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翌日。外科特殊術式ピート第三者チーム部屋、通称ピート三待合室に羽崎の姿はあった。隣には同年代の妻の姿も。
そして二人が不安気に並び座っているとドアが開き、梓が姿を現した。
「お待たせしました」
にこやかにそう言うとデスク越しに立ち、何度か操作をしたタブレットを羽崎の前へ差し出した。
「最終確認としてこちらの誓約書をご記入お願い致します。先日ご説明させて頂きました通りこれから行うピートという術式は試験的に導入されている段階ですので、それをご理解頂いた上での承諾というものです。夢のような効果とそのリスクを十分に考慮した上で、最終的にご判断下さい」
その説明に目を合わせる二人。そしてデスクの下で互いの手を握り合うと、羽崎はペンを手に取りサインをした。
梓はタブレットを手に取ると確認をし一度頷く。
「ありがとうございます。では、そろそろ専門医が来ますので――」
するとその言葉を遮る様にドアが開いた。
「だから絶対梅なんだって!」
「いやいや。鮭だって。そこにアボカドがあれば直義! 燈莉ちゃんは?」
「旨ければなんでも」
雑談をしながら三人の医師らしき人物が部屋の中へ。それぞれが白衣とは違う白色のお洒落なロングコートを羽織った三人は、そのまま梓の隣へと並んだ。
「ではご紹介させていただきます。こちらが今回のピートを担当いたします第三チームの方々です。彼らの他に私とあと二名が第三チームとしてピートにあたらせていただきます。まず、この方が普通の手術で言う所の執刀医を務めます、猩々《しょうじょう》燈莉です」
梓が丁寧に指したのは隣に立つ女性。無造作な白髪ウルフカットの黒髪、三人の中で一番背が高く、コートの中には黒いハイネックのクロップドタンクトップと脚のラインを強調する黒いスキニーパンツ、足元にはブーツを履いている。更に両耳には幾つものピアスが光り、括れと共に鍛えられた腹筋にはタトゥーが刻まれていた。
「どうも」
少し鋭くもイケメンと称される整った顔は表情を変えぬまま、気だるそうに軽く手を上げ一言聞こえる程度の声を口にした。
「そしてその隣の方が第一助手を務めます浅葱空鏡です」
梓の手はそのまま燈莉を越え凹凸を描くように背の低い隣の女性へ。グラデーションの綺麗な編み込み交じりのショートには無数のヘアアクセで彩られ、背負うように着たコートから顔を覗かせる両肩。肩出しの長袖シャツはベルトで装飾され、その下ではスカートが腿の半分程で愛らしく手を振っていた。そして足元のヒールブーツにもベルトの装飾が施され、両耳だけでなく両手にもアクセサリーを身に着けていた。
「よろしくぅー!」
活発そうな顔立ちと人懐っこい表情でピースを作った右手を手の甲を見せながら左頬の横へ持っていき、これまた陽気な声を出す空鏡。
「最後に第二助手を務めます不言陽哉です」
最後に梓の手は燈莉より少し背の低い男性へと向かった。ベストと共にネクタイを結んだスーツを着こなしジャケットの代わりにコート。装飾の類は一切なく、この中では一番医者らしい恰好をしている。
「安心して僕らにお任せて下さい」
聡明な顔立ちの陽哉は自信に満ちた表情を浮かべた。
だが医者と名乗るには余りにもカジュアルな装いの燈莉と空鏡に羽崎夫婦はただじっと三人を見つめていた。
「彼らは普通の医師と立場が少しばかり違いますのでこのような格好をしていますが、ご安心ください。ピートに関してはどの外科医よりも優秀ですので」
何かを言われたわけではなかったが、その様子を察してか当たり前の反応だからなのか梓は補足するように言い切った。それに加え二人を見つめる眼差しは噓偽りないと断言するように真っすぐとしていた。
「それにおめでとうございます。中でも僕ら第三チームは一番の優秀さを誇りますので」
依然として自信たっぷりな様子の陽哉は一歩前へ出ると演劇のように胸に片手を当てアピールして見せる。そして更にデスクへ片手を着け身を乗り出した。
「大丈夫ですからね。それとちなみにおにぎりの具は何がすきですか? やっぱり鮭ですよね?」
するとその様子を見ていた空鏡が隣へと滑り込んできた。
「ぜぇーったい梅が一番だよね? 酸っぱいのも甘めのもどっちもアツアツのご飯にピッタリだし! 日本人ならご飯のお供は梅だって」
最後は陽哉の方を向いた空鏡を彼は遅れて見返した。
だがその前方では訳の分からない状況に揃ってポカンと固まってしまっていた羽崎夫婦の姿が……。
「燈莉~」
そんな二人の背後で梓は隣に聞こえるぐらいの声で燈莉を呼んだ。
「ったく」
そして面倒臭そうに燈莉は陽哉と空鏡の襟を掴み夫婦から引き剥がす。
「すみません。――では、改めて準備が宜しければ早速取り掛からせて頂きますが」
「――あっ。は、はい」
半ば不意打ちのようになってしまったが、羽崎は頷きながら返事を返した。でも遅れて隣を向くと確認する視線を奥さんへと向けた。
「一緒に帰ろうね」
「あぁ」
ほんの数秒だけだったがそこでは二人だけの時間が流れていた。
その様子を眺めながら陽哉は小さく口笛を吹いた。
「やる気出るねぇ。あぁゆうの見ちゃうと」
そして立ち上がった羽崎は四人の方を向くと――。
「よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。遅れて隣でも立ち上がり夫婦揃って頭を下げる。
「最善は尽くさせて頂きますので」
「あたし達に任せていーよ!」
「超が付く程に優秀なこの第三チームにね」
「――それでは行きましょうか」
最後に手を握り合い、羽崎は部屋の奥にある出入口とは別のドアへ向かう四人に続いた。