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 それから五分も立たぬうちに再びドアが開くと看護師の女性が一人、部屋の中へ。茶髪の長髪を髪留めで挟んだ看護師はそのまま奥の隅にあるデスクへ向かうと引き出しからタブレットを取り出した。視線を落として操作をしながら彼女は男の元へ。


「お待たせしました。私は外科特殊術式ピート第三者チームの看護師をしていますおうちあずさです」


 自己紹介をした後に一礼し「失礼します」と椅子に腰を下ろした。そしてタブレットへ一度視線を落とし名前を改めて確認した。


「羽崎俊雄さんでよろしかったですか?」

「はい」


 返事を貰うとタブレットをテーブルへ。


「では早速ですが外科特殊術式ピートからご説明させていただきます。まずピートとは、Phantom Embodiment Annihilation Technique。日本語では幻躯討滅術げんくとうめつじゅつといいます。簡単に内容をご説明させて頂きますと、特殊な手法を用意る事で灰夢界かいむかいと呼ばれる患者さんの内側へと専門医師を送り込み病巣を物理的に討滅することで治療を行います」


 しかし当然ながら羽崎は首を傾げるだけだった。とは言え梓もその反応は想定済み。更に説明を続けた。


「詳しい原理を説明すると専門的で複雑になってしまうので省略させて頂きますが、無事に成功すればその時点で完治します。ですが魔法のような術式ではありませんし、未だ試験段階で世界的に確立された術式でもありませんので、当然リスクも恩恵同様に存在します。失敗すれば余命を待つことなくそのまま、もし一命をとりとめたとしても病状は悪化し長くても三日が限度でしょう」


 避けては通れぬ説明を梓は真っすぐ羽崎を見ながら落ち着いた声で伝えた。


「そして手術中は麻酔と覚醒の間の状態――灰夢かいむ状態となり、その間も羽崎さんご自身にも負担がかかります。その間は酷い悪夢を見たという報告もありますし、時間経過につれ精神的な消耗が増幅していきます。こちらも素早くかつ出来る限りのご支援はさせて頂きますが、最後は羽崎さん次第という部分も否めません」

「というのは?」

「もし途中で意識を失ってしまわれた場合、その時点で失敗となってしまいます。――ピートとは、暗闇の中で渡る一本の綱渡りのような術式です。しかしその曲芸師達は逆立ちしてでもその道を征する覚悟と技量を持っています。後は、患者さんが最後の希望を我々に託して頂けるかどうか」


 思わずといった様子で羽崎は視線を落とした。不安と葛藤に一筋の希望といった感情の濁流が渦巻いているのだろう、彼の表情は一目で読み取るには複雑なものだった。


「急かす訳ではありませんが、時間の経過に伴い病は力を付けていきますので討滅の時間が掛かってしまったり最悪断念せざるを得ない場合もあるかもしれません。ですのでご決断は早い方がこちらとしても助かります」


 その言葉に依然と変化の無い表情を上げた羽崎。


「もしやるとすればいつになるんですか?」

「こちらとしては明日にでも行えます」


 予想外の返事に羽崎は微かに顔を開いた。


「そう簡単にご決断をするには余りにも人生の掛かった問題である事は理解しております。もしよろしければ、取り敢えず明日の午後にでも予約をしておいて今夜ゆっくりとお気持ちを整理されても構いません。例え明日、心変わりして止める事も可能です。開始の直前まで対応させて頂きますので」

「そう……ですね」


 それすらも決めかねているような口振りだったが、今は言われた通り一度持ち帰る事にした。


「では取り敢えずですが、明日の時間は午後一時頃でいかがでしょうか?」

「はい。それで」

「かしこまりました。ではもし中止か延期のご要望がございましたらお電話でも構いませんので」

「分かりました」

「では上の階までお送り致しますので」


 相手を導くように話を進めた梓は先行して立ち上がるとドアを開いた。

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