第3話 魔族狩り勝負
王国歴999年、3月3日――バースカリア大陸中部、レーゼ村。
午前11時30分――レーゼ村、宿屋1階の酒場。
その姿を見るなり、ラムは露骨にため息を落とした。
「亀よりノロマな無能コンビが、ようやく到着か。退屈すぎて死ぬかと思ったよ」
木製のテーブルに頬杖をついた状態で、十代半ばの少年がこちらを見返している。
金髪碧眼の天才魔導士、リカルド・クルーティアその人である。
リカルド――リックは、少女のような華奢な身体をだらしなくテーブルに突っ伏しながら、
「僕が宿を出てから、いったい何時間経ったと思ってるんだい? まったく、お師匠様の命令でなければ、きみたちのような愚鈍で無能な――――がぶぅ!?」
「……あ」
と、いう間の出来事だった。
テーブルに突っ伏していたリックの頭に、ルルゥ・アーネストリーの強烈なかかと落としが突き刺さる。彼の意識はそのまま、深い海の底へと沈んで消えた。
ラムは半眼で、本日二度目のため息を吐いた。
と、何事もなかったかのように、涼しい顔してルルゥが言う。
「おなか減ったー。とりあえず、ご飯食べよ。リックが起きたら、作戦開始ね」
リックが目覚めたのは、それから二時間が過ぎたあとだった。
◇ ◆ ◇
同日、午後1時28分――レーゼ村、宿屋2階の客室。
「なぜもっと早くに起こさなかったんだ!? 一時間以上もタイムロスしてるじゃないか!」
と、言われても。
「……起こしたけど? 起こしたけど、起きなかったの。……あんま無理矢理起こすのも可哀想だし」
「可哀想だと!? ヒトの頭にかかと落としといて、可哀想もクソもあるか! 気にするポイントがゼラス爺さんのカツラくらいズレてるんだよ、キミは!」
「ゼラス爺さんって、誰?」
「だからそういうところだよ! 今のはそのまま流せよ! ゼラス爺さんとか、どうでもいいんだよ! ズレてるって箇所に心を留めろよ!!」
どうでもいい。
どうでもいいと言いながら、でもリックの顔は若干赤くなっていた。ちょっと恥ずかしかったらしい。
ラムは、言った。
「そんな熱くなるなよ。一時間くらいたいしたロスじゃないって。今日中にこの辺に巣くう低位魔族を一掃すればいいんだろ? 師匠からの指示は――」
「今日中に、じゃない! 一分一秒でも早く、だ! 別の班も似たような指示を受けているんだぞ! 勝敗は評価に直結する!!」
「直結するという根拠は? 師匠は一言もそんなこと言ってなかったぞ。それはおまえの想像だろ?」
「ああ、想像だ! だが、こんなこと誰にでも想像がつく話だろ!? 目的が単なる魔族退治なら、みんな一緒に行ったほうが効率的だしリスクも少ない! 三班に分けられた時点で、そいつはつまり競争なんだよ! 一週間後の、審判に向けてのな!」
そうまくし立て、リックが「ばしんっ」と丸テーブルを平手で叩く。
ラムは「やれやれ」と鼻息を落とした。
と、そこでルルゥが割って入るように、
「まあでも、確かに言われてみれば、リックの言うことにも一理あるかも。少しでも早く殲滅して、少しでも早く帰還する。それやって、マイナスになるってことはないしね」
「評価に関しては、まあそうかもしれないが。が、相手は魔族だ。殲滅を焦るあまり全滅しちまった、なんて笑えない結果に陥らないように――」
「ふんっ、なんだ? ビビっているのか? ただでさえお荷物なのに、ビビり癖まであるんじゃたまったものじゃないな。ラムダ、キミは――――ああいや、良いことを思いついたぞ。これならば、より短い時間で魔族を狩れて、なおかつ僕の鬱憤も晴らせる。一石二鳥だ」
何を――。
と、そう訊く間もなく。
リックは、意気揚々と自身のプランをその場にさらした。
「競争だ。三手に分かれて、誰が一番多く魔族を狩れるか、そいつを競い合おうじゃないか。全員、バラバラに行動すれば時短にもなる。どうだ、いい考えだろう?」
あきれるほどの幼稚なプランに、骨の髄まで驚愕する。