第2話「社交界デビューで爆釣れスキャンダル」後編※令嬢、釣った魚を王族の食卓に直載せする。
「うん、美味そう。」
噴水から釣り上げた金色の魚を手に、セレナ(※外見は令嬢、内面は43歳おじさん釣り師)は真顔でつぶやいた。
それは、この世界で“幸運魚”と呼ばれ、滅多に姿を見せない幻の魚。
会場の貴族たちは騒然。
「ラ、ラッキー・ゴールド……!」
「生きてるうちに見る日が来るとは……!」
「なぜよりにもよって、ドレス姿の女が釣り上げるのだ……!」
ざわめきの中、セレナは魚を持ったまま悠然と歩き出す。
「よし、焼くか」
「お嬢様!? どこでですか!?ここは王宮ですよ!?!?」
「問題ない。火は、あそこ」
指さす先には、料理用に控えられていた炭火グリル。
さすが社交界、ケータリングは充実している。
「これは……炭の状態、かなり良いな。炭火直焼きでいける」
まるで旅館の板前である。
◆魚、王家に直送される
火をおこし、魚を焼く。
漂いはじめる、香ばしい香り。
セレナの目は真剣そのもの。
高貴な令嬢が、真顔で魚を串に刺し、無言で焼いているという謎光景。
――そして数分後。
「できた」
ふわっと漂う、黄金色の焼き魚の香り。
その香りに、ついに王族も動く。
「……あの、そこのセレナ嬢?」
声をかけてきたのは、第一王子リヒト・アスフェリア。
青髪の爽やか王子。
乙女ゲームの攻略対象ナンバーワン。
だがこのとき、彼の顔には困惑しかなかった。
「その、焼いておられるものは……」
「魚だ」
即答。
「……どこで?」
「さっき噴水で釣った」
「えっ」
王子、思考停止。
「焼き加減、完璧。尻尾がぱりっとしてるだろ。君、食べるか?」
「……えっ。い、いや……王族として……その、衛生面が……」
セレナは迷いなく、そのまま魚を彼の皿の上に直載せした。
「食え。うまいぞ」
王子、限界突破。
◆そして“奇跡”が起こる
だがそのとき。
魚の香りに誘われて、後方から一人の人物がやってきた。
それは、王子の母、王妃アメリア・アスフェリア。
「まぁ……いい香りねぇ~。これ、あなたが焼いたの?」
セレナ「はい、釣って焼きました。シンプルにして至高」
「いただいてもいいかしら?」
「どうぞ。ヒレに塩が乗ってるとこが美味いです」
王妃、魚にかぶりつく。
──数秒後。
「……ぷふっ。あっはははははっ!!! これは、これは……!」
まさかの爆笑。
「こんな馬鹿みたいなことを、こんなに真剣にやるなんて……! 私、大好きよ、こういうの!」
場の空気が、がらりと変わった。
王妃の一言で、会場の重苦しさは一瞬で霧散し、
「セレナ嬢、面白いじゃないか!」
「焼き魚食べてみたい!」
という空気が満ちていく。
◆貴族たち、釣りに目覚める
貴族たちは手袋を外し、
金のフォークを置き、魚を手づかみで食べはじめた。
「うむ、香ばしい! 外はパリパリ、中はふっくら……!」
「魚に骨があることを初めて知ったぞ……!」
「骨をよけるこの感じ、人生だな……!」
※貴族たちの味覚が浅すぎる。
◆エピローグ:魚で社交界を征服する令嬢
舞踏会終了後。
セレナは、大量の使用人たちにより**“全身燻製のような香り”**とともに帰還。
エリシアは泣きながら叫ぶ。
「お嬢様ァァァ……もう、王妃陛下が“魚の会”とか言い出してますぅううう!!」
「ふむ……それはいい流れだな。次は校内にも釣り池を作りたい」
「どこまでいくんですかあなた!!」
セレナは答えた。
「俺の人生、まだまだ“爆釣モード”だ」