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だがそんな空鏡の両腕と顔との間を通過する一発の弾丸。直線を描きながらそれは、彼女を狙うコリオクラスの額を的確に貫いた。額に穴を開けたコリオクラスは溢れ出す靄と共に後ろへ倒れ、最後は全身が黒靄となり消失。
その弾道上にいたのは、タック五を構えた陽哉。
「もっと針の穴ぐらいじゃないと気合入らないなね」
愚痴りながらもどこか自慢気な口調の陽哉は、息をするようにリロードし薬莢を吐き出させた。そしてリロード中に確認した他のコリオクラスへオートエイムのような吸い付きで照準を合わせ引き金を引いた。直後、銃声へ押し出されるように飛び出した弾丸はコリオクラスの右肩にある腫瘍を貫いた。
すると大きな腫瘍は一気に爆発。周囲へ黒靄を撒き散らし、コリオクラスの体は砂と化すように瞬間的に消えていった。
「あんま変わらないけど、あの腫瘍狙った方が早いかもね」
それから更に一発二発と空薬莢を宙へ舞わせる陽哉はその全てを正確に腫瘍へと当てていった。
「動きも遅いし、これじゃ目瞑ってても当たるね」
引き金を引きながらどこか退屈そうに呟く。
すると、陽哉は引きかけた指を突然止めるとタック五を上空へ投げ手放した。そして右側を向き地を蹴り退きながら両手をコートの内側へ。そんな陽哉の視線先には忍び寄ったのかいつの間にかコリオクラスの姿が三つ。腰辺りから取り出したそれを陽哉は真っすぐ突き付けた。両手で握った二丁の拳銃――レベッカ九X《ナックス》(通称、レベックス)の銃口は睨み付けるように前方のコリオクラスを捉えている。
そして順に引き金を引くと、スナイパー同様に的確な射撃で二体の腫瘍を撃ち抜いた。弾丸を呑み込んだ途端に腫瘍から爆発し、たちまち黒が周囲を包み込む。その中から残ったもう一体がゆっくりと姿を現したが、透かさず二丁の銃口は連続して声を上げた。脇腹で膨らんだ腫瘍目掛け三発が連続で発射。大きな風船であるかのようにその体は爆発し一瞬にして黒靄と化した。
すると、そんな陽哉の背後に現れた更なる一体のコリオクラス。彼を挟み向こうで仲間が消えゆく最中には既に構えていた手で背後から襲い掛かる。
しかし横目で背後を一瞥した陽哉は少し上半身を傾けつつ首を傾げる事でその手を躱した。顔横を通過するコリオクラスの手。
それに対し陽哉はいつの間にかレベックスを消した両手を伸ばし腕を掴むとそのまま一本背負いの要領でコリオクラスを投げた。すんなりと浮き上がった体は綺麗な曲線を描きながら地へと叩き付けられる。そして起き上がれないよう胸を足で踏み付けた陽哉は、右手に出したレベックスを向けた。
「意外といけるもんだね。それにむっちゃ軽い。もっと食べないと駄目だよ……って君は成長しちゃいけないか」
そんな独言の後、腫瘍ではなく頭へ向け何度か銃声を響かせた。
そしてレベックスをその場で手放し、丁度落下してきたタック五をキャッチ。レベックスが空中で消える中、タック五を構えると流れのまま迷いなく引き金を引いた。その弾はもう一体の手を受け止める燈莉と逆手持ちの鞘との間を抜け、距離を空け彼女を狙うコリオクラスの胸にある腫瘍へと吸い込まれていった。
燈莉、空鏡、陽哉の三人はそれからも倒しては湧くコリオクラスと時折カバーし合いながらも戦い続けた。
「全っ然減らないじゃん」
見た目は最初と変わらないコリオクラス軍団を前に空鏡は溜息交じり。
「あれを叩くしかないか」
その隣で燈莉はカリオクラスを見上げた。そんな彼女の隙を突いたのか正面からコリオクラスが襲い掛かる。だが蚊を払うが如くあっさりと斬り捨てられた。
「なら僕にお任せあれ」
陽哉はそう言いながら両手のレベックスで二体を処理した直後、動きの流れを乱さず回し蹴りで一体を飛ばした。
「十秒ちょっとくれれば、この重病を治療してあげよう」
「これぐらいなら何時間でもやるって」
「上からの茶々がないのが楽でいいですよね」
ドヤ顔を浮かべる陽哉だったが、彼の前へ盾となるように立つ二人は全くの無反応。
「全く酷いねぇ」
軽く首を振りながらも満更でもない様子で陽哉はタック五を出した。
その目の前では既に押し寄せるコリオクラスの大波を燈莉と空鏡が二人だけで堰き止めていた。最短で倒しつつ、互いに助け合う事で一体たりとも彼女らという境界線を跨ぐことは許されなかった。
「さてさて。あの図体なら貫通力は必要か」
そんな二人の後ろで陽哉は悠々と呟き、タック五の頬を人差しと中指で撫でた。そしてアイアン越しの眼光は真っすぐ真ん中のカリオクラスを見上げる。
「デカすぎる的ってどうやって外すんだろうね」
言葉の後、人差し指へ力を入れると弾丸は視線をなぞるようにカリオクラスの元へ。だがその巨体さからは予測し難い速度で触手腫瘍が二本、自身の前へ割り込んできた。当然ながら弾丸に迂回機能はなくそこへ一直線に突っ込んでいく。
しかし陽哉の表情に変化はない。そこには相変わらず余裕の笑みが浮かんでいた。
「はい。ざんねーん。それも予測済みなんだよね」
弾丸は二つの腫瘍を無視するように貫通するとその奥で待ち構えるカリオクラスの顔へと進む。
そして銃弾はそのままカリオクラスの眉間を貫いた。前後から血のように吹き出す黒靄。悲鳴のような声を上げるとカリオクラスは力なく後方へ倒れていった。
「ばーん」
得意気な表情と弾んだ声。陽哉は銃口をもう一体へとスライドさせた。




