第2話「社交界デビューで爆釣れスキャンダル」前編※釣り人による社交界破壊コメディ、開幕。
王都・エレスタリア。
その中心にある大広間、ローゼンシュタイン宮殿では、
今宵一夜限りの社交界舞踏会が開かれようとしていた。
貴族たちが着飾り、美酒と音楽と笑い声が飛び交うこの場所に――
とんでもない異物が投下される。
金髪碧眼の美少女。
エメラルドのドレスに身を包み、優雅に微笑むその姿は、
名門グランディエール家の令嬢――
……だが、中身は釣りバカおじさん(43歳)である。
「ねえエリシア。あの噴水、釣れそうじゃない?」
「やめてくださいお嬢様、絶対にやめてください。ここは社交界です!!」
控えの間で既にこれである。
セレナ(※外見は完璧な令嬢)は、今日の舞踏会にどうしても気が進まない。
なぜなら「ドレスのまま川に入れない」からだ。
「いや、あの水の流れ方……下に小さな排水路がある。
ってことは回遊魚が引っかかって……ウキなしでも反応取れそうだな……」
「釣り師の目で噴水を分析しないでください!!」
メイドのエリシアが涙目で止める中、扉が開かれ、舞踏会の時間が訪れた。
◆セレナ、社交界へ爆誕
「おお……あれがセレナ嬢か……」
「先日の事故の噂があったが、まさかここまで美しくなられるとは……」
貴族たちが囁く中、セレナは堂々と入場。
気品も仕草も完璧。外見だけなら文句なしの“王都の華”。
しかし──
(ダンス? 知らん。誰が相手だろうが魚のほうが興味ある)
(っていうか、あの柱の下、ヌメってないか? ウナギいるんじゃ?)
目が泳ぐ泳ぐ。視線が完全に“水辺サーチモード”に入っている。
「セレナ嬢、私と一曲……」
「ごめん、ちょっとウキ見てた」
「えっ?」
「違う違う!浮いてたの!ドレスの裾が!うっかり!」
完全に釣りワードが出かかって誤魔化す。
◆そして、噴水事件発生
そのとき。
──ピチャッ。
音がした。
水面に、小さな魚が跳ねた。
それを見た瞬間、セレナの中の釣りおじさんが覚醒する。
「……いるな」
「お嬢様!? やめて!この場で噴水を見る目じゃない!!」
「エリシア、釣り糸ある?」
「ないです!!!」
だが、セレナは歩き出した。
貴族の視線を受けながら、舞踏会の中心に据えられた大理石の噴水へと。
「──よし、直下狙いで沈めるか」
「やめてえええええ!!」
◆美少女が釣り針を垂らす光景
使ったのは、髪飾りから外した細いチェーン。
そこに、ブローチの針をくくりつけて即席の針に。
まさかの貴族ドレスを釣り具にクラフト。
「エサがない……いや、あった」
胸元の花飾りから造花の花弁をもぎ、エサ代用。
投入。
──ぽちゃん。
「来る……」
「お嬢様ァァァァアアア!!?」
静まり返る舞踏会会場。
音楽が止まり、演奏家が指を止める。
貴族全員が見る中で、
悪役令嬢が噴水で釣りをしている。
◆ヒット。そして地獄へ。
突如、チェーンが引かれた。
「キターッ!!!」
美少女の叫びが王都に響く。
セレナは優雅に竿を振り上げ――
バシャッ!
出てきたのは……なぜか金色の魚。
しかも尾びれがハート形。
「な、なんと! 王都の“幸運魚”……!?」
「まさか令嬢がこの場で釣りあげるとは……!」
「これ……吉兆……?」
空気が一変。
ざわつく貴族たち。困惑の中に感動が混じる。
セレナ、ドヤ顔。
「うん、美味そう。」