第21話 大器晩成のアビリティを持って生まれた男
王国歴999年、4月17日――バースカリア大陸南部、ロドリゴ村。
午後7時10分――ロドリゴ村、大通り。
ラムは、歩いていた。
ローフィ、ロゼと並ぶようにロドリゴ村の夜の大通りを。
「なんでついてきたんだ、おまえは?」
隣を歩くロゼを半眼で見下ろし、ローフィ。
ロゼはほんの少しだけ、ムッとしたような表情を浮かべ、
「特に理由などありませんが。迷惑ですか?」
「迷惑ってわけじゃないが、ルルゥやステラと行動したほうがおもしろいだろ?」
「いえ、わたしはローフィさんと行動するのが一番楽しいです。楽しいというか、なんか落ち着きます」
「落ち着くって、オレはおまえの親父じゃないんだぞ? まあ、別におまえが良いならいいけどよ。それより、ラム――」
と、唐突に話の矛先がこちらに向く。
ラムは慌てて、ローフィのほうを向いた。
「前から気になってたんだが、おまえ……対魔族になると異常に強くならないか?」
「…………」
想定外の言葉だった。
まさかこのタイミングで、そんなことを言われるとは思いもしなかった。
逡巡。
どう答えようか、ラムが迷っていると、
「それはわたしも前から思っていました。魔族を相手にすると、ラムさんは毎回無双します」
ロゼまで、その話に食いついてきた。
「リカルドさんを相手にしたときもすごかったですけど、あれは戦術面を含めての総合的なすごさです。他方、対魔族のラムさんは物理的にやばいです。硬くて有名な低位魔族の『バルムンク』を下級魔法一発で仕留めたときは自分の目を疑いました。不覚にもちょっとカッコいいとすら思ってしまいました。ローフィさんが上級魔法二発当てて、やっと倒した相手なのに」
「……いや、それわざわざ言わなくても良くない?」
ボソリと、ローフィ。
ラムはそこでようやくと、思いついた言い訳を披露した。
「……ああ、なんか知らないけど魔族相手だと感情が異常に高ぶるんだよなぁ。もしかしたらそれで、普段は無意識のうちに抑えてる力が抑えきれずに暴走しちまうのかもしれない。火事場の馬鹿力ってヤツ? だから毎回、魔族狩りのあとは筋肉痛の嵐だよ。使っちゃいけない力を使っちまってる反動だろうな」
「なるほど。それは便利なようでいて、めちゃくちゃ不便な体質ですね。でもこれで、ラムさんの潜在能力は化け物クラスだということが判明しました。ローフィさん、手を打つなら今のうちですよ?」
「いやオレに何をやらせるつもりだ? 弟子同士の私闘は、一発破門の禁忌だろうが。オレとラムを同時に体よく排除して、セコく漁夫の利を得ようとするなっ」
コツン、とローフィに軽いゲンコを落とされるが、ロゼは悪びれた様子を微塵も見せなかった。
彼女はゲンコを落とされた頭頂部を軽く手のひらでさすりながら、
「でも、それとは別にラムさんは成長度合いもすごいですよね。最初はダントツで一番ダメダメだったのに、今ではローフィさんとそんな強さ変わらないくらいまで成長してます。あと数週間で、ローフィさんを追い抜くこと請け合いです」
「いやだからなんでオレを比較対象に使うんだ? おまえらだって似たようなモンだろうが。まあ確かに、ラムの成長スピードが並じゃないってのは事実だが」
「ああ、それについては俺も純粋に驚いてるよ。日々成長を実感してる。師匠の教えが素晴らしいのもあるが、どうやら知らず『大器晩成』のアビリティを持って生まれてきちまったらしい。単なる体質だ。悪く思うなよ?」
「悪く思うわ。まったくうらやましい奴だぜ。オレはそろそろ、頭打ち感を実感してきてるっつうのに。ルルゥやロゼもそうだが、おまえは特段――」
と、言いかけ、だがローフィの言葉がその箇所で不自然に止まる。
彼はおもむろに視線を周囲に走らせると、
「……あれ? ロゼのヤツ、どこいった?」
「……え?」
受けたラムも、すぐさま周囲を見まわす。
いない。
いつのまにか、本当にいつのまにか、ロゼの姿が消えていた。
ほんの数十秒前まで、会話しながらローフィの隣を歩いていたのに。
彼女の姿は、今やどこにも存在しなかった。
「まったく、あの奔放娘が。まさか蝶々でも追いかけていったんじゃなかろうな?」
「そこまでのガキじゃないと思うけどな。まだそんなに遠くには行ってないはずだ。手分けして探そう」
言って、ラムは踵を返した。
そのまま、ローフィとは別の方向に歩を進める。
が、二歩と進んだところで、彼は停止の憂き目にあった。
「あれ、ラム? なんであんたこんなトコにいんの? ローフィも」
響いたのは、ルルゥの声。
数メートル先の曲がり角から、ステラと共に姿を現した彼女は、
「ロゼと一緒じゃなかったの? さっきロゼが森のほうに歩いて行ったの見たから、てっきりあんたたちはその前を進んでるんだと思ったんだけど……」
「森のほう? なんだってそんなところに……。相変わらず、訳の分からんヤツだな」
そう言って、後方にいたローフィがこちらに近づく。
彼はそのまま、ラムの真後ろまで歩み寄ると、その場にいる全員に向かってため息混じりに言い放った。
「まだ二分も経ってない。森の中に入られると探し出すのが骨だから、急いで追いかけよう」
その『骨』となる事態に結局なってしまうとは、このときの彼らにはまだ知る由もなかった。




