第13話 ルルゥ・アーネストリーVSステラ・リード
王国歴999年、3月23日――バースカリア大陸中部、レリーク地方。
午後2時28分――レリーク地方、ヘルムッセン荒野。
ラムは、観ていた。
観客の体で、ルルゥとステラの戦いを。
「体調、平気? 風邪、またひいてるとかない?」
「ご心配には及びません。万全です。昨日は十二時間以上眠りましたわ」
「なら、遠慮はいらないわね」
「ええ、遠慮などいりません。ルルゥさんこそ、大丈夫ですか? ここ最近、わたくしの試験問題第二弾を夜中まで考えてくださっているとラムさんに聞きましたが」
「平気。昨日はそれなりに寝たし、何よりあたしはあんたみたく貧弱じゃない」
「そうですか。それならば、遠慮はいりませんね。全力で行かせていただきます」
「上等。あたしも初っ端から飛ばしていくから、覚悟しなさいよ。まあでも、王都に在るあんたのファンクラブの男の子たちに恨まれるのも怖いから、顔だけは狙わないでおいてあげるけど」
「それはお優しいことですね。では、わたくしも顔だけは狙わないでおきますわ。ルルゥさんの可愛いお顔に傷をつけてしまっては、ファンの男の子たちに申し訳ないですからね」
「そう。ならお互い、首から下だけが的ってことで。ま、見目麗しいあんたと違って、あたしのファンなんてお父さんと弟くらいしかいないけど」
ルルゥのその言葉を区切りに。
二人のあいだの、空気が変わる。
戦いが始まるのだと、ラムには分かった。
そうして、そのとおりに戦いが始まる。
それは想像を絶する、超絶ハイレベルな決戦だった。
◇ ◆ ◇
同日、午後2時53分――レリーク地方、ヘルムッセン荒野。
「ダム・ブラスト!」
「ゲイル・ファング!」
ルルゥとステラ。
二人の戦いはもう、かれこれ二十分以上も続いていた。
その間、どちらも致命的なダメージは受けていないし、与えていない。
息を呑むほどの、ハイレベルな攻防だった。
「二人とも、やりますね。火花散る熱戦という感じで、目が離せません」
「……おまえたちの戦いは、これ以上ないほどの凡戦だったけどな」
ふむふむ、といった様子でほざくロゼに、とりあえず一言。
と、ラムはすぐさま、視線をロゼから渦中の二人へと移した。
が。
「まあ、良い戦いであるのは認めるよ。さすがに二人とも、エリート魔導士なだけはある。僕ほどではないにしてもね」
今度は逆側から、リックが棘のある戦評を放つ。
彼はそのまま、言わなくても良いことまで付け加えた。
「ラム、きみには凄まじい戦いに見えるんだろうね。はるか各上同士の戦いは、実際以上にすごく見えるものだ。序列最下位のきみからしたら、二人が『先生レベル』に見えていても不思議はない」
「いや、さすがにそれはないよ。おまえよりは、でも滅茶苦茶すごく見えるけどな」
「――――ッ!」
リックの目が、野獣のように見開かれる。
ちょっと挑発しすぎたか、とは思ったが、まあどうでもいい。
ラムは今度こそ、二人の戦いに意識を集中させた。
と。
「――――っ!?」
そのタイミングで、動きが生じる。
ステラの放った上級魔法をかわした際に、ルルゥが目に見えてバランスを崩したのである。
ステラは、その『一瞬』の隙を見逃さなかった。
「四精招来――」
言葉と共に。
彼女が伸ばした腕の先――。
何もないその『空間』に、突如として六芒星の『魔法陣』が浮かび上がる。
最上級魔法を生み出す、光の魔法陣である。
(……このタイミングで、最上級魔法を放とうってのか? 確かに当たれば、勝負はその瞬間に決まるが、でも……)
最上級魔法。
放つのに詠唱を必要とする、超高火力のハイ・マジックである。
威力は文字通り、最高峰のそれだが、一度詠唱を始めたら途中で中断できないという大きなデメリットもあり――。
「南方より来たりて秋空を乱し――」
が、ステラの詠唱は始まる。
それらの懸念などまるで意に返していないかのごとく、彼女は滔々と乾いた空気にその文言を晒して流した。
「嵐天より降りて、熱き死風と化せ――」
終結。
ステラ・リードは満を持して、トドメの口を大きく開いた。
「ノト――」
「フィックル・ガスト!」
ビュン!!
「――――っ!?」
突風。
文字通りの、突然と生まれたその撃風が、ステラの身体を一瞬間ではるか後方まで吹き飛ばす。
ラムは、唸った。
見事だ。
見事なだまし討ちだ。
完全無防(最上級魔法を発動する直前で)だったステラは、そのたった一発の下級魔法によって見るも無残に意識を散らした。
ルルゥは――その突風の生みの親、ルルゥ・アーネストリーはそんな彼女を豪気に見下ろし、どうだと言わんばかりに勝利の言葉を投げ放った。
「バランスを崩す振りをすれば、あんたなら安直に最上級魔法を使ってくるだろうと思った。先生、舐めんなっ」
「勝者、ルルゥ!」
上がったリーナの右手が、ルルゥの勝利を宣言する。
そうしてついに、ラムダの番が訪れる。