」
「いや、いい」
「じゃああたしもー」
だが陽哉は何も言わず二人の背後に回ると、燈莉の見ていたタブレットをスリープにした。
「はい! 更に二名様ご案内しちゃいまーす! いらっしゃいませどうぞー」
そして燈莉の腕を掴み立ち上がらせる。そんな陽哉に対し、不機嫌そうな表情を浮かべるも溜息一つで素直に立ち上がった。
「空鏡ちゃんもいくいく行くぞー」
燈莉が行くと決まるが否や空鏡も早急にゲームを置き立ち上がる。
「よーし! みんなこの僕についてこーい! カモンガールズ」
そう言って出入口へと向かおうとする陽哉だったが、歩き出す前に燈莉の拳が二の腕へと一発。
「イッテ! もうちょっと手加減してくれてもいいんじゃない? もしかしていいとこだった? でもドラマはいつでも観れるけど、こうやって仲間とご飯食べるっていうのは掛け替えのない、もしかしたら今日で最後かもしれないからね」
一人頷く陽哉。それを無視する燈莉。欠伸で大きな口を開ける空鏡。何が食べたいが互いに言い合う悠と葉。
五人は待合室を出るとそのまま病院の外へ。近くのスイーツが有名なカフェに向かった。