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「でも診断書には転移がみられるって書いてあったけど……」


 すると陽哉に対し返事をするかのように地揺れと轟音が響くと、更に二体同じ化物が姿を現した。


「あの三体って訳か。外見の差異はあれど、カリオクラスってとこかな。場所も狭くて複雑さもないし、単純な力比べって感じだね。いやぁー、腕相撲なら内科医の篠原先生に頼んだら一発なのに。あの先生ってゴリゴリじゃないのに腕相撲は異様に強いんだよね。あっ、そーいえば――」

「いつまでもくっちゃべってて良いけど、」


 三体のカリオクラスが背中から生えた触手に頭を垂れさせると、先端の腫瘍からは羽化するように何かがボトリ地面へと落ちていった。粘液を纏いながら立ち上がったそれは、カリオクラスと同じ人型で絡まる神経で形成され頭部が腫瘍で腫れ上がっていた。次から次へと生み出されていくそれは形状こそ同じだったものの腫瘍はバラバラ。体のどこか一部が今にも爆発しそうだった。

 そんな小さなカリオクラスの大群を目の前に、燈莉は右手を前へ。

 すると開いた手の中に次の瞬間――刀が現れた。黒と赤で装飾された鞘に納まった刀――夜凪よなぎ。燈莉はその刀を掴むとそのまま左手で黒い柄を握り――漆のように黒い刀身を一気に抜き切った。


「外すなよ」


 眼前を覆う程の敵を他所に言葉を続けた燈莉の背後で両手を構える陽哉。その手元には黒い装飾のボルトアクション式スナイパーライフル、タックファイブが現れた。スコープは無くアイアンサイト。


「この程度の距離なら歌いながらだって百発百中だよ」


 そして燈莉の隣で空鏡も戦闘態勢に入る。片手に出した鎌のようなカランビットナイフ――ルナークともう片方に出した九雷クロイ(少し細身で長い苦無)をクルンりと回し構えた。


「あれってカリオクラスから生まれたからコリオクラスって事だよね?」

「呼び方なんて何でもいいっしょ。取り敢えず目の前全部を片付ければいいだけ」


 燈莉はそう言って駆け出すと一歩遅れて空鏡もその後を追う。一方でコリオクラスの軍団もまた迎え撃つように走り出した。

 そして数に物を言わせるコリオクラスに対して先陣を切る燈莉。夜凪を構え、地を蹴り飛ばし、一瞬にして間合いを詰めた彼女は風のように先頭のコリオクラスを斬り捨てた。傷口から黒い靄を吐き出しながらその場で倒れる首の無いコリオクラス。その体は、蒸発するように黒靄となり消えていった。

 だが一方で単身で飛び込んだ所為で敵軍の波に呑み込まれてしまった燈莉。そんな彼女を取り囲んだコリオクラスは、尖鋭な指を揃えた手を振り上げ襲い掛かり始める。

 正面のコリオクラスの一撃を夜凪で受け止める燈莉。しかし、ほぼ同時に背後からもう一体のコリオクラスから挟撃の一撃が――。


「チッ……」


 だがその時。背後にいたコリオクラスの傍を影が風のように通り過ぎて行った。直後、中途半端に動きを止めたコリオクラスの首が忘れていたというように落ちていく。


「あか姉はあたしが守る!」


 冗談めいた口調と共にルナークと九雷を華麗に回し、最後はポーズをキメる空鏡。そんな彼女を二体のコリオクラスが左右から挟撃。抱き付くように両手を広げた二体は鏡写しになりながら同時に襲い掛かった。

 それをその場で跳躍し完璧な宙返りで躱した空鏡は、着地と共に地を蹴るとすぐさま二体の元へ。まず片方のコリオクラスの顔を足場代わりに踏みつけると、体を捻り回転させその勢いのままもう一体の顔面を蹴り飛ばした。地面へ叩きつけられるのと同時にその体は消えたが、顔を踏みつけた方はフラついただけで着地した空鏡を狙う。

 槍の如く真っすぐ伸びる手。空鏡は悠々と振り返ると眼前へと迫った手と目を合わせ、次の瞬間――空鏡の姿は消えた。そして目の前で彼女を見失った手はそのまま空を突く。

 一方、空鏡はその手を躱しながら腕へと潜り込んでいた。躱わすのと同時に踏み出した彼女はすれ違い様に九雷で腹を裂き、片足で地を蹴り跳躍。体を捻り振り返ると、ルナークを半周回した。そしてそのまま裸絞めするように腕を回し、流れる動きで刃先を刺し込み喉元を掻っ切った。

 腹部と喉元。コリオクラスは大きく口を開いた二箇所から黒靄を吐き出しながら膝から崩れ倒れていった。


「楽っ勝!」


 両手の武器を軽やかに手元で回しながら言葉通り余裕の表情。

 だが全身が黒靄となり消えていくコリオクラスを突き抜け一直線、空鏡を襲う。勝利の舞を中断した空鏡は、九雷を逆手持ち、ルナークは親指側に伸ばした状態で腕を交差させ咄嗟にそれを受け止めた。

 空鏡が防いだそれは向こうからずっと伸びてきたコリオクラスの手。


「うわぁー。伸びるってマジ?」


 不意を突かれはしたが、彼女の反射神経はその一撃の前に立ち塞がった。

 しかしそんな空鏡を更に別方向――真横にいたもう一体のコリオクラスが狙う。既に手は振り下ろされ始めており、彼女が手と鍔迫り合い状態まま顔を向ける頃には眼前へと迫っていた。そして状況を理解した時は躱すにも防ぐにも時間は足りず、その手は目と鼻の先。

 空鏡の脳裏には諦めの文字が過っていた。


「あっ……」

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