dog覚醒…<2>
俺はその時、自分が既にタヌキックの姿をしていないことに気がついていた。
自分で擬態を解いた覚えはない。
つまりこれは、俺の姿がオートで変わっているということだった。
しかし、俺はこんな姿の魔物は知らない。
知らない魔物に何故擬態をすることができるのか?
俺は、何故か生まれた時から大体の魔物に擬態をすることができた。
頭の中に、最初から記憶されていたからだ。
だから吸血鬼のことだって知ってるし、なろうと思えばその姿に擬態することもできる。
だけど、自分の意思とは関係なく擬態することなんて今まで一度も無かった。
それも、知らない魔物に…。
だが俺は、何となく直感で気がついていた。
この能力は、自分に芽生えた新しい能力…
限界を越えた怒りを味わうことによって生まれた、新種の魔物…
いうなれば、この姿こそ、[dog]の最終形態と呼ぶべきか。
…ッフ
今まで自分じゃない魔物であいつと生活してきて
あいつが死んだ途端、そのおかげで本当の自分の姿を知ることができた
…できればあいつにも、見てほしかったな。
いや、あいつが笑っていられたのは俺が【タヌキック】というイノセント(無害な魔物)だったから。
こんな怒りから生まれたような姿なんて見ても、きっとあいつは笑ってくれない。
いや…そもそもあいつはもう…
「フ…フフ…」
このどうしようもない怒りを、どこにぶつければいい?
一体この哀しみを、どこに…
俺がそう思っていると、目の前のクモの魔物達はある者は糸で捕まえようと、ある者はそのままその八本の足を開いて、俺に飛び掛かってきていた。
こいつらでいいか。
怒りや悲しみ。そういった類の感情が増して行くのと比例するかのように更に自分の姿が変わっていくのを、俺は確かに感じていた。
【change】
…なんだ?
外が騒がしい…?いや、この音の大きさはこの屋敷内で何かが起きていると見てよさそうだな…
「おいお前」
俺は側にいた下僕を一人指差し、怯えるそいつに向けて「屋敷の中が騒がしいから、少し見てこい」と伝えた。
その際そいつは頭に疑問を浮かべたような顔をしていたが、やはり俺様が怖いからか、直接聞くことはしなかった。
まぁ無理もない…「耳がいい」と言うのも吸血鬼の能力のうちの一環の一つ。他のヤツ(魔物)には聞き取れない周波数の音も聞き取ることができるから、どんなに遠く離れた場所でも、全神経を耳に集中させれば、2km先の囁き声くらいまで聞き取ることができる。
これは中々便利で、この能力を使ってあのタヌキの所有する人間の発する「音を見付ける」こともできた。
だから下僕どもには聞こえる筈も無いから、不思議に思うのも仕方ない。
しかし、だからこそおかしい…
こんな2km先の音まで把握できる耳を使っても、この屋敷の中の「音」の出所を特定することはできない。
この屋敷の中というのは明らかなのだが、何か大きな力に邪魔されて聞き取れないという感じがする。
この山に、そんな膨大な魔力を持った悪魔は絶対にいない。
いるとしてもAの下級やBの上級くらい。そんなやつらに、俺の能力を防ぐことなど出来るはずがない。
ましてやその魔物も俺の下僕であるから、あいつらが屋敷の中で騒ぐ等と俺様のカンに障るようなことを、万が一にもするわけがない。
だとしたら…。
……
「わけがわからん…」
俺様はとりあえず、一度考えるのを止め、偵察に行かせた下僕の魔物が報告に帰ってくるのを待つことにした。