4.新生活、始まります。
「今更になるが、キャシーが俺の婚約者となる。俺のことは‘レイ’でも‘レイリー’でもお好きなように呼んでくれ」
本当に今更なんだなぁ。今更レイリー様を見ると、赤毛に黒目の美形。辺境伯で騎士団長をしているという事ですから、体も筋肉で締まっているようです。
この邸の人たちは皆ローブを着ているようです。制服なのでしょうか?
「キャシーには伝えておくか……。この辺境は魔族が出る」
魔族とは童話とかではなかったのですか?
「そこでだ。辺境に暮らす人間はどうにか魔族との共存を望んだんだな。この結果がコレだ」
レイリー様を始めとして働く皆様もローブを脱いだ。
「先祖返りというのか、体の一部に魔族の証のようなものがある。俺は角だな」
エマは悪魔のような尾が生えている。正直なところ、可愛いと思うのですが、不謹慎ですね。本人はコンプレックスのようですから。
ナーヴァにもリドルにもどこかしらに‘証’となるようなものがあった。
「私は足の甲にちょっと鱗があるくらいで可愛いもんだけどね」
と、ナーヴァは言うけど。他の使用人さんの中には見るからに「私は魔族」というような感じの方もいるので、なんとも言えません。
「えーっと、私は気にしませんけど?見た目よりも貴族なんか腹黒で、そっちの方が恐ろしいですよ。私には王都の貴族の方が怖くて嫌いです」
私の言葉は、この邸の皆さんのコンプレックスを軽くしたようで、何よりです。
「うん、流石は俺が選んだ婚約者だけの事はあるな。キャシーの他の姉妹だったらこんな反応はしないだろう。俺はキャシーのこういうところが好きなんだ」
レイリー様のドストレートな言葉にドキドキが止まりません。
「それと、辺境の地では強者こそが全てだ。国境は目の前だしな。魔族の証となるものを見せると退いてくれるんだが、辺境には魔族が出る。キャシーは邸の誰かと行動を共にするように!」
ここに来るまでの山登り、地味に危なかったんだ。気を付けよう。
「わかりました。侍女であるエマが適任かと思います」
私に名指しされて、戸惑い赤面しているが、可愛いなぁと思ってしまう。彼女とは姉妹のように仲良くしたい。姉妹といっても、実家の姉妹とは違います。もっとお互いを想い合うようなそんな関係です。
「そうだな、専属の侍女だしな」
「それと、国境に接しているからか、賊が多くてなぁ。気のいい奴らもいるんだが」
「そうでない人たちもいるという事ですね?」
「そういうことだ。そういうわけで、最低限の護身術は身につけてほしい。うーん、講師はリドルが適任かと思うのだが?」
「旦那様からのご指名とあらば、動きます。ええ、この老骨に鞭を打ってでも!」
やる気は凄いと思います。老骨?リドルはまだ老年にはとても見えないのですが?
「リドルはこう見えて60才を超えている。魔族の血が混ざっている影響か?辺境の人間は長生きだ。それと見た目よりもずっと年上だ。あ、レディに年齢を聞くのはマナー違反だったな」
―――レイリー様、昔何気なく聞いて痛い目にでも遭ったんですか?
エマと姉妹のようになりたいと思ったけど、エマの方が姉なのかしら?そんなことはどうでもいいんですけどね。
「では、キャシー様今日はお疲れでしょうからお休みください。お部屋の方へ案内します」
と、エマに言われた。迷子になるよりいいか。ここ広いし。
何この部屋?広いんだけど??
「うふふっ、キャシー様がどのようなものが好みなのかわからないものの、侍女達で設えてみましたが何か気に入らないものでも?」
「いえ、実家にいた頃よりもはるかに広くて、清潔で―――私好みです!」
「まぁ、よかった。お疲れでしょうが、湯浴みをなさってください。侍女達によるマッサージなども行いますので、何かご不満があればおっしゃってください」
私は侍女達に脱がされ、湯船に入れられました。同時進行で頭皮マッサージなどもおこなわれたようですが、不覚にもその時点で入眠してしまったようです。
魔族の血が混ざってるから力持ちなんでしょうか?そんな私ですが、湯船から引き上げ、ナイトウェアを着せて、寝台に寝かせつけていただきました。うっすらと記憶にあります。
男前ならなんでもアリでは?コスプレみたいで可愛いですよ~