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第19話 パセリを金塊のように思っている女


 王国歴999年、4月17日――バースカリア大陸南部、ロドリゴ村。


 午後6時30分――ロドリゴ村、宿屋1階の食堂。


「ごちそうさまでした」


 ルルゥがそう言って、空になった食器の前で両手を合わせる。


 ラムは彼女が上機嫌であると刹那のうちに理解した。二か月近く昼夜を共にすれば、それくらいのことは分かるようになる。


 理由も明白だ。


 夕食が美味しかったから――おそらくはそれだけである。


 ルルゥは思っていた以上に単純で、裏表が少ない。最初はもっと付き合いづらいタイプなのかと思ったが、まったくもってそんなことはなかったことにラムは最近になってようやく気づいた。


 ステラとロゼにしても同じである。彼女たちは生まれついてのエリートだが、それを鼻にかけることはほとんどない。


 正面の席に座るローフィに至っては、自分自身をエリートとさえ思っていないような節があった。


 四大名門、フィス家の次男坊という立派な肩書があるのだが。


 とまれ。


「それじゃ本題に入るが――」


 そのローフィが、おもむろにそう切り出す。


 彼はその場に集まる面々を順繰りに見やって、


「オレとラムが朝から村中を調べまわった結果、この村には現在三十七人の住民がいることが分かった。オレたちのような一時的に立ち寄っただけの旅人は数に入れてないが、それでも三十七人だ。三十七分の一ってのは、イチかバチかでやれる確率じゃない」


「イチかバチかでやるって、それ二分の一でも絶対やっちゃいけないやり方だろ?」


「ラムさんの言うとおりですわ。ローフィさん、冗談でも言っていいことと悪いことがあります」


「そうですね。ローフィさん、罰としてパセリとアップルパイの交換を要求します」


「いやなんでだよ!? おまえはなんで毎回パセリで大物を釣ろうとするんだよ! いいかげん、無理だと分かれや! パセリはただの飾りなんだよ!」


 両腕で、ロゼからアップルパイの皿を守るように隠し、ローフィ。


 それを見たルルゥが、ため息混じりに言う。


「どうでもいいけど、まずは『見分ける方法』っていうのを推測するのが先なんじゃないの? それがハッキリしないかぎり、動くこともできない。あたしの知るかぎり、あたしたち人間との違いは()()()()()()()()()()()()()()ってことくらいだけど、ほかに何かありそう?」


「ああ、それは散々考えたがハッキリ言ってサッパリだ。そもそも王都の騎士団ですら、見分けるすべは持ち合わせちゃいないって話だからな。先生くらいなんじゃないか、()()()使()()()()()()見分けられるのなんて」


「じゃあ、まずはなぜ師匠(せんせい)なら見分けられるのか、ってところから推測していくか。考えられる可能性は?」


 改めて、といった形でラムがそう問うと、すぐさまそれに対する反応が四方八方から返ってきた。


「お師様がテキトー言ってる可能性は? またまたそんなお茶目なご冗談を、という具合に」


「先生は何度かヒト型魔族も狩ったことがあるだろうから、その共通点を知っているんじゃないのか?」


「そんな分かりやすい共通点があるんだったら、王都の騎士団とも共有してるんじゃない?」


「魔力に微妙な差異があるという説はどうですか? 人間とヒト型魔族とでは魔力の質が違う。高魔力を誇るリーナ先生だけがその違いを感知できる。これならば、共有しない理由も説明できます。感覚的なモノは共有しようがありませんから」


「…………」


 ステラの説は、もしかしたらありえるかもしれない。


 が、だとしたら、なおさら自分たちではどうしようもない。


 いや、()()()()()()()()()()()()()


師匠(せんせい)に師事してから、二か月近くも経つ。もしかしたら、自分たちでも気づかないうちに、俺たちにもそんな『感覚』が備わってるんじゃないか?)


 可能性はゼロではない。


 誰にその感覚が芽生えているのか、それを確かめることが今回の任務の真の目的という可能性も。


 ラムは、細く長い息を吐いた。


 と、ちょうどそのタイミングで、宿屋の女主人『ファニー・メイ』が現れる。


 彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべると、


「すみません、離れにいる父に夕食とお薬を持っていかなければならないので、しばらくのあいだここを空けさせていただきます。十分程度で戻ってくる予定ではありますが、その前に何かご用件などはございますでしょうか? お飲み物のおかわりなどありましたら――」


「平気。気にしないで。用事は特にないから、そんなに慌てて戻ってこなくてもいいよ。お父さんのところにできるだけ長くいてあげて」


 軽く右手を上げて、ルルゥがそう答える。


 その間、ラムはファニーの姿を穴が開くほど凝視したが、そこからオーラの類などが見えることはいっさいなかった。


「お気遣いありがとうございます。それでは、行ってまいります」


 ルルゥの言葉に、ファニーが嬉しそうに頭を下げる。


 と、そのまま彼女が立ち去ろうとした瞬間、だがローフィの口から最後の確認が放たれる。


 それはラムが思ってもいなかったような、想定外の確認だった。


「変なことを訊くようだが、寝たきりっていう親父さんときみは()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 たった一夜の、ヒト型魔族探しが本格的にスタートする。

 


 



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